表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/25

春川楓

帰りのチャイムが鳴る直前、春川楓は静かにペンを置いた。友達の何気ない笑い声、廊下の向こうから聞こえる先生たちの雑談――そんな“いつもの放課後”が、今日も始まる。

 

「かえでー! また今度、例のカフェ行こ!」「え〜やだ、また抹茶フロート頼むんでしょ」「ちょっと! それ言わないの!」

笑いながら、冗談を交わす声。楓はその輪の中にいる。いつもどおりの、明るくて、元気な、よく笑う春川楓として。

 

でも。

 

「また明日ねー!」と笑顔で手を振って、教室を出た瞬間、彼女の笑みはすっと静かに消えた。

 

無理をしてるつもりはない。でも、誰かにとっての“いい子”でいることは、少しずつ、自分の中を空っぽにしていく。

そんなこと、きっと誰にも言わない。……言えないだけかもしれないけど。

 

 

空は曇っていた。昨日の夜に降った雨の名残が、道路の隅にまだ少し残っている。制服のリボンを緩めながら、楓は帰り道を歩き出した。

 

途中で、制服のポケットから取り出した小さなガムを口に入れる。ほのかにミントの香り。吐き出すようにため息をついたそのとき――

 

ふと、視界の端に「違和感」がよぎった。

 

並木道の先。ベンチのそばに、人影のようなものが倒れている。

 

……人? まさか。酔っぱらい? いや、それにしては小さい。不安が喉の奥を掴むような感覚のまま、楓はゆっくりと近づいた。

 

白いワンピース。濡れた髪。まるで陶器のように静かな肌。

それは、少女だった。裸足のまま、地面に横たわり、目を閉じている。生きているのかどうかもわからないくらい、息づかいがない。

 

「……だいじょうぶ……?」

 

近づいて、そっと声をかける。返事はない。でも、なぜか――怖さはなかった。

むしろ、**“この子は誰かに見つけてもらうのを待っていた”**ような、そんな気がした。

 

意を決してしゃがみ込み、肩にそっと手を置いたそのとき――

 

少女が、目を開けた。

 

 

淡くて、でも深い色。透明に近い淡い水色の瞳が、まっすぐ楓を見上げていた。

けれど、焦点は少しぼやけていて、「目の前にいる誰か」がわかっているような、いないような――

 

「……聞こえる? 大丈夫……?」

 

少女は瞬きをする。それだけで、やっと「生きてる」とわかって、楓は少しだけ胸をなでおろした。

 

「……名前、わかる?」

 

少女は、目を伏せるようにゆっくりと視線を落とした。唇が微かに動いたけれど、声は出なかった。

 

「覚えてないの……?」

 

少女は、ゆっくりと首を横に振った。

 

……やっぱり。この子、どこから来たの?なんで、こんなところに?

 

いろんな疑問が頭をよぎるけど、

一番強いのは、このまま放っておくわけにはいかない、という気持ちだ。

こんな所にいたら誰かに攫われるかもしれないし、危なすぎる。

 

けど、自分ひとりじゃどうにもできない。家に連れて帰るのは……無理だ。それなら――

 

「……一之瀬先生のとこ、行こうか。

わたしの従兄弟のお医者さんなの。

信頼できるよ」

 

呟くようにそう言って、楓は立ち上がった。少女に手を差し出すと、少女は一瞬ためらって――それから、そっと手を伸ばしてきた。

 

その手は、氷みたいに冷たかった。けれど不思議と、怖くはなかった。

 

風が吹いた。二人の髪をやさしく揺らすような、涼やかな風。

 

――そして、その風の中で、ほんの一瞬。鈴のような音が、遠くから響いた気がした。

 

少女は何も言わなかった。けれど、楓の手を、離そうとはしなかった。

 

これからもマイペースに更新していきますので、

章ごとに長さが違ったりすると思いますが、

そのあたりはお見逃しくださいませ。

是非読んだら感想などお寄せください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
初コメ失礼致します! 「放課後のいつもどおりの風景」から始まって、帰り道で少女を見つけるまでの流れがすごく自然です!!だからこそ、白いワンピースの少女が現れた瞬間に読者も一緒に空気が変わるのを感じられ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ