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ホラーシリーズ

悪女へ

 眠っていて下さい。あなたは何も知らなくていい。決して知ってはなりません――


 あなたは目を覚ましました、私の隣で。おはようございます、と声を掛けると、あなたはとても純真無垢に答えて下さいました。「此処は何処……?」

 此処ですか? 校舎の裏にあるカツラの樹の傍ですよ……あなたが風邪をひいてしまわないかと、心配してずっと見ておりました。そうしたら、あなたは今度、私に向かって聞いてきます。あなたは誰、どうしてそんな暑そうな黒いコートを着て、綺麗なストレートの髪を長く伸ばしているのかしら、男のくせに、と……。

 ご(もっと)もですね。貴重なご意見に深く感謝し、有難く頂戴致します。……変えませんけれどね?


 私はあなたを知っています。夏目あおいさん、この校舎の――この中学校の、生徒さんです。よく本を持ち歩いて読書をなさっているのを見かけました。内気だったみたいで、いつも単独行動なさってたみたいでしたね。存じてます。

 私は誰ですって? ふふ、とりあえず格好は人でも、人ではありませんね。“名もない(エダ)”とでもお呼び下さい。ってあれ、何だすぐにバレてしまいましたか。仕方ありませんね、隠すほどでもないでしょう、そうです、私はこのカツラの樹です。お見知り置きを。


 ……あれ? 別の誰かがこちらに来ましたね。セーラーの制服を着ていますので、この学校の生徒ですが……ひとりですね。小脇に抱えているのは何の箱でしょうか、気になります。みかん箱、と明るい赤地に白抜き文字で書かれていたその箱を持って、私の方へと近づいて来ます。何の目的で来たのでしょうか。

 でも変ですね? おかしいことです。見た目に活発そうな彼女は、あなたがまるで眼中にない。完璧に無視をしている、通過している。そうやって通りすぎて、箱を私の足元に――カツラの樹の根元に置いて、去りました。この箱には一体、何が入っているのでしょう? どうぞ、開けてみて下さい、葵さん。


 素敵な贈り物だったら良かったんですけれど。……残念ながら、違ったようです。なかは生き物、可愛らしい仔猫が一匹です。つぶらな瞳が輝いています。

 おっといけない、ついつい猫に手を出してしまうところでした。ははは、食べませんよ。あんまり可愛らしくて、抱き潰してしまいそうです。……嫉妬しないで下さいね?

 どうやら捨て猫みたいです、だって他に考えられませんからね。まさかこの仔に爆弾が仕掛けられているってわけではないでしょう、映画やドラマの見過ぎです。


 え? 許せない? 猫を捨てるだなんて?


 あなたは怖い顔をなさる……でも何てそれも可愛らしい方なんでしょうか。ついこちらも同情してしまいますよ、夏目葵さん。そうですよね、自分の手に負えないからと言って、捨てるなんて身勝手ですよね。怒りも当然です、はい。

 ああ、何処へ? 葵さん、走って何処へ、何処へ行くのですか……

 校門を出てしまって、もう姿が見えません。さっきの女子生徒を追いかけて行ってしまったのでしょうか。だとしたら、彼女に何をするつもりなんでしょう。


 あなたが戻って来るのを、待っています。



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