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校正者のざれごとシリーズ

校正者のざれごと――固有名詞にまつわるエトセトラ

作者: 小山らいか

 人の名前や地名、会社名など、固有名詞は校正において、特に注意を要する。

 以前、沖縄・宮古島へ行ったとき、「平良港」という地名を目にした。「平良」だから「たいら」と読むのかと思いきや、「ひらら」だという。サンゴ礁のきれいなシュノーケリングの人気スポットは「八重干瀬」と書いて「やびじ」と読む。漢字四文字で、読みは三文字。ちなみに「やびじ」と入力して変換したらすぐにこの漢字が出てきた。すごい。

 藤岡弘、さん。芸名に「、」がついている。こういうのはちょっと頭に入れておくと見落としがなくていいかな、などと思う。この「、」にはちゃんと意味があると以前テレビで見たことがあり、ネット上でもいくつも目にしたが、ご本人の公式ホームページで理由が探せなかったので、ここでは触れないでおく。

 この「、」のつく固有名詞ついて考えていて思い出したのが、「株式会社ホテル、ニューグランド」。会社名に読点がつく珍しいケースだという。本社名やホテル名には読点はないのに、会社概要と沿革のみ、この表記を使っている。これも理由を検索してみたが、よくわからなかった。どなたか、ご存じであれば教えてください。

 米津玄師さん。「玄師」は「げんし」ではなく「けんし」と読むそうだ。ルビをつけるとき気をつけないと。ずいぶん字面がカッコイイ。よく考えられた名前だな、などと思っていたら本名だった。

 ちなみに「米津よねづ」はローマ字で「YONEZU」と書くが、ローマ字入力では「づ」は「du」と入力する。ローマ字表記のルールって、どうなってたんだっけ。数年ぶりに、『標準校正必携 第8版』(日本エディタースクール刊)を本棚の奥のほうから引っ張り出す。校正業務で迷ったときのバイブルだ。

「ローマ字のつづり方(1954年12月内閣告示)」のなかには、「ぢ」「づ」は「zi」「zu」と書く、と確かにある。そういえば、沼津ぬまづ河津かわづ焼津やいづも「づ」は「ZU」だよな。いちおうそれぞれの自治体のホームページも確認する。なぜか、思いついたのはどれも静岡県の地名。

 このローマ字のつづり方(標準式=ヘボン式)のルールのなかに「はねる音はnで表す」というのがある。はねる音というのは「ん」のこと。「撥音」ともいう。たとえば銀座ぎんざなら「GINZA」と書く。ただし例外があり、「b、m、pの前ではmを使用する」つまり、日本橋にほんばしは「NIHOMBASHI」となる。

 と、ここまで書いておいて、いちおう日本橋のローマ字表記を検索してみた。すると「NIHONBASHI」となっている。あれ? 「N」になっているじゃないか。

 気になったので、さらに調べてみた。東京都では2015年に『国内外旅行者のためのわかりやすい案内サイン標準化指針』というのができて、それから表記を変えているらしい。さっそく指針のなかを見てみると、さきほどのb、m、pについては「b、m、pの前ではmを用いることができる」とある。つまり、基本は「n」を使用するということだ。地図などは現在のところ両者が混在しているらしい。へえ、こんなふうにルールが変わっていたのか。ちなみに群馬県では、県名は「GUNMA」だが、パスポートの表記は「GUMMA」を使っているという。調べてみてよかった。米津玄師さん、ありがとうございます。

 ちなみに、同じ「津」のつく名前ということで財津和夫さんを調べてみたら、こちらは読みが「ざいつ」なので「ZAITSU」だった。楳図かずおさんは字のとおり「うめず」なのでそのまま「UMEZU」。

 結局、固有名詞というのはやっぱりそのつど調べるしかないんだな、という結論に至った。よく知っている名前でも、意外と思い違いをしていたりすることもある。このひと手間を惜しんではいけない。とくに仕事では。

 私は「小山らいか」としてこうして文章を書いている。もちろんこれはペンネームで、本名はひどく画数が多い。そして、ちょっと変わった読み方をするので初見ですんなり読んでもらえたことがない。子どものころから、まず初めに学校の先生に「これ、なんて読むの?」と確認されていた。唯一正しく読んでくれたのは高校のときの現国の先生で、彼のことはいまでもよく覚えている。

 校正についてこうして文章を書き始めてから、いくつかコメントもいただいた。嬉しくなって、すべてのコメントにお返事を書いた。その中のひとつに、「小山ライカ様」と書かれたものがあり、ほんとうは「らいか」ってひらがななんだよなあ、とひそかに思っていた。でも、どうせ本名じゃないし、せっかくコメントいただいたのにそんなことを書くのは申し訳なくて、気づかなかったことにした。ごめんなさい。どっちでもいいんです。コメント、ありがとうございます。


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