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入れ替わった僕達は、それでも恋をする。  作者: 書峰颯


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第二十九話 僕、毎日が幸せです。

 朝六時、目覚ましを掛けなくても、僕はこの時間に起床する。 

 カーテンを開けると、眩しいぐらいの朝日が目に飛び込んできた。

 

 二階の角部屋って、やっぱり気分がいい。

 着替えを終えて一階へと下りるも、人の気配はなく。


 まぁいつもの事だなと、洗濯機を回した後、僕はエプロンを付けてキッチンに立った。

 毎朝七人分の朝食を作る、量はとてつもなく多いけど、逆に手抜きが許される。

 お弁当は四個、僕と母さんと父さん、それと。


「お、さすが素直、起きるのが早いな」


 事実上の兄となった姫野宮君……もとい、直兄(なおにぃ)の分だ。

 僕の母さんと直兄の父さんが再婚したのだから、自然と僕達は兄弟になってしまった。 

 いい友達になれると思っていたのに、まさか親族になっちゃうとはね。

 直兄としては、嬉しいみたいだけど。

 

 両親が再婚して、早くも一か月が経過した。

 再婚だからと、挙式もせずに書類だけの婚姻。


 それは別に手を抜いた訳でも、一秒でも早く再婚したかった訳でもない。

 死別してしまった僕の父さんや夏帆さんに申し訳ないからと、そう二人は語っていた。


 母さんと治久さんは、亡くなってしまった双方の実家へと、再婚することを報告しに行っている。

 ここまでする人なんていないと、涙を流しながら祝福されたのだとか。


 二人が再婚することで、僕は治久さんの扶養に入ることとなり、苗字も変わった。

 霧暮素直から、姫野宮素直へ。

 苗字が変わった後、母さんに抱きしめられながら、こう言われたんだ。

 

「良かった……これで素直の名前も、インターネットから消えるね」


 言われて、ようやくそのことに気づく。

 僕は気にしていなかったけど、将来を考えたら、デジタルタトゥーは致命傷だ。

 あらゆる面接に落とされる可能性がある。それを回避する唯一の方法が、苗字を変えること。

 合法的に変えられたそれは、法的効力をもって、霧暮素直という人間をこの世から消滅させる。

 

 姫野宮素直と検索しても何もヒットしない、これがどれだけありがたいことか。


「嬉しいけど、私、素直さんと結婚出来なくなっちゃうんだね」


 真冬ちゃんだけは、皆が祝福ムードの中、表情を暗くさせていた。

 両親が再婚するということは、僕は入直君の義弟になり、真冬ちゃんの義兄になる。

 苗字も同じなんだ、誰がどう見ても義兄妹、親族の仲間入りだ。

 けれど、僕はとある事実を把握しており、それを真冬ちゃんに教えてあげようとしたところ。

 

「おい、素直」

「うん?」

「それ、真冬が高校に上がるまでは黙っておけよ」


 直兄によって、教えることを禁止されてしまった。


 真冬ちゃんの成績は、学年トップクラスだ。

 僕との恋愛ごときで、落とす訳にはいかない。

 そうでなくとも、中学生で恋愛はまだ早い。

 せめて高校生になってから、というのが、兄である入直君の意見だ。


 教えようとしたこと、それは〝連れ子同士は、結婚が可能である〟ということだ。

 

 戸籍上、僕は治久さんの扶養に入っている。

 つまり僕と治久さんは親子、第一親等だ。

 しかし、法律上、僕と真冬ちゃんは血縁でも親族でもない。

 悪い言い方をすれば他人、という扱いになっている。


 すなわち、僕と真冬ちゃんが結婚することに関して、法的問題は何ひとつ存在しない。

 

 しかし、ひとつ屋根の下、いつ何が起こってもおかしくない状況下で、相思相愛は不味い。

 しかもまだ真冬ちゃんは中学生、ひとつの間違いは致命傷となり、取り返しがつかない事となる。


 例えば、赤ちゃんとか。


 それだけはダメだと、母さんからも釘を刺されている。

 真冬ちゃんの勘違いは、僕達にとって、とても都合が良い物であった。


 いつかは気づいてしまうのだろうけどね。

 真冬ちゃんは頭の良い子だし。


 いろいろと思い返しながらお弁当にオカズを詰めていると、ランニングウェアに着替えた直兄が、再度キッチンへとやってきた。用意してあった小さく握ったおにぎりを手渡すと「サンキュ」と言いながら、いつかの言葉を認めるかのように、美味しそうに頬張る。


「素直もバスケ部、入るんだろ?」


 米粒が残る指先を舐めながら、直兄が質問してきた。

 

「うん、バイトをする理由が無くなったからね」

「じゃあ、今度1on1しようぜ。素直が俺の身体だった時の評判、かなり良かったみたいだからさ」

「あの時とは、いろいろと身体が違うよ。でも、楽しそうだから行くけどね」

「そうこなくっちゃ、さすがは俺の弟だ」


 おにぎりをもうひとつ頬張ると、直兄は僕の肩を嬉しそうに叩く。

 その後、支度を終えると、早朝のジョギングへと直兄は向かった。

 外には直兄を待つ久栗さんの姿もあり、軽く挨拶すると、二人仲良く走り始める。


 あれだけ仲が良いんだ。

 もう、僕達の身体が入れ替わることもないのだろうね。


 二人を見送った後、朝食の準備に取り掛かり、回してあった洗濯物をベランダに干した。

 時計を見たら七時を回ろうとしている、そろそろ起こさないとだ。

 

 やることを終えた後、一階の和室で寝ている父さんと母さんへと扉越しに声を掛けて、次いで杏子ちゃんと桃子ちゃんの部屋に入り、二人を無理にでも着替えさせる。家事は分担でって言われているけど、母さんも父さんも働いているし、僕は別に、毎日の家事を辛いとは思わない。


 眠気眼の二人を椅子に座らせた後、二階の真冬ちゃんの部屋へと向かった。


「真冬ちゃん、入るよ」


 ドアをノックし、扉を開ける。

 真冬ちゃんから、予め入室の許可は頂いている。


〝直兄はダメだけど、素直さんはいつでもいい〟


 特別待遇に涙が出るよ。

 遮光カーテンが閉じたままの薄暗い部屋。

 前に掃除しに入った時と同じく、綺麗に片づけられた部屋だ。

 

 中学校のセーラー服が壁に掛けられ、机には勉強した跡が見られる。

 真冬ちゃん、二年生一学期の中間テストで、ついに学年一位になったのだとか。

 これだけ頭が良いと、僕達のいる高校ではなく、もっと上だって狙える。

 でも、彼女は僕達と同じ高校に行きたいと言う。

 同じ高校にすれば、一年だけ、一緒に通学できるから。

 今からその日が来ることを、僕も楽しみにしている。


「真冬ちゃん、朝だよ」

「……ん」

「起きて、ご飯も用意したよ」


 遮光カーテンを開けると、真冬ちゃんはまだ布団に包まったまま。


「真冬ちゃん」


 再度声を掛けると、無言のまま両手をぴんと伸ばしてきた。

 出てきた手を掴んで引っ張り上げると、そのまま抱き着いてくる。

 寝起きの真冬ちゃんは、温かくて、春先に咲いたたんぽぽみたいな香りがする。

 

 いつかは春を迎えるから、冷たい人は心が温かいから。

 きっとそういう意味を込めて、真冬って名前にしたんだろうな。


 そんなことを考えていたのだけど。

 真冬ちゃん、離れてくれない。

 

「……素直さん」

「ん?」

「私、調べたの」

「なにを?」

「連れ子同士の、結婚について」

 

 あ、不味い。


「連れ子同士は結婚出来る。素直さん、これ、知ってたでしょ?」

「い、いや、どうだろうね」

「嘘、素直さん、私と結婚出来ないことについて、全然悲しそうにしなかった。そんなのあり得ないって思って調べたら、案の定、連れ子同士は結婚出来るって書いてあったの。……素直さん」

「……はい」


 前髪も何も作っていない、すっぴんのままの可愛らしい眼が、僕を見上げた。

 大きな瞳に長い睫毛は、真冬ちゃんの女の子らしさを際立たせる。

 そんな瞳を潤ませながら、真冬ちゃんは僕へと問う。


「なんで、教えてくれなかったんですか」

「そ、それはね、真冬ちゃん」

「伊静流さんの方が好きなんですか」

「それはない、断じてないよ」

「じゃあ、なんでですか、なんで私に嘘を吐いたんですか」


 声色が泣いている。

 嘘は、どんな内容でも人を傷つけてしまうから。

 この場合、どう取り繕っても、悪いのは僕だ。

 

「誰でもない、真冬ちゃんを想ってのことだよ」

「……私、ですか?」

「うん。ひとつ屋根の下、僕と真冬ちゃんが相思相愛になり過ぎて、なにか間違いがあったら困るでしょ? 問題が発生した場合、一番困るのは、肉体的にも精神的にも、誰でもない真冬ちゃんなんだ。僕は、僕たちは、真冬ちゃんを泣かせたくない。世界で一番、大切な人だからね」


 真冬ちゃんは頭の良い子だから。

 話せばちゃんと聞いてくれるし、理解もしてくれる。

 隠す方が悪手だったのかなって、今になってちょっと後悔だ。


「……わかりました。じゃあ素直さん、このまま部屋から出て行って下さい」

「え?」

「着替えますので、部屋から出て行って下さい」

「あ、ああ、うん、分かった」


 突然の塩対応に、ちょっとびっくり。

 真冬ちゃんを見ないように部屋から出て、扉を閉める。

 心境の変化かな。

 少し、寂しい。


「素直さん」


 扉越しに、彼女の声が聞こえてきた。


「私、絶対に同じ高校に入りますから。そして、入学式の日に、改めて告白します」

「……うん」

「告白には、伊静流さんにも、立ち会って頂きます」


 え。


「その時に、私か伊静流さんか、どちらかを選んで下さい」

「……」

「素直さんがどちらを選んでも、私は受け入れますから」


 真冬ちゃんの覚悟というものを、扉越しに受け取る。

 中学二年生にしてこの胆力は、さすがとしか言えない。


「とはいえ」


 部屋の扉が開くと、真冬ちゃんは背後から抱きついてきた。


「負けるつもりは、これっぽっちもありませんけどね」

「……真冬ちゃん」

「それと、これは私に嘘をついていた罰です」


 首筋に唇をあてると、真冬ちゃん、思いっきり吸い付いてきた。 


「……、うん、今回は成功した」

「成功?」

「キスマーク、絆創膏とかで隠したらダメですからね」


 え、キスマーク?

 慌てて鏡で見てみると、確かに、首筋が一か所、赤く腫れている。

 前もされたことあったけど、まさかこれを付けようとしていたのか。


「にひひ、早く朝ご飯食べましょ」

「あ、これ、どうやったら消えるの」

「消えませんよ? 諦めて下さいね」


 とたとたと一階へと降りる真冬ちゃんの後を、首筋を手で隠しながら僕も続いた。

 やがて直兄も帰宅し、桃子ちゃんと杏子ちゃんを見送った後、父さんと母さんを送り出し、僕達も学校へと家を後にする。


 毎日が楽しくて、毎日が充実していた。

 だからかな、一年半の月日が、あっという間だったのは。


 高校三年、四月。


 今日は、真冬ちゃんが僕達の通う高校に、一年生として入学する日だ。

最終話『入れ替わった僕達は、それでも恋をする。』

明日の昼頃、投稿いたします。

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