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入れ替わった僕達は、それでも恋をする。  作者: 書峰颯


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第二十八話 取り戻した平穏な日々

「入直、入直!」


 入直……? 僕は、姫野宮入直じゃない。

 入れ替わりが、まだ、戻っていないのか?

 

 頭が痛い、身体が思うように動かない。


 ……久栗さん?

 久栗さんが泣きながら、僕のことを入直と呼んでいるのか?

  

「良かった、入直、急に苦しそうにしていたから」


 ああ、そうか。

 僕のことを入直と呼んでいる。

 その理由は、たったひとつだ。

 

「久栗さん、違うよ」

「……え?」

「僕は、霧暮素直だ」


 久栗さんが必死になって看病する相手は、僕じゃない。

 同じように地面に突っ伏したままの、元の身体に戻った姫野宮君だ。


「あ、あの、私」

「大丈夫、行ってあげて」

「……っ、ご、ごめんね、霧暮君」


 久栗さんはそう言い残すと、僕から離れ、姫野宮君を抱きしめた。

 やがて目を覚ました姫野宮君も、僕の方を見て、全てを理解する。


 終わったんだ。

 僕達の入れ替わりが。





 数日後、僕の姿は、とあるメンタルクリニックにあった。


 姫野宮君の自殺騒動は、動画投稿したこともあり、世間様を賑やかす特大ニュースへと変貌を遂げてしまっていた。まとめサイトでは僕の顔にモザイクが掛かった状態で報道され、SNS各所では、僕の顔が実名と共にモザイク無しであちらこちらに放流されている。


 俗に言う、デジタルタトゥーと呼ばれる状態になってしまったのだろう。

 霧暮素直と検索を掛ければ、サジェストに自殺と出てきてしまう程だ。


「何か悩みごとがあるのなら、先生やお医者さんにちゃんと言って下さいね」


 これだけの騒動を起こしてしまったのだから、通院が必要と判断されるのもやむなし。

 周囲に勧められるままに、僕は毎月一回、メンタルケアを受ける事となった。


 入れ替わりの事実なんか、公表した所で理解されるはずがない。

 より一層〝ヤバイ人〟というレッテルを貼られて、世間から隔離されてしまう。

 だから僕は、イタズラに反論するのではなく、素直に通うことにした。

 悩み事が、無い訳じゃないからね。


「別に、素直が自殺しようとした訳じゃないのに……」

「しょうがないよ、世間様に歯向かったって意味ないからね」

「……もう、私の息子は、本当に出来た子なんだから」


 入れ替わりの事実を隠していた事に関して、母さんは特に怒らず。

 それよりも、姫野宮君の自殺を止めたことを、盛大に褒めてくれた。

 

 ――昼から学校に行くよ。


 グループLIMEにメッセージを送ると、しばらくしてスタンプが送られてきた。

 可愛らしい犬の絵が描かれたスタンプには、待ってます、とメッセージが添えられている。

 このスタンプは伊静流さんだな。他にも数名、見知った名前から返事が送られてくる。


「学校、行くの?」

「うん。まだ午前中だしね」 

「じゃあ、近くまで送るわね」

「ありがとう、母さん」


 姫野宮君のお説教が効いたのか、最近の母さんは仕事を定時で帰ってくるようになった。

 こうして僕の為に休みを取るようになってくれたし、なんだか、肌艶も良くなった気がする。


「じゃあ、行ってくるね」

「いってらっしゃい……そうだ、今日の夕飯、何が食べたい?」

「え? 母さんが作ってくれるの?」

「少しは母親らしい事もしないと、素直に負けちゃうから」


 笑顔が素敵になった。

 姫野宮君が褒めていたのも、なんだか納得だ。


 病院を終えて学校へと到着すると、予想通り、昼休憩の時間だった。

 予めメッセージを送っていたからか、正門には僕を待つ、伊静流さんの姿があった。


 最近、伊静流さんは髪型を変えた。

 落とすようなストレートから、ポニーテールを可愛らしく編み込んだ感じにしている。

 可愛らしさに現実味がない、二次元から出てきたヒロインみたいに可愛い。 

 ヒロインよろしく、伊静流さんは僕を見つけると、嘘みたいに可愛く微笑んだ。


「霧暮君、おはようございます」

「伊静流さん、おはよう……といっても、昼だけどね」

「ご飯、食べてきたんですか?」

「ううん、まだ。食堂でも行って、適当に食べようかなって思っていた所だよ」

「あ、あの、だったら、私も一緒でも、構いませんか?」

「もちろん、大歓迎だよ」


 あれだけのニュースになったのだから、ウチの高校の生徒全員が僕のことを知っている。

 自殺未遂の高校生、霧暮素直。このレッテルは、在校中は剥がれることはないのだろうね。


 以前の僕なら、それだけでイジメの対象になっていたと思う。

 でも、今の僕は、人間関係が以前とは全然違うから。


「お、霧暮、重役出勤ご苦労さん」

「姫野宮君、おはよう」


 爽やかなイケメン、姫野宮君が、強引に肩を組んできた。

 

「なんだ、今日は弁当じゃねぇのか?」

「うん、食堂で適当にラーメンでも食べようかなって」

「そうか、じゃあ俺も一緒に食うかな。なぁ霧暮よ」

「うん?」

「たまには俺に、弁当作ってきてくれてもいいんだぜ?」


 何を言っているんだ、この男は。

 

「霧暮の作ってくれる料理ってさ、なんか安心する味がするんだよな。母親が作る料理みたいな、食べていて懐かしい感じがするんだ。俺、こう見えて結構な潔癖だけどさ、霧暮の握ってくれたオニギリなら全部食べる自信があるぜ? という訳で、今晩家に来て夕飯作ってくれよ。真冬も喜ぶぜ?」


 あれだけゴミ屋敷にして潔癖言われてもね。

 真冬ちゃんや杏子ちゃん、桃子ちゃんに会えるのは、単純に嬉しいけど。


「狙いはそこですか」

「おっと、伊静流ちゃんもいたのか」

「はい。ずっと横にいました」


 隣にいた伊静流さん、僕の手をぎゅっと握ってきた。


「ダメですよ、霧暮君には今晩、撮影した動画のMIX作業を手伝ってもらうんですからね」

「この前のMVが相当人気出たからって、霧暮の独り占めは良くないと思うぜ?」

「むむっ……じゃあ、私も姫野宮君の家にお邪魔します」

「そりゃもっとダメだ、真冬の兄としてお断りだ」

「なんの話をしているの?」


 にゅっと、久栗さんが二人の間に割って入ってきた。


「久栗さん、聞いてください。この男が私をイジメるんです」

「えー? 入直がぁ?」

「そんな訳ねぇだろ。霧暮に家にきて夕飯作ってくれって頼んだら、伊静流ちゃんも一緒に来るって言い始めてさ」

「いいじゃん別に。っていうか、霧暮君来てくれるんなら、料理勉強したいから私も行こうかな」


 ん? なんか、僕が姫野宮君の家に行くことで話が決まってない?


「ダメだよ、今日は母さんが夕飯作ってくれるって」

「なるほど……じゃあ尚更、夕飯は俺の家だな」

「なにそれ」

「霧暮は自分で料理しちゃうから、良子さんの腕前知らねぇだろ?」

「……まぁ、そうだね」


 ほとんど仕事でいなかったし、あってもレトルトを温める程度だったけど。


「ヤバいぜ? あれは人間が食べる食べ物じゃねぇ」

「いや、さすがにそこまでは」

「麺つゆと醤油を間違えて入れるなんて序の口だぜ? 裏面黒焦げ、表面半生のハンバーグとか見た事ないだろ? 魚は何でも刺身で食べられるとか、本気で言うからな? 良子さんは母親としての器はデカいが、家事能力は絶望的だ。という訳で、今晩俺の家な」


 どうせ誇張表現、姫野宮君のついた嘘だろうと思っていたのだろうけど。

 母さんから「ごめんなさい」というメッセージが届いた瞬間、彼はガッツポーズを決めた。


 ガッツポーズを決めていたけど、結局、姫野宮君と久栗さんは部活で遅くなるんだけどね。


 とまぁ、こんな感じで。

 僕をいじる人間なんか、この学校には誰一人として存在しない。 

 むしろ、家事全般が得意な超家庭的男子として、校内に名を馳せている感じだ。

 

 教室に入れば、神成君や他の皆も僕へと話しかけてくれる。

 僕も僕で、以前と違い、彼等との対話を楽しめている。

 入れ替わりの事実は、このグループ全員に明かしているけど、全員がそれを受け入れてくれた。

 とても、ありがたいことだと思う。

 

「霧暮さん! お帰りなさい!」

「真冬ちゃん、ただいま」


 既に連絡がいっていたのであろう、姫野宮君の家へと向かうと、真冬ちゃんが出迎えてくれた。

 フレアスカートに薄い長袖、僕が洗濯していた時には、あまり見なかった服装だ。


「真冬ちゃん、その洋服って……」

「あ、これ、わかります? 一緒に出掛けた時に買った洋服なんですよ。それと……」


 ぴょんって僕の肩にくっつくと、真冬ちゃんは小声で僕にだけ聞こえるように囁く。


「(一緒に買った下着も、着用中ですよ)」


 相変わらずのASMR、真冬ちゃんの囁きはそれだけで幸せを感じてしまう。

 

「あの」

「あら、伊静流お姉ちゃんまで、どうしてウチに?」

「霧暮君の料理が絶品だと言うので、食べに来ました」

「ウチ、料亭とかレストランじゃないんですけど」

「じゃあ、お邪魔しますね」

「聞いてる? 私の話聞いてる? ねぇちょっと? ねぇってば!」


 ずかずかと入っていった伊静流さんを追いかけて、真冬ちゃんもリビングへ。

 じゃあ入ろうかなと靴を脱ぐと、子供部屋から可愛いのが二人、僕を見て微笑む。


「料理のにぃに! おかえり! 杏、グラタン食べたい!」

「桃はラザニア! ラザニアが食べたいの!」


 ぱたぱたぱたーと出て来た可愛い二人の頭を、優しく撫でる。


「はいはい。今日はちょっと人数多いから、お利口さんにしててね」

「「はーい!」」


 桃子ちゃんと杏子ちゃんの中では、僕は料理のにぃにと呼ばれている。

 不思議なことに、この身体に戻って初めてこの家に来た時も、二人は僕へとご飯をねだった。

 もしかしたら、二人の目には、僕達の入れ替わりが見抜けていたのかも? 

 何にしても、警戒されるよりかは受け入れてくれた方が、僕としても嬉しい限りだ。


「あ、伊静流さん、先にお線香あげないと」

「そうでした。では真冬さん、また後で」


 真冬ちゃんと伊静流さん、なんだかんだで仲良いんだろうな。

 今だってリビングで二人一緒に、動画を見ていたし。

 

 仏間に飾られた夏帆さんへと、火を灯した線香を立てる。

 鈴を鳴らし、両手を合わせ、目を閉じた。

 飾られた遺影は、今も変わっていない。 

 だけど、心なしか、以前よりも夏帆さんの笑顔が明るくなった感じがする。

 

「じゃあ、夏帆さんへと報告もしたし。キッチンお借りしますか」


 キッチンへと立つと、エプロン姿の真冬ちゃんと伊静流さん、それに桃子ちゃんと杏子ちゃんも側に来て、僕の手さばきを神妙な面持ちで見つめる。マカロニを塩ゆでして、鶏肉を切り始めた辺りで、真冬さんから質問が飛んできた。


「グラタン作るのに、レトルトじゃないんですか?」

「レトルトでもいいんだけど、せっかくなら学びたいと思わない?」

「はい! 私学びたい!」

「あ、私、私も!」

「桃も!」

「あー! 杏もー!」


 賑やかで宜しい。

 

「じゃあ、伊静流さんには玉ねぎとシイタケをお願いします。真冬ちゃんには鶏肉の続きをお願いね」

「はい、分かりました」

「はーい。鶏肉かぁ、お肉ってあまり切ったことないけど、大丈夫かな」

「何事も経験だよ。一回やれば慣れちゃうから、大丈夫」


 なんだかんだ言いながら、真冬ちゃんは鶏肉を綺麗に一口サイズにカットしてくれた。

 意外にも、ダメだったのは伊静流さんの方だった。


「あの、玉ねぎ、切りづらいです」

「ごめん、まずは皮を剥こうか」

「え、皮、ですか。分かりました、剥いてみます」


 伊静流さん、料理初心者だったのか、知らなかった。

 もたもたと皮を剥いた後も、どうやって切っていいのかオロオロと。

 ……シイタケは、僕がやっちゃおうかな。

 

「にぃに、桃たちはー?」

「桃子ちゃんと杏子ちゃんは、お姉ちゃんたちの準備が出来たら、フライパン混ぜ混ぜしてもらうからね」

「「はーい!」」


 カットした野菜を、熱したフライパンで炒めて、途中で小麦粉や牛乳を混ぜてと。

 グラタンの種を器に移し、チーズを乗せ、オーブン設定にしたレンジにて十分ほど熱する。

 ラザニアを欲しがるのは、食いしん坊の桃子ちゃんと、お腹を空かせて帰ってくる姫野宮君かな。

 それと仕事帰りの治久さんか。

 グラタンだけじゃ足りないだろうから、スパゲッティも作っておくか。


「ただいまー、お、良い匂いがしてるじゃねぇの」

「お邪魔します。わはー! これこれ、これが霧暮君の料理だよねぇ!」

「あれ? 佐保も食べたことあるの?」

「つまみ食いはしたよ。だって霧暮君、毎朝お弁当作ってくるんだもん」

 

 そういえば、お弁当作っている時に、久栗さんもいたことあったよね

 もう、随分と昔のことのように思える。

 あの頃、僕と久栗さんは、恋人同士だったんだよな。


「食べる前に、洗い物手伝うね」

「うん、ありがとう」


 隣に立つと、身長があった以前と違って、久栗さんの顔が近い。

 彼女の唇が近くにあって、無駄に意識してしまう。

 ……二回、キス、しているんだよな。


「(ダメだよ)」


 小声で、誰にも聞こえないように、久栗さんが言ってきた。


「(もう、そういう目で、私を見たらダメ)」


 釘を刺されてしまった。

 でも、その通りだ。

 今の僕には、そうじゃなくとも、真冬ちゃんと伊静流さんがいるのだから。


「(霧暮君も、嫌いじゃないけどね)」


 最後に微笑むと、彼女は皆が待つ席へと戻る。

 あんなに近かったのに、今は誰よりも遠い。

 一回だけ、胸に手を当て、大きく息を吸って、ゆっくり吐いた。

 

 ……うん。


 大丈夫、久栗さんには、感謝しかないから。

 何があっても、彼女は姫野宮君を愛し続けていた。

 その姿勢が、結果として、姫野宮君と僕の入れ替わりを解決させたのだから。

 

 両手を合わせて、いただきますをすると、みんな一斉に食べ始める。


 伊静流さんは一口食べると「これを超えないといけないのですか」と神妙な面持ちになり。

 真冬ちゃんは上手に食べられない杏子ちゃんと桃子ちゃんの面倒を見ていて。

 姫野宮君は久栗さんと「やっぱり霧暮の料理やべぇって」と豪快に笑い。

 久栗さんはそんな姫野宮君のほっぺについたご飯粒を取り、微笑むんだ。


 とても賑やかな姫野宮家での夕食は、やっぱり笑顔が絶えない。

 このままこの家で住んでしまいたくなる程に、居心地が良い。

 母さんと二人だけのアパートも、悪くはないんだけどね。


 食べ終わる頃、僕と真冬ちゃんのスマホから、着信音が響いた。

 

「あ、そろそろお父さん帰ってくるってさ」

「僕の母さんもそろそろ来るって」

「っていうか、二人一緒なのか?」


 姫野宮君や真冬ちゃんとで、食べ終わった後の談義をしていると。


「ただいま」

「お邪魔します」


 姫野宮君のお父さんと僕の母さんが二人、一緒に姫野宮家に入ってきた。

 リビングに来て違和感。

 治久さんは分かるけど、なんで母さんまで正装しているのだろう?


「お帰り、二人一緒だったの?」

「ああ、そうなんだが……おお、洋風で美味しそうだな」

「治久さん、みんないるなら、先に」

「ああ、そうか。それもそうだな。……ちょっと皆に、相談があるんだが」


 治久さんは椅子には座らずに、立ったまま、僕の母さんの手を握った。

 そんな様子の二人を、皆が静かに注目する。


「父さんな、良子さんと再婚しようと思うんだが……どうだろうか?」


 姫野宮君が驚き、久栗さんの目が見開き、真冬ちゃんが瞳を潤わせ、伊静流さんが疑問符を浮かべ、杏子ちゃんがスプーンを落とし、桃子ちゃんが杏子ちゃんのプリンを食べた。


 僕の母さんと、姫野宮君の父さんが再婚する。

 それに関して、もちろん反対はしない。

 母さんも十年以上独り身だったし、治久さんも三年は独身だったんだ。

 何より、二人とも浮気ではなく、相方との死別だ。

 誠実なのは、一緒に暮らしていた僕が保証する。 


 母さんの再婚、大歓迎だ。

 ただ一点、僕には気になる事がある。

 

「僕、姫野宮家の人間になるってこと?」

次話『僕、毎日が幸せです。』

明日の昼頃、投稿いたします。

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