表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入れ替わった僕達は、それでも恋をする。  作者: 書峰颯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/30

第二十七話 姫野宮入直の秘密

※姫野宮入直視点

 最後の書き置きとか、柄じゃなかったかな。

 でも、あの人が俺達の母さんになってくれたら、姫野宮家は安泰だ。

 桃子も杏子も、真冬だって喜ぶに決まっている。

 良子さんは優しくて強くて、笑顔を見るだけで安心できる、いい母親なんだ。


 父さんと一緒に暮らせば、あんな無理な働き方をしなくても大丈夫になる。

 家事だって霧暮の奴が手伝ってくれるし、共働きなんだ、稼ぎだって潤う。

 

 何より、独身になった理由が死別だ。

 家族を裏切った訳じゃない。


 俺が戻ったら、絶対にまた父さんや真冬と衝突しちまう。

 真冬はしょうがない事と言ってくれたけど、俺にはそうは思えねぇ。


 母さんは生きることが出来たんだ。

 俺がしっかりしていれば、あの家は壊れることは無かった。


「ああ、はい、霧暮素直です。申し訳ないのですが、本日で退職させてください」


 たったの二週間ちょっとでバイトを退職とか、悪い印象を残しちまったかな。

 別に気にする必要はねぇか、この肉体の霧暮素直は、この世から消えるんだし。


 財布の中に残っていた金を使い果たし、一人どこか分からねぇ駅のホームで佇む。

 

 茫然とベンチに座っていると、真冬みたいな制服姿の女の子が、反対側のホームにいた。

 塾帰りか? こんな遅くに制服姿で電車とか、それだけで無駄に目立つ。

 大きなリュックを背負い、スマホの画面を眺めている。 


 なんとなく眺めていると、向こうも俺の視線に気づいたのか、顔を上げて俺の方を見た。

 視線が合うと、頬を緩ませ、笑みを浮かべる。

 声を掛けたら、そのまま一緒に遊んでくれそうな雰囲気だな。 


 彼女は手にしたスマホを俺へと向けると、写真を撮り、そのまま来た電車に乗っていった。

 盗撮かよって思ったけど、まぁ、それも別に気にする必要はないか。


 霧暮の奴は、自分の魅力に全然気づいていない。


 俺がアイツに何回も声を掛けていたのは、嘘でも偽りでもなく、いい友達になれると思ったからだ。周りから見たらイジメているように見えたのかもしれないけど、俺はそんなこと、微塵も考えていない。


 現に、アイツは俺のことを本気で殴ってきやがった。


 霧暮は、誰かの為に本気になることが出来る。

 ああいう事が出来る奴は、そう多くない。


 時間を掛けて友達になることが出来れば、いずれは親友になれたんだろうな。

 アイツが勧めてくれた本だけは、全然、面白くなかったけど。



 ――――まもなく、一番線を列車が通過します。

 ――――黄色い点字ブロックより下がってお待ちください。



 小一時間ほど待ち、ようやく目当ての電車のアナウンスが流れてくれた。 

 駅に停車する電車だと、速度が遅く、下手に生き残る可能性がある。

 手足を失ってまで、無駄に生き残るなんざ御免だ。

 駅を通過する電車なら、ほぼ百パーセントで死ぬことが出来る。

 

 ほれ、見ろよ。

 今になって手が震えてきやがった。

 命が惜しいとか、あれだけ覚悟を決めたのに、それでもこれだ。


 霧暮の言う通り、俺はあの日、図書室の窓から飛び降りるつもりだった。

 あの場所から飛び降りれば、身体を受け止める樹木も何もない。

 コンクリートに頭から真っ逆さまに落ちることが出来る。


 まさか、アイツがいるとは思わなかったけどな。

 思わず声を掛けて、普通に助けようとしたら、入れ替わるとか。


 この三週間、結構、楽しかったぜ。

 後は全部任せる、お前ならやり遂げるはずだ。



 ――――お気をつけ下さい、列車が通過いたします。



 白いライトが近づき、警笛が鳴らされる。

 ふらり一歩を踏み出すと、誘われるがまま、足が動いた。


 恐怖が消えた。

 手が震えていない。


 思い切り、かな。

 これで俺も、母さんの所にいける。






 パ ア ア ア ア ア ァ ァ ン






 ゴトンゴトン



     ゴトンゴトン






 鼓膜が破れるぐらい煩い警笛が、耳に飛び込んできた。

 走り去る列車の音、俺の身体は駅のホームに倒され、仰向けに転がされていた。


 飛び込みの瞬間、誰かに肩を掴まれたんだ。

 一体誰が、こんなことを。


「お前、ふざけんなよ!」


 寝そべった俺に対し、容赦なく拳を振り下ろしてきた。

 鼻が熱を持ち、血の匂いで染まる。


 眉間に皴を寄せた、俺がいた。

 俺の姿の、霧暮素直だ。


「霧暮、お前、なんで」

「なんで!? そんなの、君が自殺すると思って、全力で探したに決まっているじゃないか!」


 全身汗だくになり、息も切れ切れになりながら、それでも俺を殴りつける。

 二度、三度と殴りつけた後、霧暮は俺の身体をホームの奥へと放り投げた。


「……っ、全力で探したって、どうやって、こんな辺ぴな駅にいるのが分かったんだよ」


 俺の問いに対して、霧暮は息を荒げながらも、手にしたスマホを見せつけてきた。

 画面に映るは霧暮本人の静止画であり、喋っているのは俺の声だった。



『この人が自殺をしようとしています! 見かけた方は僕のSNSアカウントのダイレクトメールに写真付きで送って下さい! 繰り返します! この画像の人が自殺をしようとしています! 見かけた方は僕のSNSアカウントのダイレクトメールに送って下さい!』



 動画投稿サイト、アイツのアカウントか。

 登録者数、十万人を超えている。


 霧暮の奴、動画で、全国の人に俺を探させたのかよ。


「お陰様で、僕は今日から顔出し自殺未遂高校生だよ! くそったれが!」

「……なんで」

「ああ!?」

「なんで、俺なんかの為に、そんな必死になれるんだよ」


 俺なんか、いなくなっちまっていいと、ずっと、そう思って生きてきたのに。

 

「いろいろとあるけど、一番は僕の為だ! 戻るべき身体が無くなったら困る!」

「……まぁ、そうだよな」

「二番目は、佐保さんの為だ!」


 霧暮は、意外な人物の名を挙げた。


「入直!」


 久栗佐保。

 俺の幼馴染。

 俺が一番、傷つけてしまった大事な人。


 彼女もまた、俺を止める為に、全身汗だくになりながら、走り回っていたというのか。


「入直、全部、霧暮君から聞いたよ。入れ替わっていた事も、死のうとしていた事も、全部」


 流れる汗をぬぐおうともせず、佐保はしゃがみ込み、俺のことを抱きしめる。


「バカ、バカバカバカバカ! 入直のバカ! どうして私に一言も教えてくれないのよ!」

「……ごめん」

「ごめんじゃないよ! 貴方がいなくなったら、私はどうやって生きていけばいいの! 貴方がいなかったら、私、誰を頼って生きていけばいいのよ! 入れ替わった霧暮君じゃ、それはもう入直じゃないんだよ、なんで、どうして……」


 泣きながら、俺の胸を優しく、何度も拳を叩き続ける。

 

「姫野宮君」


 抱き着いている佐保をそのままに、霧暮が質問を投げかけてきた。


「一個だけ、僕にも分からないことがあったんだ」

「……?」

「君が佐保を避ける理由。姫野宮君は、確かに自分の家族に対して酷い仕打ちをしたと思う。でも、佐保……いいや、久栗さんに対しては、そこまでの出来事は無かったはずなんだ。なのに何故か、君は久栗さんとは絶対に別れる、絶対に一緒にならないと言ってのけた。過去の君は、あんなにも久栗さんと寄り添っていたのに」


 俺が佐保を避ける理由。

 それは、誰にも語っていない、俺だけの問題だった。

 

「佐保」


 だが、それももう、隠す必要もないか。

 全てを暴露し、俺の罪を全て表に出させる権利が、コイツ等にはある。

 胸の中で泣き続ける佐保の頭を撫でながら、俺は告白した。


「実はな、佐保の両親が離婚した原因……俺なんだ」


 抱きしめながらも、目を見開いて、佐保は流れる涙を止めた。


「え……うそ、入直が原因って、違うよね? あれはお母さんの浮気が原因のはずだよ? 弁護士さんとか入って、全部明らかになったことなんだし、それがなんで入直のせいになんか」

「佐保の親父にな、俺が告げ口したんだよ」

「告げ口?」

「佐保の母親が知らない男と歩いているのを見たって、俺が伝えたんだ」


 たまたまだったんだ。

 子供の頃の俺は、街を探検するのが大好きだった。

 自転車を漕ぎ、見知らぬ街をめぐり、新たな知見を得て帰って来る。

 

 そんなことをしていたら、たまたま、佐保の母親を見かけたんだ。

 知らない男と仲良さそうに歩き、見たこともない建物に入っていくのを、たまたま見かけた。


 面白い情報を得た。

 当時の俺は、そんな程度の考えで、佐保の家に行き、佐保の親父にこっそりと伝えた。


「俺が伝えなければ、佐保の両親が別れることはなかった。親父さん、浮気に気づいてなかったみたいだしな。佐保の母親も、最初で最後の浮気だったらしいし。魔が差した、もう二度としないから、ごめんなさい、許して下さい。外にいても、佐保の母親が号泣しながら、謝罪する声が聞こえてきてよ」


 俺の軽はずみな行動が、佐保の家族を壊しちまったんだ。

 あの日以降、佐保は元気がなくなり、毎日泣くようになっちまった。

 家にも帰れなくなった佐保は、弟と一緒に、俺の家にいる時間が増えていった。


「佐保の家が離婚するってなった時に、俺は自分のした罪の重さを理解した。俺が喋っちまったせいで、佐保は時和君とも別れる事となり、母親にも会うことが出来なくなっちまったんだ。……な? 最低な男だろ? 俺は自分の家庭だけじゃなく、佐保の家庭も壊しちまったんだ。生きてる価値なんか、微塵もねぇんだよ」


「そんなこと、ないよ」


「いいや、そうに違いねぇ。もっと早く死ぬべきだったんだと思うぜ? 母さんが死んだ時だって、俺に与えられた罰なんじゃないかって、そう思っちまったからな。実際そうだったのかもしれねぇ。あの時、俺じゃなくて真冬がいたら、きっと声を掛けていただろうからな」


 同じ血が流れているとは思えない程に、真冬は出来た妹だ。

 真冬なら、杏子や桃子、父さんだって任せることが出来る。

 今ならそこに、良子さんや霧暮も加わるんだ。

 俺がいる必要なんざ、どこにもねぇ。


「全部、全部入直の言う通りだとしても、それでも入直だけが悪いわけじゃないよ」

「……佐保」

「だって、今の話を聞いたって、私は入直のこと、全然嫌いになんてなれない」

「佐保、聞いてくれ」

「嫌だ、私、嫌だよ」

「佐保、俺は、お前の笑顔を見るだけで、辛いんだ」


 俺が佐保を避けていた一番の理由。

 

「ずっと騙してきたんだ。俺が原因で家族が離散したんだぞ。それなのに、俺が佐保と一緒になんか、なれる訳ねぇだろうが」


 全ての原因が俺なのに、佐保は毎日、笑顔で駆け寄ってくる。

 一生一緒にいるって言ってくれている、騙しているのは、俺なのに。


「入直」

「……」

「入直が言いたいのは、それだけ?」

「……? ああ……」


 もう一度抱きしめてくると、佐保は唇を重ねてきた。

 数秒間、重ね続けた後、鼻が触れ合う程度の距離で、佐保は微笑む。


「全部、話してくれてありがとうね」

「……佐保」

「それでも私は、入直のことが好きだよ」


 二度目のキスは、とても熱くて、長いキスだった。

 こんなバカな男なのに、佐保は、それでも一緒にいてくれる。

 俺の思っていた以上に、凄い女だったのかもしれない。

 

 なんだか、いろいろと考えていたのが馬鹿らしくなるぐらいに、頭の中がぼーっとする。


「入直?」


 とてつもなく、眠い。

 心臓が、変な動き方をしている。


「姫野宮君……」


 見れば、霧暮も胸を抑えながら、蹲っていた。


「やっと、全部、解決したんだね」

「……そうかも、しれねぇな」

「じゃあ、次、目が覚めた時は」

「ああ、多分、そういう事だと思う」


 入れ替わりが終わる。

 目が覚めたら、霧暮に謝らないとだな。

 アイツには、返しきれない程の借りを作っちまった。

 本当に、感謝しかねぇ……。

次話『取り戻した平穏な日々』

明日の昼頃、投稿いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ