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入れ替わった僕達は、それでも恋をする。  作者: 書峰颯


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第二十六話 あの、バカ野郎

 眩しい。

 枕、柔らかい。

 これ、膝枕? 誰の?

 

「……あ、起きましたか?」


 伊静流さん?

 家? じゃ、ないよな。


 真っ白な壁、モルタルな床、市役所にありそうな背もたれの無い長椅子。

 ここは、レンタルスペースのあった、建物の廊下か。


「いっ……」


 身体を起こすだけで、凄い頭痛に襲われた。

 あまりの痛さに、うめき声と共に、両手で頭を抑え込む。


「無理しないで下さい、まだ横になっていた方が」

「……大丈夫、それよりも、僕の身体って、姫野宮君のまま?」

「……? はい、姫野宮君の肉体のままですけど」


 元に、戻っちゃったのか。

 心臓も痛くない、心音のリズムも普通。 

 視界のブレは無くなったけど、手足の感覚がまだズレている。

 頭で思うよりも遅く、手が、開いたり閉じたりする。


「……姫野宮君は?」

「彼は、霧暮君よりも先に起きたのですが……バイトがあるとかで、先に帰ってしまいました」


 僕と同じ状況だったろうに、歩けるとか、凄いな。


「姫野宮君も、元に戻ったってことかな……」

「元に戻った? 入れ替わりが解消しかけていたのですか?」

「うん。倒れる直前、僕は自分の身体に戻っていたんだ」

「そうですか……では、仮説は実証されていた、ということですね」


 そういうことに、なるのかな。

 でも結局、元の身体に戻ってしまったけど。

 まだ何か、姫野宮君の心に、取っ掛かりがあるのかな。


「あ、霧暮さん、起きて大丈夫なんですか?」


 ぱたぱたと、栗色の毛を揺らしながらやってくると、真冬ちゃんは僕の隣へと座った。


「うん、とりあえずは。姫野宮君は?」

「お兄ちゃんにも残るように散々言ったんですけど、バイトの時間だからって」

「そっか……じゃあ、今日のところはもう、帰ろうか」


 少なくとも、入れ替わりは解消へと向かっているんだ。

 成果のある一日だったと、言っていいだろう。

 

「っとと」


 立ち上がろうとした途端、めまいがして、思わず倒れ込んでしまった。

 ダメだな、精神が一回抜けたからか、身体が上手く動かない。

 入れ替わり直後よりも酷いかもしれない、しばらくは苦労しそうだ。 


「……あの」

「ん? え、あ、ごめん」

「大丈夫です、薄い胸でごめんなさい」


 いやいや、謝るのは僕の方でしょ。

 倒れ込んだ先が、伊静流さんの胸の中だったのだから。

 真冬ちゃんと違ってスレンダーな感じの彼女であっても、それはそれでふかふかだね。


「ダメです、何してるんですか」

「あっ」


 ぎゅっと引っ張られると、今度は真冬ちゃんの胸の中に引き寄せれてしまった。

 薄着の下にある硬い下着の先、頭の先っぽあたりが、妙に柔らかい。


「霧暮さんは、私の恋人なんですからね」

「……そうなのですか?」


 寂しそうな眼をしながら、伊静流さんが僕を見る。 

 ここは、全て素直に吐いてしまうが吉か。


「告白はされたけど、まだ返事はしていない。というか出来ない。佐保ともお付き合いしているこの状況下で、真冬ちゃんの告白を受ける訳にはいかないと思うんだ」

「またそんな……霧暮さん、マジメなんだから」


 マジメではないと思う。

 むしろ浮気者、最低な男だと思うよ。


「となると、霧暮君は姫野宮君の肉体で久栗佐保さんとお付き合いをしているけど、元の身体に戻る以上、久栗さんとの恋人関係はいずれ解消したい。そういうことで宜しいのでしょうか?」

「そういうことに、なるのかな」


 佐保さんが好きなのは姫野宮君であって、僕ではないからね。

 この話も、身体が戻る前に、佐保さんに伝えておきたい所だけど。


「では、霧暮君」

「うん」

「私も、貴方の恋人に立候補したいと思います」


 えっ。


「話、聞いてなかったの? 霧暮さんは保留しているだけ、元に戻ったら私の恋人になるの」

「つまり、今はまだ恋人ではないということですよね。ですので、緊急参戦をお願いします」


 緊急参戦? え、ちょっと待って、いきなり伊静流さん、何を言い始めたのかな?


「霧暮君は私の人生の道標なんです、彼がいなかったら、今の私はいません」

「それは私だってそうよ。霧暮さんがいなかったら家族がどうなっていたことか」

「あの、二人とも?」


「私の人生に一番大事な、一番必要な人なんです」

「ウチだってそうなの。霧暮さんは私と一緒になる運命なの」

「あのね、ちょっと待って?」


「じゃあこうしましょう、月、水、金は真冬さんに譲ります。残りの火、木、土日は私で」

「ふざけんじゃないわよ、大事な土日をなんで譲らないといけないのよ」

「だって、お泊まりとかするかもしれないじゃないですか」


 お泊まり? 


「霧暮さんとお泊まりするのは私です! 今だって毎日腕枕で寝ているんですからね!?」

「ままま、毎日腕枕!? じゃあより一層、土日は私でいいじゃないですか!」

「元の身体に戻ったら出来なくなるじゃない! だから今だけなの!」

「あの、二人とも、ちょっと待って」


「「霧暮さんは、ちょっと黙っててください!」」


 え、なにこれ、これが熱狂的なファンって奴なの。

 怖、なにこれ、うそでしょ。


 キャーキャー騒いでいたら、施設の人から出てけって怒られちゃった。

 レンタル時間はとっくに過ぎていたし、しょうがないよね。

 さてとと帰ろうとしたら、伊静流さんもついて来ようとしていたから、ダメって断わった。


「え、私は一緒に帰ってはダメなのですか? どうして?」

「どうしてって、伊静流さんと一緒に帰っているところを佐保にでも見られたら、大変な事になるよ」

「……ああ、そうでしたね。その肉体は姫野宮君でしたものね」


 ただでさえ過去に一回疑われているんだ。

 腕組みして帰る所なんか見られたら終わりだよ、終わり。


「にっひひー、じゃあね、伊静流お姉ちゃん」

「別に、その肉体なら、羨ましくもなんともありません」

「中身は霧暮さんだもん」

「では、キスとか出来ますか?」

「……それは、出来ないけど」

「はい。私も出来ません。ですので、別に羨ましくないです」


 姫野宮君が聞いたら号泣するぞ、これ。

 あんまり彼に精神的負担を掛けさせないで欲しいな。

 元に戻れる確率がどんどん下がって行きそうな気がするよ。


 夜、姫野宮家。


 その後は帰宅し、いつもながらの日常を済ませ、リビングのソファへと腰かける。

 

 寝室では桃子ちゃんと杏子ちゃん、それに疲れたのか真冬ちゃんも既に就寝済みだ。

 寝た子を起こさないように、ボリュームを下げ、スマホで適当な動画を流す。


 明日は姫野宮君の家に行って、一週間分の洗濯物を片づけないとか。

 冷凍庫に作り置きした総菜類も、もう空っぽだろうし。 

 二家族分の家事を全部やるって、結構大変だな。


 ぼーっと考え事をしていると、ふわふわと意識が飛びそうになる。

 ドロドロの沼の中に引きずり込まれそうなぐらいに、眠い。

 寝ちゃったら、また真冬ちゃんを泣かせちゃう。

 起きて、やることやって、寝室に行かないと。


 ……。


 ……。


 ……ん? 振動? 着信?


 危ない、意識失いかけてた。

 二十三時か、こんな時間に誰から……って、母さん?

 なんで母さんから、でも電話って、なんだろう。

 滅多なことじゃ掛けてこないんだ、だからこそ、緊急性を感じる。 


 ……とりあえず、出るだけ出てみるか。


「はい、もしも――」

「素直!? あなた、この書き置きって一体なんなの!?」


 いきなり叫んできた。

 母さんが叫ぶなんて、滅多にないぞ?


「書き置き? なんの話?」

「あれ? 素直? 声が違う。じゃあこれ、本当なの?」

「ごめん、いろいろと分からないんだけど。書き置きって、なに?」

「……あなた、素直でいいのよね?」

「……うん」

「わかった。ちょっと待ってね、今、写真撮って送るから」

 

 母さんから送られてきた写真には、一枚の手紙が映し出されていた。



〝親愛なる良子さんへ。いきなりでごめんなさい。実は俺、貴方の息子じゃないんだ。貴方の息子である霧暮素直は、今は姫野宮入直って男の身体の中にいる。俺達、身体が入れ替わったみたいで、どうやっても元に戻ることが出来ないらしい。俺がいると、素直君もこの家に帰って来づらいだろうから、俺はこの家からも姿を消そうと思う。悲しまないでいい、貴方の大切な息子さんは、間違いなく姫野宮入直の身体の中にいるから。それと、出来たらなんだけど、姫野宮治久……一度、謝罪の為に顔を合わせたと思うけど、俺の父さんと正式に会ってみて欲しいんだ。俺の母さん、姫野宮夏帆は、三年前に病気でいなくなっちまった。でも、まだ幼い妹たちには、やっぱり母親が必要なんだ。良子さんと一緒に過ごして、心底そう感じた。俺の父さんと一緒になれば、自然と貴方の息子である素直君とも一緒に暮らす事となる。彼があの家に来てから、姫野宮家は明るくて、笑顔の絶えない家庭になった。彼には感謝していると、良子さんの口から伝えて下さい。最後に、短い間ですが、一緒に過ごせて良かったです。本当に、ありがとうございました。――――姫野宮入直〟



 ……あの、バカ野郎。


「ねぇ、この手紙、本当なの? 貴方いま、姫野宮入直って子の身体の中にいるの?」

「うん、この手紙は全部本当だよ。ごめん母さん、僕、今すぐ動かないといけない」

「動くって、何をするの?」

「この手紙を書いた人物、姫野宮入直は、僕の身体のまま自殺するつもりだ」

「自殺――――」


 身体が元に戻ろうとしたから。

 自分がいなくなれば、戻る肉体を無くせば、僕の精神がこの肉体に縛られるから。

 大方、そういう考えなんだろう。

 ふざけやがって。

 なんでそんな簡単に死を選ぶことが出来る。

 お前には守るべき大切な人と、帰りを待つ家族がいるじゃないか。


「母さん、ごめん、僕、ちょっと取り返しのつかない手段を取るかも」

「取り返しのつかない手段って、素直、貴方一体何をするつもりなの?」

「その代わり、絶対に彼を見つけ出してみせるから。じゃあ、後で連絡するね」


 協力者が欲しい。

 これは、一人じゃ無理だ。


 真冬ちゃんを起こし、伊静流さんに連絡をして、小倉さんや、神成君、横井さんに森林君、桜井君に姫川さん、そして――――久栗佐保にも、協力を仰がないと。

次話『姫野宮入直の秘密』

明日の昼頃、投稿いたします。

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真冬ちゃんと伊静流さんバッチバチだねえ~(ニコニコ) とか思ってたら後半それどころじゃなくなってる! 入直くんがここまで思いつめる男だったとは……
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