第十四話 僕、狙われているみたいです。
放課後、体育館。
「姫野宮、反応おせぇぞ!」
「次は間に合わせます!」
「そうだ諦めんな! 俺達に喰らいついてこい!」
「はい!」
バスケ部の練習は、かなりハードだった。
それでも、二年生と三年生よりかは、一年生は優遇されている方だと思う。
夏の県大会も優勝を目指しているみたいだし、染野部長はその上も見ている感じだ。
全国インターハイ、そんなのを目指すなんて、僕の人生には無いと思っていたけど。
「ふっ!」
他の選手をかき分けて、シュートをする。
円周約七十七センチのボールが、円周約百四十一センチのゴールに入る。
それが、こんなにも楽しいことだなんて。
「なんだ! 一年の姫野宮を止められねぇのか!」
姫野宮君は、背も高いし、筋肉もあるし、運動神経も抜群だ。
身体が入れ替わって、まだ馴染んでいない僕ですら、こんなにも動けてしまう。
動くことが楽しい、ボールが思い通りに動いてくれる。
楽しい、バスケがこんなにも楽しいものだなんて、思いもしなかった。
「入直、凄かったね! 夏の県大会、レギュラー入りしちゃいそうだね!」
部活が終わると、バドミントン部のコートから佐保が声を掛けてくれた。
部活も楽しい、彼女は可愛い。
こんな人生があったのかって、踊ってしまいそうになるよ。
部活を終え部室へと戻り、着替えている最中に、姫野宮君からのLIMEが入った。
――ちょっと相談がある、電話できるようになったら連絡して欲しい。
相談って、なんだろう。
佐保と一緒に帰宅したあと、家事をしながら姫野宮君へと連絡してみた、すると。
「明日、伊静流さんが自分を撮影して欲しいって言ってきたんだよな」
「撮影? 明日って、火曜日だよね? 図書委員の後ってこと?」
「ああ、図書室を閉める時っていうか、大体五時半くらいから誰もいなくなるだろ? そこで撮影をして欲しいっていうんだよな。ほれ、霧暮が作った動画あったろ? あれを見て、次は自分を出したいって」
凄い積極的だな……でも、顔出しってこと?
それは不味いんじゃないかな、高校生だし、学校内だし。
後で動画を見させてもらってから、判断すればいいか。
「まぁ、分かった。じゃあ、撮影頑張ってね」
「バカヤロウ! 俺が撮影なんか出来る訳ねぇだろ!」
「あ、撮影って僕がするの?」
「当然だろ!? 霧暮が撮影して、霧暮が編集して、俺が伊静流さんに渡して、俺が喜ばれる。この流れが自然だろうが!」
いや、一ミリも自然じゃないと思うけど。
まぁ、佐保さんの件もあるしな。
「別に構わないけど……でも、あれだよ? あんまり僕に頼ってばかりだと、いつかバレるよ? 姫野宮君も、動画編集の勉強とかした方がいいと思うけど」
「わかったわかった、いつかするよ」
絶対しないでしょ。
CGだってスマホで作れるのに。
「そういえば、なんだけどさ」
「おう」
「今日、月曜日でしょ? 姫野宮君、バイトは?」
「おお、霧暮が言ってた工場な、辞めたぜ?」
そうかそうか、バイトを辞めたのか。
え、まだ働き始めて二か月も経っていないのに?
「だってよ、連絡先も違うし、そもそも俺、何時間もベルトコンベヤーの前に立ってられねえし」
「いや、でも、そのバイトは母さんを助けるために始めたんだけど」
「大丈夫だって、今は別のバイト始めてっから」
「別のバイト?」
「ああ、居酒屋のホール、こっちの方が楽しいぜ?」
なんてこった、一週間も経たずにバイト先が居酒屋へと変わってしまっていた。
元に戻ったら、僕居酒屋でバイトしないといけないの? え、接客業とか無理なんだけど。
「まぁ、とりあえずだ。明日の放課後、宜しく頼むぜ!」
そして、電話が切れてしまった。
自分勝手過ぎるだろ。
なんで佐保も、こんな男に惚れたんだか。
……ん? 今は違うのか。
でも、佐保が好きなのって、結局のところ姫野宮君なんだよな。
僕は彼女を騙し続けているだけ。
あんまり、良い事じゃない。
いつの日か、ちゃんと言わないといけないんだろうけど。
こんこんって、和室の扉をノックする音が聞こえてきた。
どうぞって言うと、真冬ちゃんが室内に入ってきて、すとんと座る。
「お兄ちゃん、誰からの電話?」
「ん? ああ、この前家に来た友達だよ」
「ふーん、結構、仲良しなんだね」
真冬ちゃん、僕の側に来て、じーっと見つめている。
「……どうか、した?」
「んーん、別に。前はああいうタイプとは付き合わなかったから、珍しいなって思っただけ」
「付き合わなかった訳じゃないよ、たまたま付き合えなかっただけでね」
「そっか。あ、布団、一階に移動したからね。これで毎日一緒に寝られるね、お兄ちゃん」
言いながら、真冬ちゃんは洗濯物を畳むのを手伝い始める。
本当に良い子だな、こんなにも出来た妹さん、僕にも欲しいくらいだ。
「洗濯物、家族でネットに分けるようにしたんだね」
「その方が、真冬も自分の物を持っていきやすいでしょ?」
「うん。お母さんも、同じようにしていたよね」
ああ、やっぱりか。
予想的中だな。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「んー?」
「昨日、お母さんの声が聞こえたって、言っていたでしょ?」
「うん」
「私もね、学校から帰ってきてから、試しにリビングで寝てみたんだ」
「そうなんだ」
「うん。でも、何も聞こえなかった。ただ寝ちゃって、目が覚めたらお兄ちゃんが帰ってきてたんだ」
「そっか、真冬が死ななくて良かったよ」
「もう、恥ずかしいな。あのねお兄ちゃん、今日、学校で中間テストの範囲が発表されたんだ」
「そっか、もう中間テストか」
「そうだよー。中学一年の頃は全部学年一桁だったからね、今年も同じぐらい点数出すつもり」
「それは凄いな、僕も負けないようにしないと」
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「んー?」
「くっついても、いい?」
「ん? 別に、いいけど?」
なんだか、今日は沢山喋るし、甘えてくるな。
真冬ちゃん、アイロン掛けしている僕の隣に座ると、腕を絡ませて身体を全部預けてきた。
頬や髪、真冬ちゃんの胸が、僕の腕にあたる。
兄妹なんだから、スキンシップは当然のこと。
当然なんだ、うん、これは当然、落ち着け。
「お兄ちゃん、アイロン上手だね」
「こんなの、誰でも出来るよ」
「んーん、出来ないよ。お母さんみたいに上手」
「そうかな? 蒸気が出るタイプのだから、真冬がしても同じように仕上がると思うよ?」
「畳み方もお母さんと同じ。お兄ちゃん、お母さんのこと、結構ちゃんと見てたんだね」
畳み方は、姫野宮君の部屋、タンスの奥底に眠っていた洋服の畳み方を真似ただけ。
「そりゃあね、ちゃんと見ていたから、こうして家事が出来る訳でして。ほら真冬、もう離れて」
「はーい。ねぇ、お兄ちゃん、今度一緒に買い物に行かない?」
「買い物? 何か欲しいものでもあるの?」
「ううん。一人だとちょっと買いづらいものがあるの」
「そうなんだ、じゃあ今度の日曜日にでも、一緒に行く?」
「日曜日か……土曜日とかは?」
「土曜日は兄ちゃん用事があるんだよな。クラスメイトに甘い物食べに行こうって誘われててさ」
「甘い物? なにそれ、私も食べたい」
「じゃあ、土曜日に食べに行くから、日曜日に真冬と一緒に行こうか」
「うん。絶対、約束だからね」
「あ、桃子と杏子も一緒の方がいいかな」
「大丈夫だよ。あの子たち、毎日誰かしら家に友達来るから」
「そっか。じゃあ、二人で日曜日にね」
「うん。楽しみだね……お兄ちゃん」
洗濯物を手にすると、真冬ちゃんは和室からとたとたと出て行った。
昨日の今日だから、不安なままなのかな?
夜も一緒に寝るし、そのうち解消してくれればいいんだけど。
※姫野宮真冬視点
お兄ちゃん、電話で「姫野宮君」って言ってた。
やっぱり、誰かと入れ替わってるんだ。
この前来ていたお兄ちゃんの友達、あの人と入れ替わっているのかな。
ということは、あの人と私は、恋人同士になることが出来るってことだよね。
良い人なのは、この一週間が証明している。
佐保姉は直兄が好きなんだから、元に戻った場合、それは佐保姉への裏切りにはならない。
元に戻った後も、この家で彼と一緒に過ごしたい。
毎日来て欲しい、一緒の時間を過ごして欲しい。
でも、今戻るのはダメ。
多分、あの人は性格が良いから、佐保姉のことを絆そうとするはず。
もっと私に惚れさせてから戻さないと、意味がない。
いつかバレるって言っていたから、お兄ちゃんたちが自分から戻る可能性は低い。
時間はある、私は毎日側にいることが出来る。
名前も知らない人だけど、もう、どうしようもなく好きだから。
絶対に落としてやる。
前のクソ兄に戻る前に、なんとしても、私に惚れさせてやるんだから。
次話『第十五話 僕、アドバイスします。』
明日の昼頃、投稿いたします。
また評価をして頂きました。
本当にありがとうございます(*‘∀‘)




