タイトル未定2025/07/13 11:30
『ツバメ亭の夫婦漫才〜灼熱の空中戦〜』
オスのツバメ(通称:ツバオ)
いや〜、今日も灼熱地獄やなぁ……。空飛んでんのに、まるでホットプレートの上やで。
背中、焼き鳥になりそうや……。
メスのツバメ(通称:ツバミ)
あんた、ほんまに口開けば文句ばっかやね。
こないだも「雲が少なすぎる」とか言ってたし。
ツバオ
だってやな、昔はもっと雲あったやん? 地球温暖化やでこれ。俺らの代で絶滅とかマジ勘弁。
ツバミ
はいはい、愚痴ってるヒマあったら、ヒナに虫もってって。
今日なんて、あの子ら全員「バッタ大盛りで!」って言うてたわ。
ツバオ
えぇ!? バッタて……あんなジャンプ力すごいやつ?
この歳で空中キャッチとか無理あるって。羽、つりそう。
ツバミ
何言うてんの。飛べてナンボがツバメやろ。
あんた最近、枝にとまると「ミシッ」て音するんよ。知ってた?
ツバオ
マジで!? それ木のせいちゃうの?
ツバミ
違う違う。あれ完全に“お前の腹圧”や。
下から枝が「重っ!」って悲鳴あげとる。
ツバオ
そ、そんなに出てる……?(チラッとお腹を見る)
ツバミ
うん、正直いま、腹に空気抵抗うけとるよ。
ツバオ
それ、もう俺“ツバメ”ちゃうやん。“ツバデブ”やん!
ツバミ
気づくの遅いわ。
もうすぐ渡りの季節やけど……あんただけ“渡れないツバメ2025”になるかもね?
ツバオ
ちょっ、それだけはやめて!?
空港で検疫に引っかかったツバメとか、シャレならんし!
ツバミ
その前に痩せなさい。今日からビール禁止。あと寝る前の蚊取りホットケーキも禁止。
ツバオ
え〜!? あれが俺の生きがいなのに……(涙)
ツバミ
生きがいより“飛びがい”を優先して。
ツバオ(ぼそっ)
こりゃもう、巣の中に秘密ジム作るしかないな……。
『ツバメ亭の夫婦漫才〜ぐびっと一杯への道〜』
ツバオ(オスのツバメ)
(心の声)
……でもさ、やっぱ帰ったら“ぐびっ”といきたいわけよ。
俺、なんのためにこの炎天下、虫追っかけてんの?
空飛んで、羽ばたいて、汗だくだくで……その先に待ってるのが、冷えたネクターじゃなかったら、人生やってられん!
(ツバオ、巣に戻ってくる)
ツバオ
ただいま〜〜。バッタ3匹と、謎の羽虫1つ、お持ち帰り〜!
ツバミ(メスのツバメ)
おかえり。で、今夜は何を狙ってるわけ?
まさかとは思うけど……また“ぐびっと”いく気?
ツバオ
いやいやいや、そんな、まさかぁ……
ただちょっと……喉が乾いたな〜なんて思ってただけよ……ほんのちょっと。
ツバミ
その“ちょっと”が、毎晩続いてるのよ。
昨日の夜なんか、ネクター3杯もいっとったやろ。羽ばたいたらゲップ出てたわよ?
ツバオ
あれは……風圧。うん。空気の圧で、つい音が出ただけ。
ツバミ
それを“ゲップ”って言うのよ。あんたね、そろそろヒナの手本にならな……。
(そのとき、ヒナたちの声が)
ヒナA
おとーさーん!今日のネクターは? ぼくも一口ほしい〜!
ヒナB
ねぇねぇ、ぐびっとってなぁに〜? 楽しいこと〜??
ツバミ
……ほら見なさい。教育に悪いっちゃ。
ツバオ(小声で)
……ぐびっとは、大人の、癒やし……。
(ツバオ、空を見上げる)
ツバオ(心の声)
俺は……飛ぶ。自由のために。
でも、時々羽休めに“ぐびっと”しても、ええやんか……!
(その夜、ツバオは決意した)
ツバオ
ツバミ!俺……決めた!
明日から、昼は全力で虫とって、夜は……“糖質オフのネクター”に切り替える!
ツバミ
……あんた、それどこで覚えてきたの? 人間のCMでも見たん?
ツバオ
うん。駅前のコンビニのテレビで……音声はなかったけど、口の動きでなんとなく……!
ツバミ(呆れて)
はぁ……まぁいいわ。努力する気あるだけマシかもね。
ツバオ(ガッツポーズ)
よっしゃああ!
目指せ、“引き締まった渡り鳥ボディ”!
目標、秋には「モテる中年ツバメ」復活やっ!
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タイトルは――
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『ツバメ亭の夫婦漫才〜ビールはロマンか現実か〜』
(夕暮れの巣。空は茜色。ツバオが羽を伸ばしてひと息)
ツバオ(オスのツバメ)
あ〜〜、今日もよく飛んだわ。
肩に来とるね。肩に。……いや、ツバメに肩はないけどな。
(そっと、巣の隅に隠してあった“燕ビール”を取り出す)
ツバオ(うっとり)
くぅ〜〜〜っ、これよこれ。
この一杯のために空、飛んどるわ。
(ラベルには「ツバメラガー」と書いてある)
ツバミ(メスのツバメ)登場
……あんた、また飲んどるな?
ツバオ(ビクッ)
ち、ちがうちがう!これはその……保湿!喉の保湿や!
ツバミ
どこにそんなシュワシュワした保湿あるんよ。
まさか、また“ラガー派”の集会行ったん?
ツバオ(気まずそうに)
……行った。
でもな、最近ちょっと心揺れとるんや。
ツバミ
え? 何に?
ツバオ(真顔で)
“スーパードライ”派のあの爽快感……。
あれ、ズルい。めちゃくちゃ飛びやすくなる気がする。
ツバミ(呆れ)
あんたね、ビールで空気抵抗が変わるわけないやろ。
ツバオ
いや!あるんやって!
ラガーはコク深くて“夕焼けに合う”けど、ドライは“朝焼けの疾走感”や!
あのスーッと抜ける喉ごし……。
まるで朝一番の気流に乗った時みたいや!
ツバミ
……完全に、酔ってるのはビールやなくて、イメージやな。
ツバオ(瞳キラキラ)
俺、決めたわ。
次の渡り、どっちで行くか試すために――ラガーとドライ、飛行中に飲み比べする!
ツバミ(即座に)
落ちるわ!!
ヒナたち(遠くから)
パパ〜!今日のおつまみはミミズ〜?
ツバミ
……ヒナの教育に悪いわ。
あんた、今夜から“炭酸抜きネクター”に強制切り替え。
ツバオ(絶望)
えぇ〜!? それ、もうただの“甘い水”やんか〜〜!
ツバミ
健康のためよ。ビール腹で飛べんなってからじゃ遅いんやから。
ツバオ(遠い目)
……ラガーとともに生き、ドライとともに消える……
それもまた、オスのロマンや……(詠むように)
ツバミ
ポエムいらん。
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『わたし、つばみ。〜空飛ぶ主婦のぼやき帖〜』
(夜、ヒナたちが寝静まり、月明かりの下でひとり物思いにふけるツバミ)
ツバミ(心の声)
はぁ……またや。
今日もツバオ、仕事帰りに「一杯だけな?」ゆうて……
結局、巣の隅で“燕スーパードライ”ごくごくいっとったわ。
「羽が疲れた」やら、「気流が重い」やら。
そんなん、あんたが重たいだけやっちゅーねん。
ほんまにもう……
私、なんでこんな“ビール腹の渡り鳥”と番になったんやろ。
最初は、頼もしかったんよ。
空切って虫取りしてる姿に惚れてもうて。
「この人についていけば、南までちゃんと渡れる!」って思ったんやけど――
気づけば、巣に帰るなり「プシュッ」やもん。
ヒナらには夢見てほしいやん?
もっとしっかりした背中、見せたいやん?
なのに、あの背中、最近ほんま“もっこり”してるんよね。羽の下から。
おまけに昨日なんか、枝にとまった瞬間、
「ギィィ……バキッ!」て音したんよ。
あれ、もう“ツバメ”やのうて“オニヤンマのなれの果て”や。
……まぁ、なんやかんや言うても、私がおらんとヒナの世話もできへんし、
迷子になるし、南への渡りも真逆に行きかねへん。
つまり、私が操縦士であり、家長であり、管理栄養士であり、
そして時にはビールの監視役でもある――。
ほんま、空飛ぶブラック企業やわ。
でもまぁ、あのアホみたいな笑顔で「うまい〜っ!」て飲んでる姿見ると、
ちょっとだけ腹立ちながらも、笑えてくるんよな。
……しゃあないな。
明日も朝一で起きて、ヒナの朝ごはん確保や。
ほんで、ツバオの飲み過ぎには、また小言の一発や。
ツバミ、今日も、空を飛ぶ。
ビールよりも、愛と責任を背負って
⸻
『ツバメ亭の夫婦漫才〜健康診断、墜落寸前〜』
(巣に帰るツバオ、肩を落としてヨロヨロ)
ツバオ(ぐったり)
ただいま……健診、終わった……。
ツバミ(腕組みして待ってる)
で、結果は?
ツバオ(声ちっさく)
え〜っと、その……ちょっと血圧が、ピヨッと高めで……
ツバミ
“ピヨッと”て何。
ハッキリ言いや。紙見せてみ、紙。
(診断書をバサッと開くツバミ)
ツバミ(読み上げ)
上:175、下:110。
空飛ぶには“危険域”。
あと……高血糖。
空腹時でもグルコースたっぷり。
そして……はい出ました、“高脂血症”。
脂っこい羽毛、回収不能!
ツバオ(頭抱えて)
うわあぁぁぁ……!俺、飛べるんか、これ!?
ツバミ
むしろ今よう飛んどったな。
空中でプチ脳梗塞とか起こしててもおかしゅうないで。
ツバオ
でもさぁ、俺……あの“ぐびっと”が生きがいで……
ツバミ(即座に)
飲酒飛行、即・禁止。
免許、差し止め。再交付なし。
ツバオ(涙目)
えぇぇぇぇ……俺のツバメライフが……
ツバミ
ツバメライフより命や。
もう“夜のぐびっと”も“昼のつまみ虫”も節制やで。
お茶飲んどき、お茶。あと、ノンアルネクター。
ツバオ
ノンアルて……味せぇへんやん……
羽ばたく元気、出ぇへんやん……
男のロマン、どこ行ったんや……
ツバミ(ため息)
ロマンよりまず、血管掃除せな。
ツバオ
えぇ〜……でもなぁ……(と、ポケットからラベル取り出す)
これ見て!この「ツバメドライ・プレミアム」!
新商品やで!羽に効くらしいで!?
ツバミ(ピシャリ)
それ“効く”んやなくて“来る”んや、悪い意味で。
あんた、脳天から羽先までコレステロール詰まってるの、わかってる?
ツバオ(しくしく)
じゃあ……次の渡りまでに、体絞る……
ツバミ(ややあきれながら)
せやな。ほんなら明日から、毎朝“飛びジョグ”な。
朝5時に起こしたるから。
ツバオ(絶望)
……は、早朝……!?
しかも、虫じゃなくて“空気吸うだけの時間”……?
ツバミ(ニヤリ)
そう、“羽トレ”。
目指せ、“飛べるオトコ”復活や!
『ツバメ亭の夫婦漫才〜甘い夢と糖の罠〜』
(暑い昼下がり、ツバオが日陰の電線にとまってうなだれている)
ツバオ(心の声)
……ふぅ。今日も地獄の熱気流。
羽、パリパリに乾いとる。
このままいくと“干しツバメ”になってまう……。
(妄想スタート)
ツバオ(目を細めて)
あぁ、せめてこの喉に……
キンキンに冷えた梅酒サイダー割。
いや、いちご酒サイダーでもええな。
シュワッと甘酸っぱいやつ。
口にふくんだ瞬間、「夏がきた〜!」ってなるやつ。
あれさえあれば、俺、生き返る。
いや、また飛べる。空を……自由に……!
(巣に戻り、そ〜っとツバミに提案)
ツバオ(控えめに)
あのな……その……
夏バテ対策っていうか……
ほら、ミネラル補給的な意味でやな……
“梅酒かいちご酒のサイダー割”、一杯だけ、どないかな……?
(即答)
ツバミ(無表情)
あかん。
ツバオ(しょぼん)
……まだ何も言い切ってないのに。
ツバミ(冷静)
言い切らんでも分かるわ。
あんた、それ飲んだら確実に血糖値爆上がり→糖尿病まっしぐらコースや。
ツバオ(ぐったり)
いや、でも……サイダー割やし……薄めてるし……!
むしろ糖、減ってる気ぃせぇへん?(願望)
ツバミ(即ツッコミ)
その考えが“甘い”んよ。
甘いもんに甘いもん足してどうすんの。Wシュガー地獄や。
ツバオ(涙目)
……でも、飲みたい……。夏って、そういう季節やん……
キラキラしてて、なんかこう、シュワっとしてて……
ツバミ(静かに)
……キラキラしてんの、あんたの尿糖やで。
ツバオ(うなだれて)
そ、そんなオチいらん……(ショボン)
(ヒナたちがこっそり見ている)
ヒナA
ねぇママ、パパってなんでしょんぼりしてるの?
ツバミ(遠くを見る目で)
……人生って、思い通りにはいかんのよ。
⸻
【エピローグ】
その夜、ツバオはこっそり氷をしゃぶっていた。
「梅酒風」と書いたラベルは自分で貼っただけの、水道水の氷。
ツバオ(心の声)
……ええねん。
夢を飲んでるだけや……。
俺の夏は、“気持ち”で乗り切るんや……。
『ツバメ亭の夫婦漫才〜渡り鳥、ヨタヨタ出発〜』
(ある晴れた秋の朝。巣の前で風がそよぎ、出発のとき)
ツバミ(シャキッと羽を伸ばして)
さぁ、ヒナたち!いよいよやで。南の楽園へ、ひとっ飛びや!
ヒナたち(元気いっぱい)
うんっ!羽もピカピカやし、準備バッチリ〜!
ツバオ(ヨロヨロ登場)
……ま、待ってぇ〜……はぁ……はぁ……。
お、俺も今から……スタート……!
(羽ばたくも、空中で一回グラッ)
ツバミ(冷たく)
こら、あんた。もうすでにゼェゼェ言うてるやん。
やっぱ言うたやろ、「体、絞れ」って。
ツバオ(苦しそうに)
そ、そんなん……わかってるけどさ……
あの夏の猛暑……体動かすと暑いやん……
で、ちょっとだけ……アイスネクター……飲みすぎただけで……
ツバミ
“ちょっとだけ”で、腹まわりがモモンガ並みになったん誰やっちゅー話や。
しかもこの前、“渡り用の風”にも振られてたやん?
ツバオ(泣きそう)
だって風が……俺の重みにビビって逃げたんやもん……!
ヒナA(心配そうに)
パパ、がんばって!もうちょっと痩せたら風さん戻ってきてくれるよ!
ツバミ(ため息)
もうしゃーないな。
じゃ、今日のルートは“ゆるやか低気圧コース”で行くわ。
あんたのために寄り道つき、給水ポイント多め、坂道少なめコース選んだげる。
ツバオ(感動)
うっ……ツバミぃ……!
そ、そんな優しさ……俺、惚れ直す……!
ツバミ(ビシッと指差して)
ほな、冬越す前にちゃんと絞りや?
来年の春、巣まで這って帰ってくるハメにならんように。
ツバオ
……うん、俺……
今年の渡りで変わる……!
(ツバオ、ふらふらと飛び立つ。が、後ろからサポート用の小型気球がヒモでついている)
ヒナたち(爆笑)
パパ、風船ついてる〜〜!
ツバミ(ニヤリ)
それ“お助け気流パック”。今だけ限定。
次回の渡りにはないからな。
ツバオ(小さくなりながら)
……来年こそ……俺、軽やかに舞ってみせる……
**『ツバメ亭の夫婦漫才〜南国なんて遠すぎる〜』**
(渡りの途中、とある道の駅的な電線にて)
ツバオ(ヘロヘロ)
はぁ……あかん……もう無理……今日ここで一泊しよ……
ツバミ(腕組みして睨み)
また!? 昨日も“あんよが痛い”ゆうて泊まったやん!
ツバオ(泣きそう)
いや、今日の風がね……こう、ワシに冷たくて……
俺が飛ぼうとした瞬間、「お前はまだいい」って顔でスルーしてってん……
ツバミ(冷静)
……風に顔はない。
(ヒナたち、腹ペコでうずくまる)
ヒナA
ママ〜、いつ着くのぉ〜?
他の家のヒナたち、もうインスタに「南の島なう」ってあげてたよ……
ヒナB
うちだけ、まだ「関西圏なう」なんだけど……
ツバミ(目を見開いてツバオに詰め寄る)
なぁ、アンタ、何泊しとると思っとる!?
もう7泊8日やで!? 渡りの旅やのうて、ツアー旅行の長期滞在プランなっとるやん!!
ツバオ(言い訳モード)
だ、だってさぁ、去年より宿代上がってるし、早朝割引逃したし、急に円安きたし……
ツバミ(ピシャリ)
何が“円安”や、うちら物々交換やろが。
今朝の宿なんて「小バッタ3匹」で泊まれたのに、
あんた「特大ミミズしか無理っす」とか言って断られとったやん!
ツバオ(ぐぬぬ)
……だって、特大ミミズ食べたかった……
ツバミ(呆れMAX)
あんたのその食欲が、今の“遅延家族”を生んどるんや!!
(スマホならぬ、“風のうわさネット”が聞こえてくる)
近くのツバメA(遠くの枝で)
え、まだツバオ一家着いてないの?
ウチなんてもうビーチで3回羽浴びして、
ヒナはウクレレ習い始めたよ〜!
ツバミ(小声)
……ほら聞こえた。恥ずかしいわ。
ツバオ(土下座飛び)
す、すまんツバミぃぃぃぃぃ!!!
俺、今日から本気で飛ぶ!休まず、寄らず、真っ直ぐ南へ!
ど根性!根性ツバメや!!!
(意気込んで飛ぶが、5メートル先でまた失速)
ヒナたち
パパぁぁぁぁぁ!!!
ツバミ(羽をおでこにあてて)
……次の休憩ポイントで、「ツバメ用リハビリ施設」探そ。
『ツバメ亭の夫婦漫才〜俺たちの冬は沖縄で〜』
(11月某日、南の空。雲間から南十字星がチラリと輝く……はずが――)
(ザァァァァーーーン!と波の音)
ツバオ(オス)
……なぁツバミ、もう……ここでええやろ。
もうちょい先って言うたらたしかにフィリピンやインドネシアやけど、もう羽ガタガタやねん……
ツバミ(メス)
ええやろ、って……ここ沖縄やで!?
本来の目的地まで、あと三千キロ以上あるんやけど?
ツバオ
いや、見てみ。空き巣いっぱいやん。
ほれ、あの赤瓦のとことか、あったかそうやで?
ヤンバルの森で虫もまだおるし、食うもん困らん!
ツバミ(しばらく考えて)
……はぁ〜、もうええわ。
あんたと話すたびに「ええわ」言うてる気がするけど、ほんまにもう“ええわ”。
ここで冬越ししよ。
(と、そのとき――)
ヒナA(ショック顔)
えっっ!? ちょ、うそ……!!
ヒナB(怒り)
ここで冬越すん!?南十字星は!?
インドネシアでヤシの木の上のクリスマスやるって話、どうなったん!?
ヒナC(泣きそう)
ぼく、南の島の学校で“トロピカルフルーツ観察クラブ”入りたかったのにぃぃ!
ツバオ(必死)
いやいやいや!沖縄も“南”やから!
サーターアンダギーあるし!三線の音もええやろ!?
しかも“冬でも短パン”の人おるくらい、あったかいで!
ヒナたち
ちがーう!!!
“赤道超えたかった”の!!!
ツバミ(冷静)
……あんたのせいやで。
ツバオ(小声)
だ、だって……渡りの途中で足つったし……
マッサージ鳥にも断られたし……
あと宿泊ポイント高騰して、ミミズ2本で一泊とかやったし……
ツバミ(キッとにらみ)
それ、自分で太って飛べへんようになったせいやからな。
ツバオ(しょぼん)
……うん。わかってる。
⸻
(その夜、ツバオはひとり沖縄の浜辺で星を見上げていた)
ツバオ(心の声)
……南十字星、見せてやれんかったな……
でも俺、家族守りたかってん。
羽ちぎれてでも、なんとか……
(そこへ、ツバミがそっと隣に)
ツバミ
……あんた、まだ夢見てたんやな。
ツバオ
ツバミ……すまん。
来年こそ、ちゃんと飛ぶ。トレーニングして、ほんまに変わる。
ツバミ(ちょっと笑って)
わかったわ。
ほな、来年の出発は3月1日。遅れたら置いてくで?
ツバオ(真剣)
うん、次こそは……南十字星、家族全員で見る!
**『ツバメ亭の夫婦漫才〜この家、壊させへん!〜』**
(沖縄某所。赤瓦の古民家の軒下。ツバオ一家が越冬中)
ツバオ(のんびり)
……やっぱ沖縄ええなぁ。気温はぬくいし、虫はまだ飛んどるし、
ヒナらも「かりゆしシャツかわいい〜」言うてるし。
ツバミ(やや疑い気味)
そやけど、あんた、さっき郵便受け見た?
なんか“立ち退きのお知らせ”って貼ってあったで。
ツバオ(余裕の笑顔)
気にすんな気にすんな〜♪どうせ人間の勝手な紙や〜〜
(翌朝――)
ドォォォン!
「ウィーン、ガガガガ……!」(重機の音)
ヒナたち
キャーー!!なんか来たぁぁぁ!!!
ツバオ(絶句)
えっ……え……え!?ガチのやつ!?
作業員A(下で見上げながら)
「ん?ツバメ?巣あるけど……まぁ、もう使ってないやろ〜。壊すぞー!」
⸻
(そのとき!)
ツバミ(目が光る)
ツバオ……やるで。
ツバオ(ふるえる羽で)
……おうっ……!い、いっちょ、家族の誇り守ったるわ!
⸻
ツバメ一家、空中戦突入!!
**ツバオ:**ショベルカーのフロントガラスにダイブ!
「わぁっ、ツバメがぁぁっ!!」
**ツバミ:**操縦士のヘルメットの上をスレスレ飛行→連続つっつき攻撃!
**ヒナA&B&C:**空中フォーメーション“イナズマ・ウイング”発動!
(スズメたちも援軍に!)
作業員B(混乱)
「やべぇ、これマジの総攻撃や!!!」
「ツバメ、完全に怒ってる!!!撤退!撤退ぅぅぅ〜〜!!」
⸻
(静寂。重機が去る音)
ツバオ(羽ボサボサ)
……な、なんとかなった……?
ツバミ(毅然と)
うん、我が家は……守った。
ヒナたち(大喜び)
パパかっこいい〜〜〜!!!
「今日のパパ、マジ鳥肌〜〜!!(ツバメだけど)」
ツバオ(ドヤ顔)
フフ……俺がやれば、こんなもんよ。
(風がふわりと吹く)
ツバミ(にっこり)
けど明日から、自警団巡回2時間延長な。
あと「朝の空中警備訓練」もつけとくわ。うちのリーダーとして。
ツバオ(絶望)
えっ……マジで……
こうして
ツバオとツバミの家族の住処は無事に?守られた。




