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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある貧民街に、泥だらけの子供が居た。

作者: 珠野 海月

ある所に、薄汚い孤児が居た。

子供は親の顔を知らず育ち、人のモノを盗んで食いつないでいた。

それ以外に生きる方法は知らなかったし、痩せ細った体に真っ当な労働をする力は無かった。


ある日盗みがバレて袋叩きに遭った。

泥溜りで空を眺めていた時、一人の女騎士が上から覗き込んできた。

「まだ生きる気があるなら、それでたらふく食って装備を買って冒険者になれ。返すのは金に困らなくなってからでいい」そう言って袋を投げ渡してきた。

中を見ると、数枚の金貨が入っていた。

子供は盗人生活で、これだけあれば人生をやり直せることを知っていた。


騎士の言う通りに鍛冶屋で装備を買い、泣きながら飯を頬張った。

翌日から駆け出しの冒険者として日銭を稼ぎ始める。

最初の頃、ゴブリンにすら逃げるしか無かった痩せぎすな体は少しずつ肉が付き始めた。

はぐれた一体を相手に経験を積み、慣れれば複数体を相手にしても倒せるようになった。


そんな順調な日々を送っていた時、はぐれオークに遭遇する。

今まで培ってきた技術を全て踏み潰し、棍棒一振りで瀕死の重体に追い詰められた。

「……ぐふッ」口からは血が吹き出し、体は枯れ枝のようにへし折れていた。


夢半ばで敗れる不甲斐ない自身に悔し涙を零し、ただオークに踏み潰されるのを眺めた。

次の瞬間オークは消し炭になり、ピクリとも動かなかった己の体は時を戻したように再生する。

困惑していると、遠くからゆっくりと歩いてきた老人に声をかけられる。

老人は自身を魔法使いだと名乗り、死ぬ気の覚悟があるのなら教えてやると言う。

少年は先の出来事が遠くに居た老人によって引き起こされたと悟り、承諾。

師匠との凄惨な修行の日々が始まった。


師匠の剣の腕は衰えを見せない達人級のものだったが、剣が必要ないほど研ぎ澄まされた魔法の冴えは、少年の関心を剣から魔法へと向けさせた。

呼吸一つで魔物を殺し、視線すら寄越さず攻撃を防御する。

無拍子で発動する魔法を前に、剣という棒を振り回す合理性は存在しなかった。

毎日死ぬような怪我を何度も負い、一瞬で回復させる師匠を前に、しかし青年は弱音を吐くことはなかった。

浮浪児として生きていた数年に比べれば、ぬるま湯のように温かな毎日だったからのだ。


修行を乗り越えた頃、師匠から「目的を果たしてこい」と放り出される。

その時には少年は青年へと成長し、金貨数枚を数日で稼げるようになっていた。


しかし、女騎士に会う方法が青年には分からなかった。

何せ彼女の名前も立場も知らなかったからだ。

仕方ないので彼女が身につけていた国の騎士団の入団試験に挑むことにした。

入団試験で試験官を0秒で伸し、筆記試験で名前すら書けなかったが合格する。


新人指導を受ける中、道を歩く恩人の女騎士に気づき、挨拶する。

あの時よりもずっと歳を取り、頬には傷が増えていたが、その真っ直ぐな力強い目は変わっていなかった。

女騎士に当時貰った金貨を十倍にした袋を渡す。

その金額に女騎士は驚くが、青年の力量が既に自身よりも遥か高みに到達していることを感じ取っていた。少しの葛藤の末、受け取ることにした。


青年が女騎士の隣で戦わせて欲しいと言うと、女騎士は何かを思いついたようにニヤリと笑う。

「来月、国主導の剣鬼舞踏祭がある。その優勝報酬に、希望する騎士団への入団権があるんだが、どうする?」

青年は既に戦うのに剣を使う必要は無かったが、女騎士が自分の力で隣で戦える権利を勝ち取れというのならそうしようと、参加することにした。



剣鬼舞踏祭の決勝には青年と女騎士の姿があった。

女騎士は最初から青年と戦って実力を見るつもりだったのだ。

青年の不可視の一撃(8発)を、かろうじて迎撃する女騎士。

「流石騎士団長」「はっ、流石に大衆を前に無様に敗北するわけにはいかないからな」

勝負は長期戦にもつれ込んだ。

というより、青年が騎士団長の力量に合わせて一方的にならないよう調整したのだ。

女騎士は全力を出し続け、息が上がりミスが増えていく。

「これで最後だ! はぁあああ!!!」

「来い!!!」



時が経ち、名実ともに騎士団長の右腕として入団を果たした青年は、引退するまで騎士団長と共に戦い抜いた。

その数奇な出逢いと武勇は美談として、本や詩になり、数千年後まで語り継がれましたとさ。

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