表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/40

35 秋よ、去れ。

《まぁ、ワシがロウヒじゃよね》


 うんうん、と頷いているのはパトリック。

 黙って固まっているのがキャサリンで、ウォルターは。


『薄々、ですがまさか、と』

《だって神話とか寓話そのものだもんね》

《そこはアレじゃよ、古典は踏襲しとくべきじゃろ?》


「え、じゃあ、この家は?」

《本物じゃよ、本物のワシの家じゃて》


「でも、じゃあ、お孫さんは」

《そりゃ居るぞ、代々血縁者からロウヒは覚醒するるでな、長生きがワシの使命でも有るんじゃよね》


「だとして」

《来客用じゃよね、本来の家は別に有るでな、助かったぞい》


「なん、もー、じゃあ可哀想なおばあさんは居なかったんだよね?」

《じゃの!》


 事の発端は、何気ない会話からだった。

 何処に行くのか、何をしに行くのかおばあさんに聞かれて、家も綺麗になったし本当の事を言って去ろうと思って。


 全部、正直に言ったら。

 こうなって。


「はぁ」

《うむ、実に真面目じゃったよね、好感触じゃよ》


「もー、恥ずかしい、何かもう本当、恥ずかしい」

《何を恥ずかしがる事が有ろうよ、真面目で親切で思い遣りが有り、ワシの気持ちに寄り添ってくれたで。じゃからこそ、こうしてネタバレしたんじゃし》


「何か、凄く、弄ばれた気分」

《まぁ、仕方が無い事じゃな、半分は弄ぶ気じゃったし》


「もー」

《ほれほれ、パンケーキを焼いてやるでな、機嫌を直せ》


 神様だって分かったけど。

 頭を撫でられる手は、おばあさんの手だし、感触だっておばあさんが撫でる感触で。


 なのに、神様だって。


「それ、手伝った方が良い?」

《体は人間じゃからね、頼むぞい》


 そう言って僕とキャサリンがパンケーキを焼いてる間に、アイス作って添えてくれて。

 それからロウヒとは何か、教えてくれて。


「そうなると、魔道具の管理人って感じじゃない?」

《じゃの、イルマリネンが好き放題に作る魔道具の管理、じゃな》


「そのイルマリネンさんは?」


《あぁ、流石に見えぬか、ずっと居るぞぃ》


 ロウヒおばあさんが指差した先には、空のお皿。

 置いた記憶も無いのに、何か違和感が。


「認識、阻害の魔法?」

《その原型じゃな、本来ならば神と単なる人の接触は禁止じゃて》


「でもロウヒおばあさんとは会えてるじゃん?」

《そりゃ皮は人間じゃし、繋ぎが居らんと困る事も有ろうよ》


「え、じゃあ転生者の為?」

《そこまでは言わんよ、好き好んでこうしとるんじゃよ》


「こう、って」

《イルマリネンの花嫁じゃよ、のう、旦那様や》


 その視線の先に目を向けると、お皿の上に、ピアスが3つ。


「アレ、有った?」

《今出したんじゃよ、ソレがお主らの願いの品じゃ》


「え、でも、僕、何もしてないんだけど」


《物語じゃったらゲットしとる流れじゃろ》

「でも対価は?作るのだって大変でしょ?」


《良く育ち良く栄えれば宜しい。その為には却って役目だ役割だと有れば、妨げになろうよ、お主らの義務こそ繫殖じゃ!》


「繫殖て」

《アレじゃ、善玉菌じゃよ、悪玉菌を凌駕する善玉菌で悪を駆逐じゃ》


「そんな、いや子育てが簡単とは言わないけど」

《そこじゃよ、如何に良い子を育てるか、難しいのは良く分かっておろう》


「まぁ、そうだけど」

《全時代、全世代の課題じゃ。それこそ神も仏も分け隔てなく、如何に難しいかは分かっておるで。何事も適材適所、先ずは月経に慣れる所からじゃな》


「あぁ、それに悪阻とか、陣痛もだよね」

《大丈夫じゃて、慣れる忘れる何とかなるでな。ほれ、臍か舌か出せ出せ》


「あ、はい」


 妊娠する事を考えると、どうしても舌を選ぶ事に。

 クッソ痛かった、マジで。




《ふむ、実に愛らしいのぅ》


 僕もウォルターも見惚れてて、すっかりキャサリンの事を忘れてたんだけど。

 彼女、女色家なんだよね。


《イーライ様、私も仲間に入れて下さい》


「んー、キャサリンは何か違うんだ、ごめんね」


 そう言われ、キャサリンは僕らの方を見やると。

 満面の笑みで。


《驚きましたか》

《もー、本当に心臓が止まるかと思ったよ》

『冗談が過ぎる、止まったぞキャサリン』


《女なら何でも良いワケでは有りませんが》

《ごめんよ、うん》

『すまなかった』


《ふふふふ、実に面白いのぅ。どうじゃ、お主も要るか?》

《いえ、未だに彼らの様に想える相手が居りませんので、どうか他の者にお与え頂ければと思います》

「本当に良いの?」


《そうなったら、また尋ねさせて頂こうかと》

《ふむ、来訪を許してやろう。良い仲間に恵まれたの》

「はい」


 安心したからか、またイーライを眺めちゃって。


 ムチムチだな、可愛くなったなって。

 そんなに変わって無い筈なのに、凄く可愛く見えて。


《ふむ、成程、確かに髪が問題じゃな》

「あー、伸ばす文化が無かったからなぁ」


《そこはまぁ、辻褄合わせも神の仕事じゃよね、ほれココにお座り》

「はい」


 いつの間にかロウヒが持っていたクシで、イーライの梳くと。


《凄い、キモイ》

《凄いですよイーライ様、クシから毛が生えるみたいに伸びて》

「えー見たい見たい」

《まぁまぁ、待つんじゃ待つんじゃ》

『長めで頼みます』


《勿論じゃよ》


 長い髪のイーライはもう、可愛くて可愛くて。


《孕ませたぃ》

《待て待て、コレはまだ下準備じゃ。そうじゃな、お主らは風呂でも沸かしておけ》


《行ってくる》

『任せた』




 イーライの髪を伸ばしたかと思うと、今度はハサミで切り落とし。


《カツラを作るでな、予備じゃよ予備》

『成程』

「あぁ、はい」


 そしてもう1度、髪を梳き始めると。


《痒いじゃろ、頭》

「さっきもだけど、今はマジでヤバい」


《じゃよね、全員の準備が整ってからじゃ。ドレスの用意は有るんじゃよね》

《はい、出してきます》


 そして部屋には、私とイーライとロウヒだけとなり。


《先人達が望んでおったのは、平和、平穏。それに差異の無い外見じゃ、混ざれば混ざる程、整った見た目になるんじゃろう》


「あぁ、確かに記事を見たけど」

《見目が良い者の使命は、産めよ増やせよ。じゃがな、適さん者も多いで、誰にでも出来る事では無い。お主らには、ある意味で立派な役割が有るんじゃ、焦り気負う必要は無いでな。暫くは好きに過ごすと良い》


「そう言われると、身が持ちません」

《お盛んじゃからなぁ、少しは飽きられる心配をせい?》

『あ、はぃ』


《冗談じゃよ。じゃが少しは加減してやらんとな》

「そうだそうだ」

『善処します』


 それからイーライが風呂に入っている間に、順番に髪を伸ばし、切り落とし。

 そうしている間に。


「凄い、いつの間に。ありがとうございます」


《くふふふ、キャサリンや、消化に良い料理を教えてやるでな、暫く好きにさせてやろう》

《はい》


 離れに行くまでの僅かな間。

 イーライがぎこちなく歩き、動いているだけで。


『誰かを孕ませたいと思える日が来るとは、思わなかった』

「まだ旅の途中だから今度ね?」

《じゃあ変身を解いて、じゃないと襲っちゃう》


「解いたら襲わない?」

『《襲う》』


「ですよねぇ」


 女性の服を着た、長い髪のイーライは。

 男であれ女であれ、相変わらず可愛い姿のまま。


 妖艶で、愛らしく。

 孕ませるべきだとしか思えない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ