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《わぁ、懐かしい名前、ほら》

『あぁ、学園に出向しているのか、ガブリエラは』


「ガブリエラ?知り合い?」

《後輩、男装の令嬢なんだけど》

『どう見ても男にしか見えないんだ』


「へー、じゃあ僕と真逆?」


《そうだね、確かに》

『生まれる場所を互いに間違えたのかも知れないな』


《だね》

「居るんだ、僕の真逆、会ってみたかったなぁ」


《惚れちゃうかもね、凄い強いし》

『技術を凌駕する力技だったからな、今は近衛の班長だ』

「へー、本当に真逆だ」


《んー、そうなると会わせたくないかも、中身も潔い男みたいな子だし》

『子女にモテる程にな』

「そのモテモテさんからの手紙なの?」


《ううん、もういつでも事故死して良いよって》

『補佐に回ってくれる役だ』

「あぁ、成程ね。任せるよ、いつでも良いよ」


《良いの?魔道具が無くてもイーライには戻れないんだよ?》

「せめて使い勝手の良い状態で居たいんだ、前のままだと、しがらみが多過ぎるし」


『友人にも、イーライとしては会えなくなるんだが』

「ケントの事は少し気になるけど、僕の事を気に病んで死ぬ様なヤツじゃないし、アイツには友達だって居るし。まぁ、大丈夫でしょう」


《ごめんね、辛い覚悟をさせて》

「いや、そこは本当に周りを信じてるし、いざとなればどうにかしてくれるでしょ?」

『あぁ、出来る限り何とかする』


「うん、信じてる、だから3人で幸せになろうね」


 まだ魔道具は見付かって無いし、神様にも会えて無い。

 けど、イーライはココで死ぬ。


 この覚悟が対価になれば良いんだけど、受け取って貰えるかな。




《ガブリエラ騎士爵って、様々な通り名が有るそうですけれど》

「猛獣、動く肉壁、喋って動く肉壁。男女、化け物、百合の似合わない天使。どれの事が聞きたいのかな?」


《まぁ、凄い》

「遠慮しないで良いんだよ、それともリンゴを砕いてみせようか?」

「それ勿体無くないっすか?」


「ケント君、そこはこう、お皿に」

《あの、失礼致しますわね》


「逃げられてやんの」


「君が逃がしたんだろうに」

「そら俺の株を上げる為っすよ」


「はいはい、賢い賢い」

「またそうやって余裕ぶっこいて、ライアン図書委員長、ローズ嬢に取られちゃうかもですよ?」


「凄い奇跡が起きる事も有るんだな、祝福するよ」

「えー、好きじゃないんすか?」


「なら、君の言う好きとは何なんだろうか、ケント君」


「性欲以外で?」

「だな、お友達のダブルハンドビッグキャビンの事は除外して、だな」


「好きって、何なんすかね?」

「お前が答えないなら答えないぞ、あははははは」


 ライアン先輩は悪いヤツじゃないし、だから少しは水を向けようかなと思ったんだけど。

 クッソ最悪なタイミングで、とんでもない所を見ちゃって、さすがのガブリエラさんも固まっちゃって。


「あ、いやアレは何かの間違いで」

「いや、か弱い方が女はモテるもんだ、仕方無い」


 メリッサめ、何でライアン先輩に泣き付いてんだよアイツ。

 クソが、後で問い詰めてやる。




《何でしょう》

「今度はライアン先輩狙い?節操無さ過ぎじゃね?」


《あ、いいえ、アレは。少し庇って頂いただけで、好意の現れ等では》

「どうだか、つかさ、あの場面俺とガブリエラさんで見ちゃったんだよね」


《説明に行って参りますので、失礼致し》

「いや待てよ、どうしたらあんな風になるワケ?」


《歩きながらご説明させて頂きます》


「まぁ、本当の事なら良いけど」

《突き飛ばされたんです、先輩方に、その先にライアン子爵令息がいらっしゃって、足を捻ってしまい》


「じゃあそんな早く歩くなって」

《嫌なんです、私は応援していたんです、なのに私が障害になるだなんて絶対に嫌なんです》


「イーライの時は無視してたクセに」

《止めて聞くと思いますか?!ローズ嬢に取り入ろうとする者、逆に排除しようとする者が殴り合いをしている様な中で。兎に角、今回は直接お話出来る方なんです、絶対に誤解を解かなくては》


「もし本当に誤解なら、仲を進展させられるかもよ」


《それ、イーライ様の時にも言われましたので却下です》

「いやマジでさ、ちょっと固まってたもんガブリエラさん」


《なら邪魔しないで頂けますかね》

「もう少し後でにしね?ほら医務室も直ぐそこだし、診て貰って包帯巻いて行った方が説得力も増すんじゃね?」


《アナタは誰の味方なんですかね》


「両方、ガブリエラさんと先輩の両方、マジで」


《裏切ったら、家の前で焼身自殺してやりますからね》

「おう、裏切らない」


 本当に裏切ったら死んでやる。

 本当に、私にはライアン先輩に好意は無いし、本当に転けただけなのに。


 最悪、何て日だろう。


『捻挫ね、どうしたの?』

《押されました》

「相手は見て無いんすけど、ライアン先輩が知ってるかも?」


《いえ、走り去る3人が見えただけだそうで、私も後ろから押されただけで見ていません》


『もう男装はしていないのに、酷い嫌がらせね』

《はい、本当に困ります》

「俺、ちょっとガブリエラさんも呼んで来るわ」


《余計な事をしないで下さい、私が行きます》

『ベッドに横になって暫く冷やさせて欲しいのだけれど?』

「マジで余計な事は言わないからさ、な?」


《絶対、ですよ》

「はいはい」

『じゃあベッドへ行きましょうね』


 ガブリエラさんには、絶対に誤解されたくなかったのに。

 何で、どうしてこんな事に。




「あぁ、そうだったんだね、ごめんよ気が付かなくて」

《本当に信じてくれますか?》


「勿論、そもそも捻挫が本当なのだし、ライアン君は良い男だから寧ろ逆に落とす材料になるのに、何も無いと言っているんだし。ライアン君も見たと言っているんだし、大丈夫。その3人を、どうしてやろうか」


《今回は私の不注意も少し含みますので、次は厳罰化を望みます》

「なら、安静にしているんだよ、こうした怪我はクセになるからね」


《はぃ》

「よし、送っていこう、抱えても良いかな?」


《はい》

「なら、抱える前に。次に何か有ったら、コレを吹くんだよ」


《はい、ありがとうございます》


 正直、以降のやり取りについても、良く覚えていない。

 ケント君から、もしかしたら誤解されているかも知れない、と言われ。


 一瞬、何の事だか分からず。

 そしてメリッサ嬢の事だと言われ。


「よし、送って来たよライアン君」

『あ、あぁ、はい』


「何故、彼女を医務室に送ってあげなかったのかな」


『僕と居ると変な注意を引いてしまうと言われ、図書室に戻りました。今となっては、他の者に頼むべきだったと思います』


「物凄く腑抜けている様だけど、何か問題でも有ったんだろうか」


『まだ、少し、整理が難しい事で』


「そう、じゃ、気を付けて」


 偽装結婚についても、職についても正式な書簡は貰っている。

 けれど、彼女の事がどうしても。




《ライアン図書委員長?》


『あぁ、ローズ嬢』

《どうかなさいましたか?》


『いや、いや、少し良いだろうか。個人的な、婚約について聞きたい』


 真正面から、こうして尋ねられた事は初めてで。

 それに、何だか少し切羽詰まっていらっしゃる様な、困っていらっしゃる様で。


 ライアン様なら身分も確かですし、評判も悪くは無い。

 しかも婚約のお悩みなら、お相手は。


《分かりました、ですが少し、場所を移動しても?》

『あぁ、そうだね、構わないよ』


 ココは女子寮の前ですから。


《それで、何を》


『どうして、何故、君はあんな態度だったんだろうか』


《コレは、半ば無意識に、無自覚にも不安を感じ誤魔化していた。その事を前提に聞いて頂けますでしょうか》


『分かった』


《私、最初から好きだったんです、とても》


 可愛らしい、愛らしいイーライ。


 最初は単に照れ屋なのだと。

 けれども気が無い事は直ぐに分かってしまいました、あんまりにも私が高飛車だから。


 けれども、もし、高飛車では無くなり素直に相対した時。

 その時も、同じ態度なら。


 もう、そうした事すらも考える事を拒絶し、高慢な態度を押し通すしか無かった。

 好かれていない、そんな事を認めてしまえば、私は壊れてしまう。


 それ程、好きだった。

 所有出来ているだけで満足すれば良いものを、本当に心まで欲しくて。


『好いていたんだね』

《ですが、焦燥感の方が勝ってしまい、全くイーライには寄り添えてはいませんでした》


『もし君が素直に』

《私は素直になれない気持ちも含め、彼の事を好きなのだと思っていました。何度考えても、あの日の私は素直になれる事は無い、それ程に舞い上がっていたのです。こんなに可愛い方と婚約出来るなんて、なんて私は幸せなんだろう、運が良いのだろう。そう思うのが私でもありますから、例え他の道が有ったとしても、きっと結末は同じかと》


『君は、何を学んだのだろうか』


《素直さ、受け入れる事。受け入れて貰う事ばかりを考えず、先ずは真正面から受け入れ、曲解しない。当たり前な事ですが、好意が絡んでしまうと、とても、とても難しくなってしまうのです》


 またいつか、誰かを好いた時。

 私は同じ轍を踏むかも知れない。


 また、誰かを酷く扱ってしまうかも知れない。

 だからこそ、もう。


『好意とは、扱いが難しいものだね』

《ですね》


『すまない、ガブリエラとの事で悩んでいるんだ』

《少なくとも、私にはとても良い方ですわ。こんな私の相談に乗って頂けますし、気配りも優しさも持っていらっしゃいますから、幸せになって頂きたいと思っております》


『ありがとう』

《いえ、では、失礼致します》


『あ、それからメリッサ嬢の事も、もし何か有れば』

《承知致しました、では》


 ライアン様は、迷っていらっしゃるのでしょうか。

 それなら一体、何を、迷ってらっしゃるのでしょう。


 本当にガブリエラ様は良い方なのに。

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