28 銀河の楽園。
彼女は先輩。
けれど彼女と僕に接点は無かった、今も、昔も。
『初めて、こうしてお話しますね』
「だねぇ、私は運動部を荒らして遊んでいたからね」
『女性にしておくには勿体無い身体能力の持ち主、そして今は騎士爵を持っていらっしゃる』
「男除けの為だよ、無骨者が大嫌いなもんでね」
『信じて広めてしまうかも知れませんよ』
「おう、その程度で傷付く地位じゃないしな、好きにしたら良いさ」
『男勝りだとは聞いていたんですが、その通り、本当に女性らしさの欠片も無いですね』
「褒めてる?」
『勿論ですよ、おべっかもお世辞も嫌いだと、学園中の者が知っていましたからね』
「君は実に女々しいな、良い意味で」
『面と向かって言われると、意外とどう対処したら良いか分からないものですね』
「未だに女を嫌悪しているからじゃないかな、別に嫌っても構わないんだよ、私だって一部の男を嫌悪している。アレを嫌っても、好いていたとしても、別に構わないんだよライアン君」
『それは、アナタに理解が有るからで』
「おう、コレでも女だが、あの女の事は全く分からん。それに幸せそうに過ごしていると聞いて何とも思わない君の事も、全く分からん」
『分からせる事は不可能だと、思っていますから』
「なら次に行けば良いだろうに、まるで前の女に心を残している様で実に不快だ」
『全く、その気は無いんですけどね』
「そう振る舞わない事が不快なんだよ、結局は彼女の妄想通り、君は未だに自分を好きで居てくれてる、私は罪作りな女。ってね」
『どうして僕は煽られているんでしょうね』
「そら立ち直って欲しいからだよ、立ち直ってみて、改めて女が無理ならそう振る舞えば良い。少しは自分の為に動いても良い筈だ、なのに、未だに君には相手が居ない。勿体無い、実に勿体無い」
『なら、もし男色家になったなら、どう思われるんでしょうね』
「そこは別に好きにしたら良いさ。私はね、運命の相手を逃す様な行為が不快だと言っているんだよ、無闇に自分を傷付けても、彼女は何も思わないと言うのに。君は一体、何がしたい、どうしたいんだ」
『正解が知りたいんです、出来るなら、理解したい』
「バカは死んでも直らん、出来る事が有ったとすれば。私なら、事故に見せ掛けて早々に殺すな」
『ふふふ、殺しますか』
「そらそうだろう、アレの管理は伊達じゃない、生かした方が国益を損なう場合も有るんだ。仮にもし王に、女王にあんな者が宛がわれたとしたら、私は周辺纏めて殺処分命令を下すよ」
『流石ですね、近衛になった方の判断は』
「君も来るかい、武門にも文官は必要だし、君は良い看板になりそうだし」
『本気でらっしゃるなら嬉しいんですが』
「本気本気、一筆書いてやろうか?」
『どうして、僕に構うんしょうか、大した利益は齎せないかと』
「影が出来て可愛くなったからだよ、それに偽装結婚相手に良いかと思ってね。どうだい?好きな女が出来たら離縁してやるし、それでも仕事に影響が出ない様に手も回す」
『僕が可愛い、ですか』
「ケントよりは可愛いぞ、マジで良い影の具合だし、女装させたら似合いそうだと改めて思った」
『女装』
「そうすれば私達でも、少しはお似合いに見えるだろ?」
『ふふふ、そう僕の評判を落としても』
「もー、本気なんだけどなぁ。よし、本当に一筆書いてやるから待ってろ、受付業務とかになるけど構わないよな?」
『あの、近衛を出来る様な』
「大丈夫大丈夫、マジで文官は必要だし、戦いが不得手でも出来る事は沢山有るんだ。やれ掃除だ洗濯だ、それに料理も、と言うか経理に書類整理に本当に文官の仕事は多いんだけど。君みたいに遠慮して応募して来てくれないから、いつも横取りしてるらしい」
『横取り、文官の取り合いをしてるんですか?』
「と言うかもう、ウチに奪われる用に予備を雇って、でウチが強奪するのを待つ。だから直ぐに逃げられちゃうんだけど、まぁ、給料が良いから残ってくれるのも半々らしい。あ、婚約の事は別の紙に書くかい、ウチの文官になって欲しいのはマジだし」
『冗談では』
「お世辞もおべっかも嫌いだと知ってるんじゃなかったのか?」
『そう、ですけど』
「何だ、やりたい仕事が有るなら言ってくれれば、半々にはさせるが」
『それは、別に無いですが』
「よし、じゃあウチの文官だな、助かるよマジで」
『あの、なら偽造結婚は』
「本気だが、嫌なら断ってくれて構わないぞ、君に女装させる大前提だからな」
『本気ですか?』
「おう、女装してくれたら抱ける自信が有る、と思う」
『抱ける、ですか』
「目を瞑って寝転がってくれてれば良いよ、苦痛だろう、こんな男女の相手は」
『ちょっと、整理が追い付かないので、そこまでは思い浮かべられないんですが』
「まぁまぁ、流されてみるのも一興だよ。はい、仕事用の書簡だ、確認が済んだら印を押すよ」
『あぁ、はい、どうも』
全く、意味が分からない。
仕事や偽装結婚はまだしも、女装だなんて。
何を考えているんだろうか、彼女は。
「諸君!私は女王直轄の第13近衛師団小隊長、サンジェルマン・ガブリエラだ。数々の問題が起きた事で、女王の命により私が暫く滞在し、君達を指導する事になった。相談でも決闘でも受け付けるぞ、宜しく!」
ウチの祖父が後見人になった、ガブリエラさん。
マジでウチに暫く居るんだ。
《凄いの来たねぇ》
『あぁ、もう少し前に来てくれていれば』
「お前は確実にボコボコにされてるだろうけど良いの?」
『俺は兎も角、イーライ令息の事だ』
《まぁ、守ってくれたらなとは思うけど、学園としても醜聞が直接陛下の耳に入るのは嫌だったんじゃない?》
「だとしてもなぁ、今かよ、って感じだよな、本当」
絶対にどうにかなってただろうって、理屈抜きで思っちゃうんだよな。
アホみたいに強いし。
「ようケント、少し付き合いなさい」
「あ、はぃ」
学園内の事は分かってる筈なのに、園芸部に付き合わされて。
それから図書室へ。
真っ白い薔薇の花束持って、何しに行くんだこの人。
「ライアン」
『はい、何でしょうかガブリエラ騎士爵』
「婚約しよう。はい、プレゼント」
バカみたいに強くて、バカみたいに男嫌いなのに。
分かんないわ相変わらず。
マジで分かんないわ、ガブリエラさん。
『あの、先ずは友人からと言う事にして頂けませんか』
「だよね、それココで飾って良いから、じゃあね」
分かんないわ、マジで。
『あの、ガブリエラさん、そもそも本気なのかどうか』
「あ、本気本気」
ライアン君が教員室に来てくれたのは良いんだけど。
『はぁ』
軽く婚約の申し込みをしただけなのに、そんなに嫌か。
ですよね、ゴリラ女を体現してんだし。
「嫌なら直ぐに断っても職には」
『あっさり引かれたので、冗談かと』
「いやしつこくしても答えは変わらなそうだったし、そう重く受け止めて欲しいとも思って無いから引いたんだが、あそこは粘るべきだったんだろうか」
『確かにしつこくされても困ったとは思いますけど、こう、いきなり花束は』
「んー、何なら良かったんだ?」
『そこは、花束でも、女性なら構わないとは思いますが』
「嫌いか花」
『いえ、ですけど。本当に僕と婚約する気ですか?』
「はい、書簡」
女王様からも印を貰ってある紙だから、凄い効力の筈なんだけど。
『コレ、この印』
「うん、陛下の。条件悪い?もっと何か改善する?」
『こんな、資産を貰うワケには』
「いやだってさ、この位は賭けないと本気度合いって伝わらないだろうし、コレと婚約は不名誉でしょうよ。君にも得が無いとね、あげられるの金だけですまんね」
『どうして僕なんですか』
「だから女装が似合いそうだから」
『はぁ』
「いやマジだって」
『イーライ君ならまだ分かりますが』
「あぁ、アレな、可愛いけどもう先約が有ったし。人のを奪う趣味無いし、そこまで結婚する気も無かったし」
『なら、何故僕と偽装だとしても』
「最悪はヤれるかなと思って。まぁ、君は嫌だろうけど、それならそれで、証拠を先に渡しておこうか?」
『証拠?』
「浮気した証拠、つか破棄証と離縁状を先に渡しておくよ」
『何故』
「可愛いからだって言ってるじゃないか」
女装したら凄い良さそう。
とか電撃が走って、コレならイケるな、と。
何か一目惚れとはちょっと違うけど、一緒に住むには楽そうだなと思ったんだけど。
『はぁ』
「だーかーら、嫌なら断れ。何が不安かね」
『真意を分かりかねているからですよ、どうして僕なのか、何故僕なのか』
「一緒に住むにしても楽そうだし、本当に女装が似合いそうで抱けそうで、お互い利益しか無いかなと思ったんだけど。嫌ならマジで無理するな、別に結婚しなくても死なないし」
お誘いだなんだは相変わらずだし、結婚したらしたでハニトラ有るだろうし、大変さはそこまで変わらないとは思うけど。
癒されたいじゃん。
イーライ君でも良かったんだけど、あのパトリックにぶっ殺されるのも嫌だし、基本的には先着順は守りたいし。
『もし、女装してもアナタがダメだったら』
「女装無しで同居人として住めば良いし、別れるまでも無いと思えば外で遊べば良いじゃないか、コッチもそうするし」
『念の為に確認しますけど、別に僕の事を好きなワケでは』
「今はね、だって何も知らないじゃないか、お互いに」
『あぁ、まぁ、そうですけど』
「そら好き合えたら浮気はしないよ、けど君にだって選ぶ権利が有るんだからさ、そこを優先するってだけだよ」
国に尽くすから動けるメスゴリラにして下さい。
って、毎晩お願いしてたからか、天使様も協力してくれる事になったんだよね。
まぁ、性別を変えようとか思えば良かったんだけど。
楽しいんだよね、動くの。
ソッチ優先させてたらまぁ、こうなったワケで。
『食べ物は、何が好きですか』
「何だね、その不服そうな顔は、無理しなくて良いんだぞ?」
『コレは、まだ整理が追い付かないだけで、不服ではありません』
あぁ、ほらコレだ。
可愛い気配がしてた通り、可愛いじゃん。
「成程ね」




