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27 硝子の若者。

《もう、私、耐えられない》


 彼女が他の貴族から避けられていた事は知っていた。

 けれども、それは彼女にも原因が有る。


『暫く他の男子生徒の接触は』

《どうして嫉妬するの、私はこんなにもアナタを愛しているのに》


『嫉妬や不安から言ってるだけじゃないんだ、彼らにも婚約者が居る、そうした者に対して君は近過ぎるんだよ』


《ただ、私は皆と仲良くしたいだけなのに》

『分かるよ、けれどもココは学園、どうしてもココには合わせなくてはいけないんだよ』


《本当に私はアナタだけが》

『うん、それは分かっているよ、大丈夫。けれどもう少し行動を変えよう、このままだと本当に君の立場が悪くなってしまうから、ね?』


《ぅん、分かったわ》


 それでも、彼女は話を聞いてはくれなかった。


《良い加減になさって下さい!ライアン様に同じ事をされても、アナタは許せますの?!》

《ライアンはそんな、疑われる様な事はしなわ!》


《アナタが言いますの?!》

《だってライアンは私だけって言ってくれるもの》

『すまない、僕からも言い聞かせておくから、今日はもう、本当に、すまない』


《ライアン様の為に今日は下がりますわ、けれども良くお考えになって》


《ライアン、あの方とは》

『今日初めて会話したよ、さ、行こう』


 賢いなら、愚か者に分かる様に説明が出来る筈、愚か者すら御せる筈。


 僕も彼女と出会うまでは、そう思っていた。

 単に純粋無垢なだけ、物を知らないだけだ、と。


 けれど、僕に彼女を御せる能力は無かった。

 あまりに力不足だった。


《ごめんなさい、ライアン》


『はぁ』

《あのね、彼がどうしてもって言うから、可哀想で断れなくて》


『君に裏切られた僕は、可哀想では無いのかな』

《でもアナタには私が居るもの》


 眩暈がした。

 不貞を働いた事に罪悪感の欠片も無く、自己の評価は高いまま。


 勉学もそこそこ、貴族の男が関わりさえしなければ、領地での評判は寧ろ良い子だった。


 なのに。

 コレ。


 お相手のご両親に理解を得られるまで、とても長い時間が掛かってしまった。

 それこそ領地では問題は無く、学園や教員には不貞はバレていない為、僕の嫉妬や勘違いだと。


 けれど、再び問題が起きてしまった。


《良い加減になさって!もう、何もかも知っているのよ!!》


《あ、誤解なさってるのね。違うの、私にはライアンだけで》

《私にもあの方だけだったのよ!!》


 婚約者を寝取られてしまったと知ったご令嬢に、彼女は水を掛けられた。


 この時のご令嬢には、後に彼女の家が多額の賠償金を支払っている。

 令嬢として表に出してはならない者を管理せず、野放しにした罪で、王侯貴族裁判所からの命令により未だに賠償金を支払い続けている。


 金額は一括でも支払える金額。

 けれども、敢えて分割払いとなっている。


「先輩、あの」

『あぁ、お祖父様から聞いたんだねケント君』


「はい、関わりが有るなら、知っておくべきだって。だから、知ったって言おうと思って」


『どう思っているのかな』

「先輩も、どうにか出来たんじゃないかって、もしかしてまだ悩んでるんですかね?」


『そうだね、割り切ったと思っていたけれど、まだしこりが残っているらしい。つい、この前、暴発してしまったからね』

「あぁ、アレぶん殴った時ですよね」


 監禁の事は、イーライ君の為にも無かった事になっている。

 けれど、彼は知っている筈なのに。


 純粋なんだろうね。


『いや、その前だよ』


「いやでもアレ、結果的に良かったと思いますけどね俺は。それこそ近しいのに、何もしなかったんだし」

『理想論は誰にでも言える、けれど実際に、その立場になった時。君には守るべき立場が有ったけど、もう、僕はどうでも良かったからね、そこが違っただけ。それで、どうたったのかな、平民の立場から考える事について』


「と言うか、イーライが学園に居る利点を考えろって。でまぁ、アイツは学園で収まる様な器じゃないのかもって。なんで、また振り出しっすね」

『そうだね、学園で過ごす事が全てでは無いからね』


「それ分かってて、何で居るんすか?」


『答えを探しているんだ、どうしたら良かったのか、何が出来たかの答えをね』

「俺も手伝いましょうか?」


『ありがとう、助かるよ、取り敢えずは本を戻してくれるかな』

「うっす」


 彼女も、もう少し素直であったなら。

 いや、それはまた違う話になってしまうね。




「それで、君も男装の素晴らしさに目覚めたのか、メリッサ嬢」

《はい、制服の種類は規定には有りませんが、先ずは異性装を恥ずべき行為だとする事から覆すべきだと思い、こうして異性装をさせて頂いています》


「それ、庶民の君が率先すると逆効果じゃない?」


《それは》


「庶民を言い訳にするのは良いけど、やっぱり国を動かすのは貴族なんだし、暫くは貴族の補佐をした方が良いと思うよ」


 ココ、中世ナーロッパかよ、絶対に馴染めねぇ。


 とか思ってたけど、何とかなるもんで。

 まぁ、女王陛下の元でバシバシ働いてるから、好き勝手させて貰えてるんだけど。


《ですけど、私の補佐を必要とする方って》

「居る居る、大丈夫大丈夫、君がしてるから出来無いだけ。任せなさい」


《はい!》


 生まれ変わるなら、異世界じゃん。

 とか思ってたけどさ、にしてもよ。


「お、あ、おっす」

「おうケント君、どうよ最近」


「ぁあ、俺、ソイツ嫌いっす」


 メリッサ嬢と揉めたのは知ってるけど、素直過ぎ。


「まぁまぁ、誤解が有るだろうとは断言しないけど。許せる分だけ許してやんなよ、お互いの為にな」


「まぁ、少しなら」

「はいはい、メリッサ嬢も睨まない、コイツ意外と良いヤツだから大丈夫。お互いの階級が思考を妨げてる前提で考えなさい、良いね?」


《はぃ》


 この体、女なんだよね。

 でも男を相手にすんのが嫌で、男装を始めて、今では近衛よ。


 で、今日は女王陛下の命で母校の学園に来たんだけど。


 もうね、この姿も相まって注目の的よ。

 直近の後輩はコッチを知ってるから驚かないけど、まぁ視線が刺さる刺さる。


「と言うかケント君、どうして付いて来てるのかな?」


「ちょっと、会わせたい人が居るんですけど。知ってますかね、ライアン図書委員長」

「あぁ、うん、知っているけれど交流は無かったね」


 ヤベェ女の世話をして疲弊してた子で、すっかり暗くなった、とは聞いてたけど。

 まだダメか。


「何か、まだ悩んでるっぽくて、何とかなりませんかね?」

「相変わらず無茶を言うね君は」


 練習せずに強くなりたい。

 とかアホな事を言う子だったんだけど、まぁ、可愛げが有るからついつい構っちゃうんだよね。


 愛され後輩系男子。


 女の子だったらなぁ。

 せめて噂のイーライ君みたいに可愛かったら良いんだけど、男の子、って感じだからなぁ。


「そこを、ね?」


「会っても良いけれど、彼が私に相談するとは限らないんだから、そう期待しないでくれるかな?」

「そこは、はい、先生の容姿が大前提なだけなんで」


「あぁ」

「けど、かも、なんで、別なら別で、そう、対応しようかなと思って」


「優しいねぇ」

「別に、イーライの事が有ったから、だけですし」


 その転生者イーライがコレから起こす問題への対処も兼ねて、ココに暫く滞在する事になったんだけど。

 ライアン君もなぁ、フォローしたかったんだけど、コッチは女だったし。


 いや、相変わらず女のままなんだけども。


「じゃあ、君は付いてくるなよ少年」

「はいはい」


 さ、会話してくれるかな。


「どうもライアン君、ケント君に頼まれて来たんだけれど、少し良いかな」

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