26 星の光。
うん、船で爆睡だったよね。
パトリックとウォルターは起こし合ったらしいけど、うん、コレは寝過ぎだと思う。
「何で起こさない、夜眠れなくなったらどうすんの」
《それは、まぁ、ね?》
『私達で眠れる様にするから大丈夫ですよ』
その方法よ、出し過ぎて本当に赤い玉が出たらどうすんのよ。
パトリックは戻せばとか言ってたけど、普通に詰まりそうだよね、色々と。
《さ、食べに行こう、スウェーデン名物》
お昼過ぎに船で着いたのは、マルメー。
先ずは宿を取って、お風呂に入って着替えて。
洗濯は宿の人とキャサリンに任せて、遅いお昼に出掛ける。
キャサリンはお風呂に入った後、宿のサンドを食べて直ぐに洗濯へ。
親が厳格な菜食主義者でアイス以外に興味が湧かなくなったんだって、だから差し入れは甘味を買って帰るつもりなんだけど。
「何、この、クロップカコールって」
原材料表記はされてるから、芋と肉が使われてるのは分かるんだけど。
《食べてみよう、ウォルターは何でも食べられる様に躾けられたし》
『ニガヨモギ以外は、何とか』
「よし食べてみよう」
芋料理が多いんだよねマジで。
ヤンソンさんの誘惑ってのも芋料理だし、ハッセルバックポテトとか言うベイクドポテトっぽいのとか、ピッティパンナとか言う角切り炒めとか。
けど栄養面を考えて、ニシンの酢漬けサンドとクロップカコールとヤンソンさんを注文。
うん、美味い。
コケモモジャム美味い、欲しいな1瓶。
《あの、コレは》
「コケモモジャム、非常食にも良いかなと思って、いつもありがとうキャサリン、あげる」
《ありがとうございます、イーライ様》
この先は再び長旅となるので、丁度欲しかったんですよね。
こうした気配りをして頂けるのに、パトリックの妹、ローズ嬢は何て勿体無い事を。
いえ、寧ろ私には良い機会だとは思いましたけどね。
もし、万が一が有れば、私のモノに出来る。
好きなんですよね、生意気な子女。
ですが、すっかり大人しくなられたそうで。
残念です、屈服させたかったのに。
「はぁ、マジで穏やかなのが逆に悔しいわ」
イーライが学園を去ったから、マジで静か。
悔しいな。
アイツが去ったのが正しいみたいで、マジで悔しい。
《寂しいですね、本当に》
最後の最後でイーライを休学に追い込んだ、メリッサ。
平民枠で入学した園芸の才能が有る、男装令嬢。
まぁ、平民だから令嬢でも無いんだけど。
「お前のせいでも有るからな?」
《果たして、本当にそうでしょうか》
「は、開き直」
《私はただイーライ様の気持ちが分かるからこそ、贈り物をと思っただけです、それを利用したのは貴族の令息や令嬢。単なる平民の私に何が出来たんでしょうか?》
「俺らに」
《関わり始めたのはつい最近ですよね、アナタ方が安心安全だと私に分かると思いますか?》
「いや、まぁ、そりゃそうかもだけど」
《悪く利用された事は凄く残念ですけど、じゃあ私に何が出来たのか。警告なんかすれば私が目を付けられてしまう、理解している、と贈り物をしただけ。それを利用されてしまう事を私に防ぐ事は、本当に出来たと思いますか》
「俺に貴族批判をされても困る」
《なら私を批判されてももっと困ります、貴族に利用された単なる平民、防ぐ術が無かったんですから》
「送らなければ」
《応援もダメですか》
「いや、それは」
《仮に先生方に相談したとしても、ノブレスオブリージュを理解しない平民の戯言か、イーライ様に言い寄りたいだけか。結局は警戒され何も出来なかった筈、それでも何か私に出来たのでしょうか、私はただ、イーライ様は正しいと理解している、そう示したかっただけ》
困る、幾ら男装してても女。
静かに泣かれると本当、マジで困る。
「俺だって我慢してたんだけど」
《ですが身を守る為に控えていた面も有りますよね》
クッソ分かってんじゃねぇかよ、貴族の立場。
「だとしても、お前を許せない」
《八つ当たりですね》
分かってるっつの。
「はぁ」
《私は責めませんよ、其々に事情が有るでしょうから》
「あぁ、なら次はライアン図書委員長でも狙えば良いんじゃないか、あの人も」
《男臭い方はちょっと、唯一と言って良い程、イーライ様しか無理ですから》
「アレで男臭いって」
《イーライ様並みに可愛い方はもう、現れ無いかも知れませんね》
「結局、外見かよ」
《年上の豊満な女性が好きだそうで》
「お前」
《学園内に鳩しか居ないワケでは無いですから、燕だって居るんですよ、ココ》
最高位直轄の暗部が居るって、パトリック兄ちゃんが言ってたけど。
まさか、まさかね。
だってコイツ、平民だし。
「もう俺を探るなよ」
《アナタには全く興味も無いので大丈夫ですから、ご心配無く》
気に食わねぇ。
《あの、ライアン図書委員長、コレを読んで頂けますか》
監禁後、新たにイーライ君を守った事で、僕の評判が上がってしまった。
正直、全く嬉しく無い。
僕は婚約者を、元婚約者を守れなかったクズなのだから。
『僕はね、婚約者を守れなくて、元婚約者と呼ばざるを得なくなったクズなんだ。君の様に品の良い貴族令嬢が好意を示すべき相手では無いよ、すまないね、ありがとう』
《まだ、そのお相手を》
『いや、もう新しい婚約者と幸せにしているそうだし、僕にそうした未練は無いよ』
《では何故》
『罪の意識、罪悪感と、女性の怖さについて良く理解してしまったんだ。君が例えどんなに心優しい女性だとしても、今はまだ、そうした相手として見る事は全く出来ないんだ』
《でも、気持ちだけでも》
『いつか君が心変わりをして、僕に何か品物を残していた時、きっと君は不安になる筈。コレは君の為にも受け取れないよ、ありがとう、すまないね』
《分かりました、失礼致します》
『すまないね、ありがとう』
僕は強引な方法でイーライ君を守ろうとしてしまった。
あの時は本当に、異常だった、常軌を逸していた。
守ろうとしながらも、何処か攻撃性を含んでいて、僅かに八つ当たりすらも含んでいた。
無意識に、無自覚に。
「先輩、モテモテっすね」
『あぁ、ケント君、手伝いに来てくれたのかな?』
「まぁ、半々っすね、あのメリッサって女が気に食わない」
『ぁあ、女性物の贈り物については未だに議論が行われているからね、難しい問題だと思うよ』
「何か、開き直られた」
『実際に平民に何が出来たか、僕らは生まれならがらの貴族だからね。けれど、君の祖父は確か、平民だったよね』
「何も考えずに尋ねたら絶対にぶん殴られるんで嫌なんすよ」
『そうして問題を永遠に追求しないままだと、また同じ苦しみを味わうかも知れないよ』
「先輩に何が有ったんすか、実際」
『君が祖父に尋ねたら、教えてあげるよ』
「えー、俺、怒られるの嫌いなんすけど」
『尋ね方だと思うけどね、悩んでもどうしても分からない事が有り過ぎて、糸口が掴めない、とかね』
「全部、入れ知恵だってバレるんすけど」
『そこもしっかり伝えれば良いんだよ、僕に尋ねるべきだと言われ、平民について尋ねる事にした、とね』
「マジでボッコボコに怒られたら」
『食堂で奢ってあげるよ、好きな物を好きなだけ』
「約束ですからね、マジで」
『あぁ、男同士の約束だ』
「はぁ」
『綺麗な字で書くのがオススメだよ、じゃあね』
「うーっす」
元婚約者は、学園内で酷い虐めを受け、学園を去った。
そして僕との婚約も破棄。
表は、そこだけ。
裏を知る者は、極僅か。
彼が、ケント君が真実を知ったら、どう思うんだろうか。




