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25 ふねの旅路。

 本当に天使様に見守って貰えてるみたいで、凄く天気が良くて順風満帆。

 日が出るのも早くなって来てるので、7日目にはデンマークの先頭に着いた。


《先ずはご自分のお名前、お連れ様とのご関係をお願いします》

「セシル・イーライ、彼らは僕の遊学の同行者です。婚約破棄に伴い周りが騒がしくなってしまったので、遊学に出る事にしました」


 パスポートみたいな姿絵と釣書きを確認して貰って、何枚も親が書いてくれた保証書を1枚。

 不思議な形のハサミで切り取った。


 コレ書くの大変だったろうな、サインと当主の印章で判押し、乾かしたら紐で纏める。


 何枚も何枚も、足りなくならない様に書いてくれた、保証書の束の厚さは情愛の厚さ。

 仕事も有るのに、大変だったろうな。


《では次にアナタで》

《彼の元婚約者の兄であり幼馴染なので同行しています、キャベンディッシュ・パトリックと申します》


 パトリックの保護者とか後見人はお祖父さん、仕事量は少ないけど引退した身だし。

 大変だったろうな、腰悪くしてる人だし。


『ヴィリアーズ・ウォルターです。彼の婚約破棄の際に関わる事になり、そのまま同行する事になった学園の厩務員(グルーム)、御者です』


 ウォルターは当主だけど男爵位だから、国を跨ぐ場合は上位貴族の後見人が必要なんだけど。

 その後見人が、あの有名なカサノヴァ家。


 どうやって知り合ったんだろ、それとも王族からの根回しかな。 


《コチラに印章とサインをお願い致します》


 当主は別の手間が掛かるんだ、成程。


《キャベンディッシュ家に雇われ、侍女をしております、レッドフィールド・キャサリンと申します》


 パトリックのお祖父様が保証人になってる、けどコレ、多分本当はパトリックなんだろうけど。

 この方が良いって事だよね。


《では、旅路の行程表の提出をお願いします》

《飽くまでも彼の為の予定である事をご了承下さい、行程表の控えの管理はセシル家です》


 船に乗る前にパトリックが書き写してた行程表、ココで渡す為だったらしい。

 原本と割印をしてある工程表は預かりへ、それから荷物検査、身体検査は未申請の武器所持用で軽めにパンパンして終わり。


 うん。

 検閲しっかりしてるなぁ。


《ご苦労様でした、審査は以上です》

「お疲れ様です、ありがとうございました」


《いえ、では、失礼致します》


 こんな感じで丁寧に審査するから、後半の者は大概はココに泊まって、翌日に乗り合い船で再び海に出る。

 定期便は1日2回、貴族用と労働者用が合計4便出る、そして急ぎの人はチャーター便だけど当然高い。


「毎回、行程表書くの大変じゃない?」

《字の練習だよ、そう公式に残るモノって意外と書かないし、良い練習になるんだよ》


「あー、残るのか、そっか」

《多分、書き写したのは港が、何処かの書庫だろうね》


「志が低いんだけど、書庫の役人になるとか考えてたんだよね、何事も無いなら暇で安全そうだし」

『戦や争い事が無ければ、最も安全だとは思うが』

《体が丈夫じゃ無かったから諦めたんだよね》


 あれ、それ担任の教師にしか言って無いんだけど。


「僕の記録見たの?」

《うん、勿論だよ》


「ぅわぁ、凄い好きじゃん」

《うん》

『本来なら見れる役職では、無かったんだな』


《まぁまぁ、泊まるか船に乗るか、どうする?》

「泊まるでしょう、食べてみたいもん、名物」


 デンマーク名物、ミートボールに皮付きローストポーク、茹でタラ。

 そしてフレークとアイスクリーム入りのリンゴパフェ。


 アイス、時代的に絶対早い気がするんだけど。

 向こうでも無い筈の甘いゼリーが、フランク王国経由で既に普及してるからなぁ。


 コレも転移転生者の仕業だよね、絶対。


《好きだね、甘い物》

「年齢的に外ではお酒が飲めないし、何か、無限に食べれる気がする」

《分かります、アイスクリームの海に溺れたい》

『凄く冷えると思いますが』


《女は体を冷やしてはいけませんから制限が有るんです、けど男性は羨ましい、寧ろ下腹部は冷やす方が良いとされてますからね》


 蛋白質だからね、熱に弱いのは本当、高熱を出し続ければ子種が尽きると向こうでも言われてたし。


「女性は血の巡りが悪いと良くないとも聞くしね」

《どうせ産ませる為のお気遣いでしょうけれど、産まぬとなれば好きに食べさせて欲しいんですがね》


「ぁあ、休暇には好きに食べて良いよ、僕が許す」

《ありがとうございます》


 好きな人の子供の為に色んな事を我慢したのに、産めなかった時、どんな気持ちなんだろうか。

 最初から産めないのとワケが違う、頑張って気を付けて、期待して。


 なのに自分に裏切られる。

 捨てられるか、自分から捨てるか。


 どれを選んでも辛い、苦しい。

 きっと、一生永遠に自分を恨むか、この世を憎むか。


 どうしたら良いんだろうか、その辛さを女性はどう昇華させるんだろうか。

 それとも延々に溜め込んだままなのか。


「どうしたら良いんだろうね」




 イーライ様が、どうしたら産めない女性が心穏やかに居られるのだろうか、と。


《私は最初から産む気が無かったので分かりかねますが、意外と肩の荷が下りたと思われる方も、それなりにいらっしゃいますよ》


「本当に?」

《産むだけなら良いですが、それこそクソに嫁いでしまって子孫を残さねばならない時、そのクソから守りながら教育せねばいけません。ですが奇跡的に2年妊娠せずに離縁となり、その後の婚姻で子を成せた方もいらっしゃいます。それに出来てしまっても、何故か具合を悪くし離縁となった方も居られる。そう全ての方が重荷を背負われているワケでは無いんです、なんせ私の様な者も居りますし、産むより勉学を選ぶ方も多いですから》


 学び賢くなられて困るのは男性、だからこそ未だに地方では女児に教育を受けさせようとしない者も居る。

 けれども、あまりにも愚かな母親でも苦労する、要するに愚かな男は我儘で自信が無くて面倒くさがり。


 つまりはバカなんです。


「キャサリンは性別が選べたらどうする?」

《女性のままで女性を愛したいので、別に。ただ、まぁ、子作りの時だけ男性になれたら良いとは思った事も有りますが。やっぱり嫌ですね、今度は無いモノねだりをされても、愛が欠けそうなので》


「あぁ」


 最も無いモノねだりをしているのは私なんですけどね、女性同士て婚姻と子供が成せれば、と。

 けれども私の願いよりもイーライ様の願いは遥かに小さい、女性となり子を成したい、とゴマ粒程の願いの為に旅に出た。


 だからこそ、どうか叶って欲しい。


《お気遣い頂きありがとうございます、女性として、お礼申し上げます》

「あ、いや、視野が狭かったよ。産みたがる女性ばかりじゃないと分かってたのに、ごめんね」


《いえ、イーライ様は心に傷を負った女性の事を考えて下さいました。しかも深く、真剣に、それはとても稀有なんです。お優しく聡明なお考えに自信を、そうですね、パトリックとウォルター様に、この素晴らしいお考えを聞いて頂きましょう》

「ダメダメ、何か恥ずかしいし勘弁して、自分で後で言う」


《言ったかどうか確認する手間が発生しますし、きっと今はヤキモチを妬いてますから、鎮める為にも教えなくては》

「いや絶対に碌でも無い事になるからダメだよ、僕の身が保たなくなる事は勘弁して」


《セシル家では良い子でらっしゃいましたし、船でも、そろそろご褒美は必要かと》

「僕の意見を無視してるね?」


《大丈夫ですよ、私が洗濯をするワケでは無いですし、マルメ―までは船でお休みになれば宜しいんですから。さ、2人の部屋へ行きましょう》


 イーライ様は可愛い女の子になるに決まってますし、応援しないワケにはいきません。

 私は、可愛い女の子に囲まれて余生を過ごしたいんですから。




『そこを考え込んで、素晴らしいと思うんだが』

《うん、何を悩んでるのかと思ったけど、流石、優しいね》

《では、失礼致しますね》

「もー、恥ずかしいから止めて、凄い浅はかだった」


『いや、私はそこまで考えた事も無かった』

「それはウォルターが誰も対象じゃ無かったからだし」

《僕はイーライが女性になっても産めなかったら、どうするんだろうって、思うんだけど》


「そこはもう、そこまでしてダメなら諦めて貰う事にした。何も悪い事をしてない2人でも不妊になる時は不妊になる、コレは運、それでも子供が欲しいならもう。僕を愛してるんじゃなくて、自分の子供を愛したいだけの自分勝手なクズって事にする、そうじゃなくても勝手にそう思い込んでキャサリンと暮らす」


『イーライ』

「恋人じゃなくて、キャサリンはきっとそうなった僕を凄く励ましてくれるかなと、思って」

《何で僕ら2人共に捨てるって事になってるの?》


「人って、急に子供が欲しくなる時期が有るんだよ。女性でも男性でも、ココではそうなる前に結婚するか修道女になるかだけど、向こうは36で初婚でそこから妊娠しようと頑張る人も居る。パトリックやウォルターを信じてないんじゃなくて、人の本能を信じてる、欲を信じてる」


《それだけ人の嫌な部分を見てきたって事だよね》

「まぁ、嫌な部分って言うか、どうしようも無い部分、かな」


《そう怖くなる位に僕らが大好き》

「まぁ、そうだけど」


 私の考えは変わらない、とは言えない。

 誰も愛せない不能者だと思っていた事すら、既に覆ってしまっているのだから。


 ならば如何に不安にさせないか、不安を解消させられるかを常に考えたが、分からない。


『どうしたら私達を信じる心が不安を上回れるんだろうか』

《言葉や行動が足りない?》


「違うと思うんだけど、積み重ねだから、積み重ねるしか無いと思う」

《じゃあ言葉と経験を重ねよう》

『愛してる』


 愛の言葉の語彙は有っても、実際に気持ちを込めて言葉に出来る単語は少ない。

 だからこそ、正直、パトリックの強引さに助けられている。




《おはようございます、イーライ様に食事を摂らせて下さい》

「おはようキャサリン、若干、僕に不都合な方向へ柔軟になっていってない?」


《可愛い女児の為だと切り替えただけですのでご安心を、では、失礼致します》


《イーライ、何が不都合なの?》

「明らかに事後の姿を知り合いに見られるのは、恥ずかしぃ」

『事は終わってはいないよ、始まってもいないのだから』


「ウォルター、それ屁理屈」

《いや、始まって無いから事後じゃないのは確か。はい、スープ》


 イーライの体は多少は慣れてくれても、まだまだ。

 痛い思いはさせたくないし、体の負担を軽くしてあげたい。


 何よりも早く、ちゃんとしたい。


 本当に、良い時期に婚約破棄になってくれたと思う。

 もっと早い時期だったら、流石に無理、色々と無理。


「ご馳走様でした」

《お湯を張っておいたよ、今日は僕ね》


「はぁ、ありがとうパトリック。バスタブ最高、ありがとうございます先代の方々」


 イーライには言っていないけれど、生かされ無かった転移転生者らしき者の記録は残ってる。

 それは偽者として処分された者の記録。


 特に転移者がどんな風に騙ったのかが記録されていて、処分方法も様々。


 資源とすら認められる事は無く、種馬にすらされなかった者。

 放蕩の限りを尽くし、成果を出せず、最高位の側近に処分された者。


 彼ら彼女達に共通するのは、驕り高ぶりや慢心、異常なまでの自己評価の高さ。


 イーライには無い特性。

 だからこそ、敢えて言わなかった。


 その事をウォルターも黙認した。


《はい、次はウォルターね》

『あぁ』


 ローズと居た反動なのか、僕はつい話し過ぎる事も有り、ウォルターの寡黙さに助けられた事は何度も有った。


 考えている時に黙る時間が長い程、僕は真面目さや誠実さを感じる。

 だからこそ、一時は本気で王になって欲しいとも思った。


 けれど、何も優秀なだけで王になれるワケじゃない、それだけでなるべきでは無い。

 世渡りや口の上手さ、身内さえも切り捨てられる冷酷さ、打たれ強さが無ければいけない。


 そして何よりも繁殖力と健康。

 王家の最高位に最も求められるのは、賢い子孫が多く残せるかどうか。


 メアリーは早々に子供を3人生み、母子共に健康のままに代替わりの時期を迎え、女王に選ばれた。


 けれどもし子の数が少なく、その子が愚かなら、傀儡よりも酷い扱いを受ける事になる。

 最高位は種馬か産む人形にさせられ、その中でも賢い者が出なければ、再び同じ事が繰り返される。


 幸いにもメアリーの子供は今の所は問題は無いし、メアリーの姉妹も複数で、子供も多い。

 僕もパトリックも運が良い、凄く。


「パトリック、黙ってるけど、何を企んでるの?」

《生まれた時代もイーライに出会えたのも、ウォルターと僕は凄く運が良いなと思って》


 もしかしたら、僕らは種馬化させられていたかも知れない。

 器具や男を使われ、好きでも無い相手にただ射精するだけの存在。


「ぁあ、そこも上手いよね、兄弟姉妹で支え合う明確な理由が有るんだし。凄いなぁ、本当に凄いな先代達」


《超えたいとかは思わない?》

「無いね、僕は保守派、維持も維持で大事なこと事だと思うし」


《でも遠慮はしないでね、我慢は体に良くないし》

「好き放題し過ぎもね、いつか赤い玉が出そうで怖いんだけど」


《それ、元に戻したらダメなのかな?》


「考えた事も無かった、成程」

《どんなイーライも可愛いよ、愛してる》


 転移転生者の中には、魔法の存在に馴染めず苦悩した者も居るらしい。

 僕らには全く分からないけれど、そんなにも魔法は異質な存在なんだろうか。

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