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20 泣いて走れ。

『え、何の事ですか?』

《ルビー・バード男爵令嬢、伝書鳩の鳩子、又はピジョンブラッド。悪質な流言飛語を流布した者として容疑が掛かっております、ご同行を》


『えっと、準備してから』

《逃亡、隠蔽を阻止する為に身柄を拘束致しますので、無理です》


 ヤバい、最低限は証拠を隠滅しないと。


『あの、お手洗いに』

《では同行致しますので、目の前でお願い致します》


『え、いや』

《貴女に拒否する権利は有りません》


 警備隊にどうして女が、とか思ってたけど。

 コレ、こう言う事なのね。


 詰んだ。


『分かりました、お手洗いに行きます』

《はい、ではドアは空けたままで、私は中に入ります》


 本当に見られるんだ。

 大変なお仕事、平民なのかな。


『大変ですね』

《いえ、コレも国と王と民の為ですから》


『平民出身ですか?』

《お答え出来かねますので、そうした質問の場合、以降は無視させて頂きます》


 泣き落としも不可能。

 マジで詰んだ。




「凄い、本当に全部、押収するんだ」

《内緒だよ、君達は被害者だから特別に入れてるんだし》

『すみません、ありがとうございます』


 パトリックの案内でケントの友達レオン君と女子寮へ。

 マントを被ってるんだけど、ちょっとドキドキする、だって他の部屋には女生徒が居るんだし。


 でも、確かに期待して来る場所じゃなかった。

 ココの女の子について学ぼうと思ってたんだけど。


「臭いね、何か」

『ポプリだハーブだ香水が混ざってるんだ』


「あー」


 騒動を起こした女生徒、後ろ手に拘束されて猿轡までされて。

 幸いにもマントは掛けて貰ってるけど、明らかに連行されてる様にしか見えない。


 そして徒歩で学園内の勾留施設へ。

 有るんだよね、主に不審者用なんだけど。


 あ、英文科の文字(カリグラフィー)の先生だ。


「ん!んんー!」

『んー!んー!!』


「何か、新種の動物を見てるみたい」

『あぁ、確かにな』


 で、別々の場所へ。


『クソー!クソが!面白おかしく過ごしたかっただけなのにー!あー!クソッ、失敗した、失敗した失敗した失敗した』


 凄い発狂するじゃん、女生徒。

 それこそ先生も。


「違う!違う違う違う違う!俺じゃない!俺じゃない!」

《もう証拠は出てしまっていますので、落ち着いて、冷静にお考えになった方が良いですよ》


 教員長、落ち着いてらっしゃる。


「そんな、証拠だなんて、捏造に決まってる」

《であればこそ冷静に、ご家族の事も考え、以降の対応についてお考えになった方が宜しいかと》


 教員長さんマジで慣れてるな。


「じゃあ、その証拠を」

《彼女の手帳です、ほら、この日に、君のイニシャルとイーライ君のイニシャルが。コレで十分でしょう》


「いや、それは、偶々、何かの間違いで」

《他のページもです、そう理屈を考えて頂いても結構ですが、ご自分や家族の被害を最小限に抑える方法を考えるべきでは?》


 うん、それはそう。


「違うんです」

《ご自分で自白調書をお書きになる場合はコチラをお使い下さい、牢に入れる事は不可能ですので、では》


 手際。


《お疲れ様です、教員長》

《いえいえ、本来であれば行使されないのが1番なんですが、何年経ってもダメですね》


《頻度は下がってますから、粘り強く続けるしか無いかと》

《はぁ、ですね》


 そして一夜明けてから、やっと理由を聞ける事に。


 凄くアホらしかった。

 先生の方は不倫、女生徒の方は小遣い稼ぎと人気取り。


 たった、それだけ。


『だけ』

《だよ、大きな事件の背景に、必ずしも大きな問題が有るとは限らない。小さい問題でも、大勢が関われば大事になる。今回は大きくなったし、大粛清が始まるだろうね》

「大粛清って、教会派の、教皇様が来るって事だよね?」


《若しくは代理か、聖杯を持つ聖女様か、殆どは代理らしいけどね》

『俺、塩の柱になるかも知れない』

「またまた」


《君には塩の柱になる前に検査を、彼女病気を貰って》

「あ、失神した」


 叩き起こすと、思い当たる節が有ると言って股間を抑えた。

 痒みと痛みを数日前から感じる様になって、病気と聞いて失神してしまったらしい。


 平和ボケなのかなって、ちょっと同情しちゃったよね。

 向こうの世界でも、どうしてなのか、自分は大丈夫だって根拠も無しに思うヤツが男女関係無く居るし。


『どうしたら、もし、婚約者に』

《念の為に彼女にも伝えておくよ》

「どんまい」


 で、結果はと言うと。




『陰性だった、けれど偽陰性かも知れない。すまない、ごめんなさい』


《ふふふふふ、その痒みは単にカブレただけ、それに痛みは触り過ぎなだけよ》

『えっ、え?』


《私が仕込ませたの、それと例の彼女は偽陽性、実際には陰性よ》


『それは、君が』

《いいえ、けれどもっと怖い人達を怒らせたから、直ぐにも本当に陽性になるでしょうね》


『でも、ごめん、すまない。病気になったら君に触れられないと分かっていたのに』

《もうこれからは2度と、愚かな事はしない、精子に脳や心を支配させない。出来るわね?》


『うん、する、します、だから』

《じゃあ先ずは、我慢する訓練をしましょうね》


『はぃ』


 私も念の為にと検査を受けたけれど。

 どんな上位の貴族でも、結果に手を加えるのは不可能、ある意味で絶対領域。


 けれど、仮にもし、何か出来るとしたら。

 それは。




「アレだけの騒動が有ったのに、まだ、贈り物が」


 今度は女物の、イーライのサイズに合わせたストッキング。


 数日前まで聖女様、神託の巫女が現れ次々に罪を暴いた。

 それは三日三晩続き、大粛清を終えた頃には、すっかりイーライの噂も収まった。


 と言うか噂をする所じゃないからね。

 書記官が全て記載し、学園は学園で記録し親へ。


 ただ、その中にイーライへの贈り物の犯人は出て来なかった、そもそも害の無い贈り物をするだけなら罪では無いから。


 ある意味、コレが1番厄介。

 ルビー嬢と繋がりの無い者、となると。


《僕が預かるね》

「うん、お願い」


 正直、全く検討が付かない。

 コレはもう、神託で名簿から。


 いや、まだ最終手段が残っている。

 それでもダメなら、神性にお願いしよう。




《休学してしまうんですね》


「えーっと、どちらさまでしたっけ?」

《あ、私、平民枠の、園芸部で補佐をしていまして》


「あー!先生に贈り物を頼んだ時ですかね、お世話になりました」


《やっぱり、平民はダメですかね、覚えるのも難しいですか》

「ご挨拶した方なら覚えている筈なんですけど、すみません、お名前を伺っても宜しいですか?」


《メリッサです、ハーブの中でも1番好きだって、そう言ってくれたじゃないですか》


「えーっと、メリッサさんは知ってますけど、そばかすの有る女の子だったかと」

《覚えててくれたんですね》


「制服の規定は無いですけど、それ」

《アナタに似合う自分になりたくて男装しているんですけど、ダメでしたか?》


「いえ、ダメと言うか、そこまで変わられると流石に分からないですよ」

《良い匂いで好きだって、言ってくれましたよね》


「それはハーブの、レモンバームと呼ばれる」

《貴族じゃないからダメなんですか?》


「と言うか、僕は」

《女性が苦手なんですよね、分かります、私も男性が苦手でしたから》


 俺、付き添いで居ただけなんだけど、マジかよ。

 凄いなイーライ。


「イーライ」

「いやケント、僕は」

《大丈夫です、誰にも言いませんよねケントさん、だってあんな酷い対応をされたら誰でも嫌になりますよ。ね?》


「いや、あれは僕が上手く」

《いつも完璧にエスコートしてましたし、プレゼントの品物だってちゃんと長考してたし、文句が付けられない筈なのに1度も褒められた事が無い。分かります、私もいつも叱られてばかりで、けど私の為だって言いながら実は楽しくて叱ってる人も居るって知ってるんです。分かります、凄く辛いですよね》


 イーライの顔色が、本気で真っ青に。


「あー、ごめんねメリッサちゃん、イーライが貧血起こしてるみたいで、ほら、引き籠ってたからさ」

《え、貧血って初めてですよね?大丈夫ですか?》

「ごめんね、何か、最近、色々有ったから」


《あぁ、イーライさんでも弱る時が有るんですね、そっか。後でいつもみたいに差し入れを届けますね》

「あぁ、うん、ありがとう」


 マジでぶっ倒れるんじゃないかと思う位に真っ青で、フラフラしながらも、何とか職員用の寮へ。

 絶対に自分の力だけで歩くんだって居て、マジでもう、死ぬ程心配になったわ。


「じゃあ、パトリック兄ちゃんに」

「ケント、違うんだ、本当」


「いやあんなのまで出現して女が嫌にならない方が無理だろ、って言うか寧ろ仕方無いと思うぞ、周りでも結構居るし」


「本当に?」

「一時的なのも、アレ、もう1人居るだろ?ズケズケ言うバカ、ルイ、アレも昔は酷い女嫌いだったし。そのまんま卒業した先輩も居るし、つか兄弟姉妹が居るなら大丈夫だろ、血は絶えないんだから」


「ありがとう、変な言い訳だと思うかも知れないけど、ケントは絶対に無いからね」

「お、おう」


 何だろ、何かちょっと傷付いた気もするけど、まぁ良いか。




「ウォルター」

『イーライ』


 贈り主が分からなかった品物は全て、メリッサと呼ばれる女生徒と、その取り巻きの仕業だった。


 イーライの婚約破棄を聞きつけた後、平民ながらに男装を続け、周囲の意見に負ける事無く信念を貫いた。

 そうした姿勢や生き様を崇拝する者、笑い者にしたがった者が品物を用意し、送り届けていた。


《分からなかったよ、本当、コレは流石に無理だよ》

「メリッサに、ケントにも、女が苦手だってバレちゃった、どうしよう」


『イーライ、それは、前から』

「ごめんね、うん、ずっと前から苦手だったんだ、ごめんね」

《ちょっと待ってイーライ、じゃあ、女の子になるのはどうなの?》


「それは別に、それこそパトリックとウォルターが女になるのも、多分、大丈夫だと」

《女の子になるのは良いんだね?》


「そこは寧ろ、本当に平気」

《なら問題無いね、もし僕らの女性体が嫌でも、イーライが女の子になれば良いんだし》


『そう断言して、本当に良いんだろうか』


《ウォルター》

『どんな姿でも愛せる自信は有る、けれど実際に確かめてみてダメだった時、1番に傷付くのはイーライじゃないだろうか』


《何でそんな不安を煽るの》

『イーライがこのまま女性体になるのは良い、けれども私達の外見は、それこそイーライの外見が大幅に変わった時。私達は受け入れ、乗り越えられるんだろうか。今は今のイーライを愛している、このまま老いても愛せる自信が有る、けれど、もし、大幅に違ったら』


《その時は子作りを諦めてくれるよね?》


「それは、断言出来無い」

《何で》

『愛しい人の血を残して欲しい、それは前世から思っていた事なんじゃないだろうか』


「ココで更に強くなった、だって僕にとっては完璧なんだよ?その血を僕のせいで残せないのは嫌なんだ、僕も後で絶対に後悔する」

《イーライさえ居れば》

『そう言われていたのに、裏切られた事が有るなら、信じられなくても仕方が』


《仕方無くない、どんな人物か分からないにしても、絶対に違う》

「2人よりは格下、それこそココの犯罪貴族以下の平民。けど、そんな僕だからこそ、僕には勿体無いとすら思う」

『そこの考えは変えて欲しい、私達は君を』


 突然のノックに静まり返ると、ドア越しに若い女性の声が。


「メリッサかも」

《隠れて、僕らだけで対応するから》


 イーライを洗面所にしまい、パトリックが扉を開けると。


《あの》

《何だローズか、何?》


《その、メリッサと仰る方から、イーライが休学すると》

《で?》


《もし》

《会わせる気は無いし、忙しいんだ、邪魔だから帰って?》


《せめて》

《今更ウザいよ、警備を呼んで欲しい?》


《いえ、失礼しました》


《はぁ、ごめん、馬鹿過ぎて殺したい》

『少し、このまま聞いて欲しい』


《良いけど、どうしたの?》


『実は、とある魔道具を借りているんだ』

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