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19 男と男と男。

 イーライを食べる筈が、食べられてしまった。


『罪悪感が、吹き飛んだ』

《あぁ、ウォルターも味わったんだね、アレ》


 可愛らしい姿や仕草とは裏腹に、イーライは未知の技術を秘めていた。

 最早アレは、拷問に近いと思う。


『全てを吐き出してしまう拷問の様な秘術、実に恐ろしいな、叡智の結晶とは』

《底知れないよね、本当》


『あぁ』


 あんな事が民間にまで知れ渡っている異世界。

 私は未だに想像する事すら難しい世界。


《さ、起こしに行こうか》

『あぁ』


 最初はイーライの部屋で。

 その後、パトリックの部屋へ2人が行ったかと思うと、再びイーライだけが戻って来た。


 そして。


《おはようイーライ》


「ん、おはよう」


 多分、イーライはエロース神の加護を得ているんだと思う。

 アレだけの事を体験したにも関わらず、私はイーライを。


 寧ろ、アレを体験したからなのか。

 より一層。


『おはよう、イーライ』


 最初は女装した姿に一目惚れをし。

 今ではもう、どんな姿にも欲情してしまう。


 可憐さと魔性を秘めながらも、優しさを持っているイーライ。


「おはようウォルター、どうしたの?」

『得難く、失い難いなと』

《イーライ、僕もハグ》


「ん」


 独占しようとする事が、やはり間違いなのかも知れない。

 私だけではきっと、圧倒されるばかりで。


《朝食に行けそう?》

「多分、準備してくるね」


 騒動に関して、生徒には勿論、教師の中でも知る者は極僅かに留めた。

 コレはイーライが特例では無く、あらかじめ決められていた例外措置、被害者を守る措置。


《やけ食い、じゃないよね?》

「何か、隠し事が無くなったから、かな?」

『それでも量を増やすのは徐々にした方が良い、慣れない量は胃腸に負担を掛けてしまうよ』


「何事も慣れだと分かってるんだけど、食べたい」

《じゃあオヤツも増やそう、甘いのとしょっぱいの、消化に良いモノで》


「うん」


 心に重石が有ると、胃を圧迫し食欲を減退させてしまう。

 それを体現するかの様に、イーライの食欲は旺盛になり始めた、と言うのに。




『俺じゃないんだけど、流れてる、噂が』


 ケントの友達、レオン君が図書室の窓の外に居て。

 近くに行ってみたら、新しく流れてしまっている噂を教えてくれた。


 僕が襲われたって噂。

 一部の教師しか知らない筈なのに。


「あー、それマジ」

『大丈夫なのか?』


「あ、コッチ見ないで、話してるのバレる」

『あ、すまん』


「大丈夫、検査されただけだから」

『強烈過ぎて打ち消せなかった、すまん』


「気にしないで、ありがとう」

『すまん、じゃ』


 教師にまでヤバいのが居るとか。

 まぁ、だよね、完璧な世界ってワケじゃないんだし。


『襲われるとか、ダッサ』


 出た、通りすがりに吐き捨てる陰口。

 コレ、追い掛けて反論されると思って無いのかな。


「ねぇ、襲われるとかダッサ、って誰の事?」


 止まるな凍り付くな困るなバカか、どうして反論され無いと思い込んでたんだよ。


『あ、いや』

「通り過ぎる時に独り言なのか僕に言ったのか分からないから聞いてるんだけど、襲われるとかダッサ、って誰の事?」


『いや、別に、君の事では』

「じゃあ誰の事?」


『いや、そこは、他の、生徒の』

「だから、誰?」


『それは、言えない』


「でも知ってるって事だよね、じゃあ警備か先生に」

『チッ』


 走って逃げるなら言わなきゃ良いのに。


「ねー!待ってよー!誰が襲われたのか教えてよー!」


 叫びながら追い掛けて来ると思わなかった方が、ダサいと思うんだけどなぁ。


『何でもねーよ!』

「口の利き方―!君の家名は知ってるよー!」


 嘘、知らないんだけどね。

 はぁ、最近引き籠ってたから追い付けないかも。


『クソッ、しつこ』


 間抜け面が綺麗に吹き飛んだ。

 けど、ぶっ飛ばしたのはウォルターじゃなくて。


「あ、ライアン先輩」

『ごめんね、余計な事だったかな』


「いえいえ、ありがとうございます。コイツ、僕以外に襲われた生徒を知ってるって言うから、追い掛けてたんです」

『そう、ごめんね、もう警備が来る筈だから』


「はい、ありがとうございます」


 それからは姿を見せてくれなかったけど、警備と先生には事情を話してくれたみたいで。


《全く、すまないね本当に。君の事を言ってただけだと、やっと白状してくれたよ》


「可哀想な被害者は居ないんですね、すみません、先生方には度重なるご迷惑をお掛けして」

《いやいやいや、生徒を守るのが教師、だと言うのに守りきれず、すまないね》


「いえ、僕の勘違いで、お騒がせして」

《いや、君は悪くない、他にも被害が有るかもと知ったら、寧ろこうするべきだ。間違っていない、君は悪くないんだから、どうか堂々としていて欲しい》


 でも、しおらしい方が勝つんだよね、こう言う時。

 それに、もう、学校とか良いかな。


「いえ、元は僕が婚約者との、元婚約者との騒動を収める事が出来なかったのが事の発端です。このままでは学園の規律を乱し、果ては諍いに発展するかも知れません。僕にはもう、先生方や同級生、上級生に下級生、全ての方に、ご迷惑を掛ける事が、もう、辛くて」


 僕から言い出すしか無いよね。

 追い出したくても、建前上は言えないんだし。


《いや、君が辛いだろう事は十二分に分かってはいる。けれどもどうか、もう少しだけ、学園の為に耐えてくれないだろうか?》

「それでも、ご負担をお掛けしている以上、どうしても心苦しくて。すみません、開き直るのが苦手で、だから破棄されてしまいましたし、すみません」


 開き直るの寧ろ得意な方だけど、うん、コレはちょっとしんどい。


《長期休暇、休学等も視野に入れると言う事で、少し落ち着いてから改めて検討してくれないだろうか?》


「そんな、良いんですか?」

《勿論、ご家庭の事情で休学している子も居る、何も君だけを特別扱いするワケじゃない。だからどうか少し落ち着いてから、後日、改めて話し合おうじゃないか》


「はい、すみません、ありがとうございます教員長」


 よし、コレで前振りは完璧かな。




《では、コレから会議を始めます》


 セシル家のイーライ君が婚約破棄をされて以降、何度目の会議でしょうかね。

 彼は何も悪くは無い、寧ろ被害者、優秀な被害者だと言うのに。


「また、セシル家の三男ですか」


 あぁ、君が噂を流した犯人で確定ですか。

 そんなに教師が嫌なら、辞めてくれて構わないと言うのに。


《どうしてそう思われたんでしょうかね》

「今日の大きな騒動と言ったら、彼かと」


《寧ろ彼に追い駆けられた方の問題提起だ、とは思わない、と。成程》

「いや、子供には良く有るやっかみでしょう」


《では大人には無い、と》

「平民ならまだしも、貴族同士では有り得ませんよ」


 教師が生徒をやっかむ等、本来なら起きてはならない事ですしね。


《ですが、今回も大人、教師が原因でしょうね》


 あぁ、黙りますか。

 どう見ても犯人です、本当にありがとうございました。


『そうですね、そもそも噂を流した者が居なければ、生徒に漏れる筈は無いですし』

「ですが警備隊かも知れないと言うのに、我々が疑われるのは」

《残念ですが、警備隊は無実なのですよ》


「どうしてそう言い切れるんですか」

《詳しく言う事は禁じられているので無理ですが、コレは確実な事なのです》


 警備隊の中には嘘を見抜く魔道具を所持している者が居る、とされている、そして警備隊は国の最高位直轄の部隊。

 疑うのは、あまりにも不敬ですからね。


『では、どう取り調べましょうか』

「いえ先ずは警備隊から」

《では同時に調べ上げ、コチラから犯人が挙がった場合、犯人には最も屈辱的な方法で謝罪して頂きましょう》


『そうですね』

「そんな、たかが警備隊に」

《労働時間は同じですよ、それとも肉体労働を軽視してらっしゃるんでしょうかね》


「我々はお互いを知っていますが、警備隊の」

《知り合ってしまえば忖度が発生する可能性が有る、それとも、それらを回避出来る策をお持ちでしたら、是非にも王へお伝えすべきですよ》


「いえ、そうでは、無いんですが」


 粘りますねぇ、犯人の挙動そのものではないですか。


『兎に角、無実をさっさと証明したいので、取り調べをお願い致します』

《では神殿へ参りましょうかね》

「そんな、たかが噂の為に」


『疑われたく無いなら黙って教員長に従って下さい、時間の無駄です』


 あぁ、表情に出てしまっていますよ。




《聖なる者よ、どうか噂を流した犯人をお知らせ下さい》


 神殿には魔道具が存在している。

 それを操るのは神か、天使か妖精か、それ以外の何かか。


 緑色に点滅する何かが犯人の周りを飛び回る。

 生徒の時、何度見た光景だろうか。


「違う、俺じゃない」


《神性をお疑いになりますか》

「いや、コレは、何かの間違いで」

『では名簿を開き、どの生徒に教えたのかを、教えて頂きましょう』


《成程、実に良い案ですね》


 紐の先に8面体の尖った水晶、その道具を犯人に持たせ、探る。

 既に検討は付いている、さっさと終わらせよう。


『ぁあ、バード家のルビー、通称ピジョンブラッドですね』

「知らない、俺は何もしてない、言って無い」

《証拠の品が無くても、ココの神殿で下された結果は絶対なのです。後は王侯貴族裁判所へ、警備隊の方、お願い致します》


 この光景を何度も見た。

 例え神々の姿を直接見る事が無くとも、居ないワケではない。


 ココでなら偶に妖精を見られる、そして時に不思議な事も起こる。

 だと言うのに。


『どうして信じられないのでしょうか、既に存在しているとの証拠が存在しているのに』


《人の邪悪さを信頼しての事、かも知れませんね》

『成程』


 彼嘗ての先輩、今ではココで教員として働いて下さっている。

 けれど向こうは気付かない、認識魔法のお陰で。


《ありがとうございました、どうぞゆっくりお休み下さいませ》


 彷徨う光は聖像の手へと戻り、消えた。


 この儀式を終えた後は、酒や果物、新鮮な飲み水と花を供物として捧げる。

 そして次の日には何も無かったかの様に、すっかり綺麗になっている。


 厳重に鍵を掛けられ、魔法まで施されているにも関わらず、すっかり綺麗に無くなってしまう。

 なのに、どうして疑うのだろうか。


《あ、お帰りウォルター》

「お帰り」

『間もなく立ち入り検査が入る、同行するか、イーライ』


「良いの?」

《あぁ、アレにも少し立ち会わせるし、良いよ》


「じゃあ行く、初めて行くな、女子寮」

《そう期待して行く場所じゃないんだけど、まぁ、行こうか》


「おーう」

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