16 巡り合わない。
『すまんピジョンブラッド、友人にバレた』
『は?』
『いや、口止めはした、ただ以降は噂の情報提供だけにしたいと思う』
まぁ、偶然にレオン令息の弱味を握れただけで、所詮は噂を集めてくれたら儲けものってだけだったし。
けど、惜しいなぁ。
使ってみたかったのに。
『分かりました、良いご友人をお持ちですね、レオン様』
『すまない、代わりのハンカチを返す』
『あら良い品物、足が付かない様に購入してくれましたか?』
『勿論、君と繋がりが有ると公にするつもりは無い』
まぁ、そうなったらやり込められるのは私の方ですし。
『仕方無いですね、以降は良い噂が入った時だけ、お茶会へ差し入れをお願いします。名前は、ビックキャビンで、その日の放課後にココで待ち合わせましょう』
『分かった』
『では』
まぁ、使えない大物より、手頃な中堅。
しょうがない、次を探そう。
「デケェ小屋、超ウケるんですけど」
『マジで、チ◯コ狙いだったとは、マジか』
《良かったねレオン、粗チンだったら婚約者に捨てられてたかもなんだし》
「流石、止め刺したなルイ」
《なのにまだ生きてるよ?》
『今にも死にそうだけどな』
「じゃあ死ねよクソ野郎、そんで婚約者を俺に寄越せ」
『絶対に死なない』
《元気だね、色んな意味で》
「刺してたのに更に捻ったな、流石だ」
《死ぬ?死んじゃう?》
『いや、死なない』
「で、ビックキャぶふっ」
『明日にでも噂を渡すんだろケント、クソが』
《クソは分かってるから自己紹介しないでも良いよ?》
『ワザとだよな』
《まだ謝って貰ってないもん》
『すまん』
《僕も、君が許せるだろう分だけ許すね》
『ぐっ、すまん』
「じゃ、噂を集めに行くか」
《おーう、行こーう》
イーライの助言も有って、半ば有耶無耶に仲直りする事に。
巻き込んだり巻き込まれたりだとか、そこらは複雑だけど。
結局は流言飛語を垂れ流す奴が1番悪い。
で、2番目は流言飛語を欲する者。
パトリック兄ちゃん曰く、今回は両方壊滅させる、らしい。
コレ、アレだよな、末端は何も知らされないのも頷けるわ。
知ってたらビビって動けなくなる場合も有るし、余計な事を言う奴も出そうだし。
「結構、割合が固定されてきたな」
《前から調べてたんだ》
「いや、まぁ、ココまで精密には調べて無いけどな」
『何もしないとか言って悪かった』
「でもお前の婚約者は諦めないからな、落ちぶれろハンドマン」
《良いねハンドマン、ビックギャビン・ハンドマン》
膝から崩れ落ちてやんの、ざまぁ。
《ビックギャビン・ハンドマン、素敵な罵詈雑言ね》
『すまない、悪かった』
《本当にね、罵られて踏み付けられているのに、とんだ婚約者を持ってしまったわ》
『すまない』
《良いのよ、それだけ私を好きって事だと、前は思ってたけど》
『愛してる、本当に君だけなんだ』
《踏ませるのは、ね。触らせていたのよね、大事な部分を、どんな気持ちだったのか教えて?》
『君に、触られてると』
《あら、ならコレって、彼女を思っての事かしら?》
『違う、本当に、目を瞑って』
《なら目を潰せば誰でも良いって事よね》
『いや、君の声も』
《耳と目を潰せば、誰に踏まれても悦んでしまうのよね》
『違う、アレは半ば脅されて』
《なら相談して下されば宜しかったのに、信用されていないなんて、悲し過ぎるわ》
『違うんだ、迷惑を、恥ずかしくて』
《あの小屋でしていた事?それとも私を好いてる事が、恥ずかしいのかしら》
『性欲が強い自分が、恥ずかしくて』
《ただ私を思ってくれていただけ、なら、私は凄く嬉しかったのに》
『すまない』
《ごめんなさい、ね?》
『ごめんなさい』
《素直で良い子は好きよ、知ってるわよね?》
『好きだ、愛してる、捨てないでくれ。君だけなんだ、君だけが良い』
この子、悲しみの奥で嬉しそうに懇願してる自覚、まだ無いのよね。
《素直で良い子に戻ってくれて嬉しいわ、そんなアナタが大好きよ》
この子にワザと失敗させる事に、躊躇っていたのだけど。
この子には寧ろ、そうした機会を与えるべきなのかも知れない。
その機会を、もし活かせるなら、捨てないであげる。
「てめぇ、問題が解決してねぇのにスッキリした顔してんじゃねぇよレオン」
『悪かった、すまない、全部俺が悪い』
《コレが賢者タイムかぁ、成程ね、どの位保つの?》
『3日か4日だな』
《で、溜まると馬鹿になるんだよね》
『おう』
「自分だけじゃ済ませらんねぇのかよ、ガキが」
『自分だけだと虚しくなるだろ、で毎日毎日処理しても常に中途半端なままで。俺と俺の性欲が悪かった、すまん、ごめんなさい』
俺の場合、溜まると頭にまで精子が回って動きを鈍らせる、らしい。
若い子にありがちだから、と婚約者は婚約の継続を許してくれて、しかも今度からは1週間に1回は会ってくれる事になった。
もっと、信頼して甘えるべきだった。
友人にも、婚約者にも。
「会ったらナニするのか教えてくれたら許す」
『絶交で良い、絶対に言わないからな』
《浮気してから操を立てるんだぁ、ねぇ、どんな気持ち?》
『本当に、申し訳無かったと、思っ』
プレゼント攻撃の方向性が、下へと下方修正。
いや次の段階に至った、と言うべきなのか、凄いの来た。
「女物の下着て」
《コレは流通経路が限られる筈だから、特定出来るかも》
先生方が纏めて送り主に品物を返しつつ、注意もしてくれたので、量は減ったけど。
質が変わった。
マジで本格的に口説く感じ、本気で落とそうとしてるのが、ぶっちゃけ怖い。
だって、対面では相変わらず誰も声を掛けて来ないんだもの。
『イーライ、接触は』
「あの先輩以外、ライアン図書委員長以外は無いんだよねぇ」
コッチから誘い出すしか無いのかな。
《イーライ、良いって言うまで何もしちゃダメだからね》
何も、て。
「相談もダメ?」
《相談においでって言った人は特にダメ、彼がコレの送り主かも知れないんだし》
「確かに」
《だから警戒を怠らず、いつも通りに過して、コッチもコッチでちゃんと動いてるから》
「うん」
で、数日して接触が有った。
例の先輩、ライアン図書委員長。
『久し振りだね、どう?』
「あぁ、何とか、先生方にも対応して頂いてるので、何とか大丈夫です」
『そう、じゃあ図書委員に誘っても良いかな?成績不振で委員を辞める子が居て、ほら、ウチは静かで出入りも限られるから』
もしかしたら、良い人なのかも知れない。
この人も婚約破棄された側で、単に優しくしたいだけなのかも知れない、と。
「その、内容とかって」
『あぁ、今は案内の紙を持って無くて、図書室まで来てくれるかな』
「はい」
人目が有るだろうから、2人だけにならないだろうからと。
『試験前の混む時は休んで良いから、どうかな?』
放課後だけじゃなく、いつでもココに来て良い。
仕事内容は返却された本を棚に戻したり、返却期限が過ぎた人へ催促の手紙を書いたり。
記帳さえすれば勝手に本を読んで良いって。
知識欲もだけど、新しい人間関係も築くべきなのかもって。
「へー、なら成績不振の子、委員を継続した方が良いのに」
『気の良い子だから、ココに居ると逆に手伝い過ぎちゃう子でね、だから2人は入れて安心させたい面も有るんだ』
「成程」
『君も君で大変そうだし、あぁ、避難場所も用意してあるよ』
「そこまで」
『元々そう利用されてた場所を綺麗にしただけ、少し覗いてみて欲しいな、改善点を聞きたいし』
もし善意だけなら、疑う事は傷付ける事になる。
そう傷付ける事に敏感になってたんだと思う。
「じゃあ、少しだけ」
机と椅子と、何故ベッドが有るのかと。
『本当に君は、優しくて良い子だよね』
まさか、大胆不敵にも図書室の奥で監禁しようとする奴が居るとか、流石に想定外が過ぎる。
けど、部屋を見た瞬間に違和感が有った、そこに思い至れていれば。
「アレ、窓、じゃないんですよね」
『うん、窓風の飾り』
「僕を、どうするつもりで?」
『守ってあげる、ココで』
コレ知ってる、海外ドラマで良く見た、逆らったらマズいタイプだコレ。
「あぁ、どうも」
『分かってくれると思ってたけど、良かった、大切にするね』
こんな古典的な罠に嵌まって、本当に、すまないと思ってる。




