13 警戒のベルが鳴る。
ココまで、大事になるとは思わなかった。
たった1週間で、プレゼントがココまで悪化するなんて、マジで想像して無かった。
手紙に絵姿だけ、なんてのはまだマシで。
大量の刺繍入りハンカチの中には、刺繍に髪の毛が使われている物も有った。
そして異物混入されたお菓子、お茶。
季節外れの手編みのマフラーにも、毛。
本人が演奏したと思しき音楽が録音されたレコード、高級品なのに差出人は不明。
人形。
藁人形。
押し花に針が刺さっただけのカード。
兎の死体。
1番笑ったのは、白紙の手紙。
ただ何かした様な皺が有ったのと、残り香からして、精液だと。
試しに先生方が炙り出しをした所。
愛してる、の文字が浮かび上がって来たらしい。
「その先生に何か、労いの何かをしたいんだけど?」
《あぁ、そしたら花が良いよ、香りが殆ど無いヤツね》
そうして園芸部へ行き事情を話し、先生へと花を渡したのが、逆にマズかった。
先生が標的になったらしく、先生の大嫌いな百合の花が部屋に届けられそうになり、お礼が禁止される事に。
「ふえぇ」
《あ、聞けた》
『可愛い鳴き声だね』
そう、そしてコッチも。
もう本当、全然、上手くいかない。
男同士の練習が、全然、ダメ。
それもコレも、気掛かりが有るから、なのは分かるんだけど。
気になるものは気になるし。
それこそローズの事、全然会わないのは良いんだけど、全く噂話すらも耳に入らないから逆に気になる。
何だかんだ、ケントとかが噂とかも防いでくれてるっぽいんだけど。
逆に怖い。
怖い位に噂を聞かないって言うか、マジで相変わらず周りが静かなのが更に怖い。
あぁ、こんなに悩むからダメなのかもとは思うんだけど。
「ふぇぇ」
『大丈夫だよイーライ』
《焦ったら余計に良くならないよ、ゆっくり、焦らずに》
「ふぇぇ」
私が、一体どれだけ、酷い事をしてきたのか。
それこそ傍から聞いて初めて、理解した。
「それで、どうなさったの?」
『まだ反抗的な顔をなさるから、また打ってあげたわ。そう、何度も何度も、それからやっと懇願したからご褒美をね。少しだけよ、頬にキスだけ』
『さぞお喜びになったでしょう』
『そうなの、けどまだまだ、よね』
「頬を打たれてこそ、よね?」
『しかも何度も打たれて我慢して、よね?』
《ぁあ、つい聞き入ってしまいましたわ。私はまだまだ、それこそ失敗してしまいましたので》
『そうお気になさったらダメよ、その程度で諦めるなんて、愛していたら。よね』
「たった1度、しかも同じ相手なら破棄した事自体が破棄されますもの」
『そこも知ってらっしゃるでしょう。ですからもし、本当に愛してくれているなら当然、再びプロポーズしてくれる筈ですもの』
手を出さなかっただけで、私はこの方達と同じ事を。
いえ、それ以上の事をしていた。
褒めもせず、褒美も与えず、ただただ痛め付けてしまった。
「そうそう、次はちゃんと叩いて怒らせてから」
『泣きながら縋って謝れば大丈夫』
『しおらしく、弱った姿を見せ、そしてまた気丈に振る舞えばイチコロよ』
好かれていれば、有効かも知れない。
けれど私は、最初から。
《私、やっぱりまだ、弱った姿を見せるのがどうにも恥ずかしくって》
『そうですわよね、それこそ私達普通の貴族とは違いますものね』
「大丈夫、彼にだけ見せれば良いんですから」
『そうそう、泣き付いて、甘えれば大丈夫』
イーライが私を好きなら。
けれど。
《ありがとうございます、お姉様方、頑張ってみますわ》
『応援してますわ』
『愛は多種多様、けれども私達が求める愛は1つ』
「愛が有れば耐えられる筈。なんですから、耐えられない子は手放して、次へ向かいましょう」
《はい》
この方達がイーライを狙っている事は知っている、けれども単に牽制するだけでは、逆に私がスパイスにされてしまう。
仮にも私のモノだとしていた時、私が目立つ事をしなければ、こんなにもイーライへ注目が集まる事は無かった筈。
なのに私は。
《ローズ》
《お兄様》
《具合はどうだい》
《はい、滞り無く》
《そう、じゃあね》
《あの、イーライは》
《大丈夫、僕らが守ってるから》
《すみません、ありがとうございます、どうか宜しくお願い致します》
《うん、勿論》
私が集めた情報は全て、厩のウォルターへ手紙に認め渡す事になっている。
コレだけが、今の私とイーライを僅かに繋ぐ糸。
蜘蛛の糸より細く、脆く、いつ途切れてもおかしくはない糸。
《あの方、最近お見掛けしないわね?》
「あぁ、ピジョンブラッド、アナタ何か知ってらっしゃるでしょう?」
『内緒ですよ?』
「勿論よ」
《えぇ、信頼して下さいな、私達の仲じゃない》
『実はですね……』
ローズのお友達って、凄く楽しいのよね。
私がちょっとバカなフリをしていると、凄く優しくしてくれて、そのお陰で結構誰でも私を舐めてるからペラペラ喋ってくれる。
だから私もお返しにベラベラペラペラ喋ると、凄く喜んでくれる。
「あらあら、まぁ」
《でも、もしあの子がそうなら、よね》
「そうね、確かにワクワクしてしまうかも知れないわね」
《けど、もし間違いなら、よ》
『その噂も有るんですよねぇ』
「あら」
《そう言えば、何か足りないって仰ってたわよね》
『そうなんですよぉ、実はウチの部活でお茶が足りなくなってしまって』
「そうだったの、でしたら言って下されば良かったのに」
《取り敢えずは、そうね、後で届けさせましょうね》
『ありがとうございます、気配り頂けて助かります、どうにも私って言い出すのが苦手で』
「良いのよ、人には得手不得手が有るんですもの」
《そうよ、いつでも、遠慮なさらないで》
「そうそう、遠慮無く仰って」
『ありがとうございます』
「それで」
『ぁあ、違うかもって噂の方ですよね』
《そうそう》
今までは主に男子から注目され、しかも平民も貴族からも尊敬の的になっていたイーライ様が、まさか変態性癖のマゾなのか。
それとも、男色家なのか。
それとも本気でローズ嬢がクズなのか、と。
「まぁ」
《けど、仮にも高貴な方でしょう?》
『ですけど同じ人間ですし、生まれが全てなら、廃嫡される王族の方が存在しないのでは?』
《まぁ、確かに、そうかも知れないけれど》
『まぁ、私は素晴らしい方だと思ってるので、それこそ単なる噂だと思ってますけどね』
「仲が宜しいと評判ですものね」
『仲良くして下さってる事に甘えさせて頂いてるだけですよ』
《そんなご謙遜なさらないで》
「私達とも是非、今後とも仲良くしてね」
『はい、勿論ですよ、是非是非。では』
「えぇ、またね」
《ふふふ、本当に面白い鳩ね》
聞こえてますよ、私のアダ名。
えぇ勿論知ってますよ、伝書鳩の鳩子。
家の名前もバードですし、それこそ名前がルビー、ピジョンブラッドとも呼ばれてるって。
やっと成り上がったばかりの商家の平凡な子に、宝石の名前なんて烏滸がましいな、とは思いますけど。
まぁ、私が付けたり名乗ったりはしてないんで、適当に言ってろって感じなんですよね。
全ては面白いかどうか、利益になるかどうか、ですから。




