4話
それから部活はお開きとなり、各々荷物を纏めていた。
今日の部活も悲惨だった。昭人と直人のナニが、未だに頭にこびりついて離れてくれない。
だがしかし、俺は部活動からとある妙案を閃いていた。玲花ちゃんとの距離を縮めるには、ボードゲームで一緒に盛り上がれば良いのではないかと。名付けて、ボードゲームで仲良し大作戦!
「部長!ちょっと今日オレオレオを持ち帰ってもいいですか?」
問われた部長は、一瞬首を傾げたものの、特に気にした様子もなく答えた。
「あぁ、構わないよ。次の部活の時にでも戻しといてくれ」
「ありがとうございます!それでは、お疲れ様です!」
「お疲れさん。存分に練習しておくといい」
その言葉を聞いた昭人と直人が、ハッとした顔を浮かべ俺に詰め寄った。
「新吾!お前自分だけ上手くなろうって事だったのか!」
「え?いや別にそういう訳じゃ……」
「自分だけずるいよ、久我山!」
ジリジリとにじり寄る2人が鬱陶しい事この上ない。
「あ〜、もうはいはい!用事が済んだらどっちかに渡すから!さっさと帰ろう!」
2人を連れて、俺は部室を後にした。
その日の晩。
チャンスは思ってたより早く訪れた。我が家に再び玲花ちゃんが訪れたのだ。何やら昨日姉とファッションの話で盛り上がっていたが、その際に古着を何着かあげる話になっていたのだとか。
そんな降って湧いた幸運を噛み締めながら、現在我が家は晩ご飯タイムだ。
テーブルには3人分の焼きチーズドリアが並んでいる。
ちなみに作ったのは俺である。まぁグラタンの元をマカロニ、切ったウィンナーと一緒に煮て、それをごはんに掛けて、スライスチーズを乗っけたらオーブンで焼くだけだ。
「どうよ、玲花ちゃん?」
さりげなく料理出来るアピールをし、女子との話題?の料理で会話のきっかけを作ろうと試みる。まぁ料理といっても俺に出来るのはレンジでチーンとか、焼いてドーンとか、そういう簡単なやつだけど。
「ぐぬぬ……新吾くん、料理とか出来るんだ……。へぇ〜」
玲花ちゃんにジトっと睨まれた。
なんで!?
そんなこんなで食事を終えた。見ると二人も食べ終わっており、食後の落ち着いた雰囲気が訪れる。
玲花ちゃんは自身なさげな表情をしながら、俺におずおずと尋ねてきた。
「新吾くん、ご馳走様……。その、料理っていつから……」
なるほど、料理苦手だったパターンか。それじゃあ料理トークは話題にならない訳だ。そうなったら……ここは女の子のプライドというものを傷つけぬよう、配慮した答えをするのが、イケる男ではなかろうか。
「お粗末さま。料理と呼べるような立派なものは作れないよ?」
そう言って俺は軽く手を横に振る。
「いや普通にドリアとか作ってたじゃん。ムカつく〜!…………玲がご飯作ってあげたいのに」
後半はボソッと呟くように言う玲花ちゃん。しかし、耳聡い俺は聞き逃したりしなかった。
やっぱこの娘、俺の事好きじゃない?
そんな考えがよぎる。が、今は会話中だ。謙遜して駄目なら、素直に言うのが良いのだろうか。
「ごめん。俺、料理得意なんだ」
得意げな顔で言い直した。姉が吹き出した。玲花ちゃんが俺の足を蹴った。
なんでだよ!?こっわ!女子との会話こっわ!
この話題を続けるのは危険と判断した俺は、別の話題を探す。そこでよくやく仲良し作戦を思い出した。
「その〜、玲花ちゃん?話変わるんだけど、今暇ならボードゲームとかしない?」
「は?……ボードゲーム?」
最初は怒気のこもった返答だったが、次第にそれを霧散していく。俺は安堵のため息を吐き、話を続けた。
「そうそう!俺部活でこういうので遊んだり……作ったりしてるんだよね!」
ちょっと話盛りました。
玲花ちゃんは目をパチパチと瞬かせ、テーブルに乗せられたオレオレオの化粧箱に視線を落とした。
「へぇ〜。新吾くんってそういう部活してたんだ。ちょっと意外」
「私、新吾の作ったゲームとか見た事ないぞー?」
「み、見せた事ないだけだって!」
姉はニマニマしてるが、なんとか誤魔化す。
「これは今日部活で遊んだゲームでさ、簡単に出来るからぜひ良かったらって思って」
「うん、いいけど。未春ちゃんは?」
「私もやろっかな」
「オーケー。それじゃあ簡単にルールを説明するね」
俺はルールを2人に教えて、テキパキと準備していく。
「それじゃあサイコロ降るから、出た目の枚数めくったら、すぐに読み上げてね」
手番は玲花ちゃん、姉、俺の順だ。ゲームスタートだ!
サイコロの目は2。俺はカードを2枚めくった。場に並ぶのは菓子と獅子。
「お、オレオレオ!」
「そうそう、そんな感じ!」
部員間なら最初のお、の部分はミス扱いだが、不問とする。初心者には寛大な姿勢が重要だ。
「なるほど……。このゲーム楽しいかも」
「これからもっと面白くなるよ。それじゃあ次は玲花ちゃんがめくってね」
玲花ちゃんは頷き、2枚カードを並べた。絵柄は尾が2枚。
「えーと、オレオレオオ!」
「アウトー」
「えぇ?今合ってたでしょ?」
「いやいや、オが一個足りてないよ」
「足りてたって。ねぇ、玲花ちゃん?」
「新吾くん。別にちょっとくらい良くない?ケチくさいよ?」
えぇ〜、これ俺が批判される流れなの……。
「わかった……。じゃあいいから次行こ……」
姉が2枚めくる。絵柄は獅子と俺。
「オレオレオオレオオレ!」
「あ、新吾くんミス!」
「ミス〜」
「俺の判定はちゃんとシビアなんだね?!」
そんなこんなで30分後。2人もすっかり慣れ、ゲームは盛り上がりを見せていた。
「あ〜!未春ちゃんミスだ!」
「いやむずー!」
「あはは。じゃあいくよ?せーの!」
「せーの!」
玲花ちゃんと息を合わせてカードを指さし合う。たったそれだけだが、心が通じ合えてるような感覚があって、なんだかこそばゆい。カードは共に同じ菓子のカードを選んでいた。
「ちょっと〜!それ選ばないでよ〜!」
「玲花ちゃんこそ!」
「新吾くんは尾でも取ってて!」
「それ絶対勝てなくなるやつじゃん」
「え〜?しらな〜い!」
2人で笑い合う。楽しい雰囲気に呑まれ、俺の気分は最高潮を迎えていた。
続く俺の手番。俺は経験者の意地でなんとか言い切り、玲花ちゃんへ番が回る。
「よし、いくぞ?……いくぞ?」
「ねぇ〜!焦らさないで!早くやって!」
「わかったって!」
俺はカードを並べた。
場には菓子、俺、尾、獅子、菓子、菓子、獅子の順でカードが並んでいた。
「オレオオレオオレオ――ってむりだよこれ!」
玲花ちゃんはケラケラ笑いながら言った。
「はいミスぅ〜!じゃあいくぞ?せーの!」
姉と2人でカードを指差す。俺と姉は、それぞれ違う菓子のカードを選んでいた。
「お、新吾いいとこ選ぶねぇ?」
「そっちこそ!それじゃあ取ったカード見せて?」
姉はきょとんとした顔を浮かべたが、こちらに手持ちのカードを突き出した。
「えーと、それじゃあ4オレオだから、玲花ちゃん4枚脱いでね!」
「「は?」」
リビングはしんと静まり返った。瞬間、俺は自らの失態に気づき、冷や汗が浮かぶ。2人からは射殺さんばかりの冷たい視線を注がれている。
「え……と。違う、ちょっとつい……部活の癖で……」
「お前、それはないわ〜」
「新吾くん部活で脱がせあったりしてるんだ。キモ」
「ちが……部活は男だけだから!セーフだから!」
「セーフじゃないよ。キモいよ。ちょっと今日はもう話しかけないで」
玲花ちゃんはツンと俺から顔を逸らした。
――こうして仲良し作戦は、大失敗での幕引きとなった。
それから少し経った頃。
「ねぇ、新吾?おーい」
姉の呼び掛けで我に返る。見ると手を、俺の顔の前でヒラヒラさせている。
「あ、ごめん。なに?」
「新吾、玲花ちゃん狙ってんの?」
「へっ!?あ、それはえっと!なんというか……」
それ本人前にして言う!?
バッと玲花ちゃんの方を見る。玲花ちゃんはイヤホンをつけてスマホをタプタプイジっている。
「やっぱそうだったか。いつから?」
そこではたと気づく。今ので完全にバレてしまったと。うちの姉はお節介焼きな節がある。そしてバレたら絶対に引っ掻き回される事が想像できたから、隠していたかったのだ。俺は迷ったが、諦めて答えることにした。
「いつからというか……何かワンチャンありそうだし……って感じだよ」
「ふーん。私、協力しようか?」
「ハイ、オネガイシマス」
俺は素直に従った。下手に反発しない方が身の為であるからだ。姉は更にニタニタ顔を強め、わざとらしく首を傾げた。
「え〜?どうしようかな〜?じゃあ……お姉ちゃんって、呼んだら手伝ってあげるよ〜」
「なっ!?」
姉の要求は非常にこっぱずかしいものだった。俺は幼少期から姉を名前で呼んでいる為、今更お姉ちゃんだなんて虫唾が走るのだ。
「ほらほら〜。言わなきゃ玲花ちゃんに言っちゃうぞ〜?」
「ぐぬぬ……」
姉は楽しそうに急かす。俺は観念し、顔を伏せて告げた。
「お願いします……お姉ちゃん」
姉に今日一の笑顔が咲いた。