3話
翌日の放課後。
俺は自席で頭を抱えていた。
「どうすれば未春から玲花ちゃんを引き剥がして仲を縮められるか……」
昨日はあれから玲花ちゃんと接する機会にも恵まれず、玲花ちゃんは姉に取られっぱなしだった。折角幸運の女神が舞い降りたと言うのに、これでは生殺しもいいところだ。
しばし考え耽ってみたが、結局妙案は浮かばず俺は教室を後にした。
廊下を進み向かっているのは、昇降口ではなく階下にある社会科準備室、もといBK部の部室だった。
今日は部活の日なのである。
俺は玲花ちゃんの件は一度置いておく事とし、部室へと歩を進める。目的地に到着すると、特に遠慮もなく扉を開きズカズカと中へ入った。
「遅いよ久我山!」
「ごめん、ちょっと野暮用で」
声を掛けてきたのは青葉直人。小柄で少しふっくらとしたシルエットのオタク男子。俺と趣味が合う貴重な友人だ。
荷物を適当に放り、空いてる席に腰掛ける。
部室には、壁際の棚のあちこちにボードゲームの化粧箱が積み上げられており、中央には机がくっつけて置かれている。
ボードゲームデザイン部。通称BK部。ボードゲームの研究や制作を行うのが主な活動内容である。かつては。今では先代が置いていったボードゲームで遊ぶだけの遊戯室へと成り下がっており、俺を含めた部員達の溜まり場だ。ちなみに略称のBK部とは、先代がボードゲームのB、クラブのKの2文字を抜き取り、名付けたものだ。周囲からは何故かバカ部とも呼ばれている……。
俺は他の席に座る面々を見渡す。
「今日はフルメンバーですね」
部員は俺を含めて4人。クラスメイトでもある片瀬昭人、青葉直人。そして唯一2年生の、鶴川拓也部長だ。
「お疲れ、新吾。それじゃ4人揃ったし、早速何か始めよっか。何かしたいのとかある?」
部長は爽やかな笑みを浮かべてこちらを見つめてくる。
鶴川拓也。拓也の名に恥じぬイケメンである。この学校では珍しい彼女持ちだ。
しかしこの部長、五厘刈りなのである!
今日も今日とて部長の頭はピカピカと輝いており、ルックスとのギャップでシュールである。どうやら春休み中に髪を染めていたらしく、新年度にイキってそのまま登校した所、生活指導に捕まりバリカンを入れられたのだとか。
部長の頭に意識を取られ、やりたいボードゲームを思いつかずにいると、横から手が挙がる。
「そんじゃ部長、俺あれやりたいっす!オレオのやつ!」
「あぁ、オレオレオだね。いいよ」
手近な棚から一つの小さな箱が抜き取られ、机の上に置かれる。部長は箱を開けると、小さなカード束から何枚かを抜き出し、場に並べた。
そこにはオレオ(菓子)、オレ(俺)、レオ(獅子)、オ(尾)と書かれており、それを示すイラストが描かれている。
このゲームは「オ」と「レ」の2音で構成されるカードを読み上げる愉快なパーティゲームだ。カードが並べば並ぶ程、読み上げ辛くてカオスになっていくので盛り上がる。
「ルールは簡単だから、やりながら覚えていくといい」
そう言うと部長は、早速サイコロを振るった。ゲームスタートだ!
手番は部長、直人、俺、昭人の順だ。
部長がサイコロを振ったので、スタートは直人からだ。
「サイコロは2か。いいね。それじゃあいくよ?」
ぺらりぺらり。場にあるのは尾と俺だ。
「オオレ!」
「クリアだね。それじゃあどんどんいこう」
次は俺の番だ。直人が2枚めくる。追加の2枚は菓子と獅子の絵柄。
「オオレオレオレオ!」
余裕たっぷりの宣言である。
「クリア……だね」
「まぁ俺だからね〜。オレオレ〜」
チョけた態度で煽り散らす俺。楽しくなってきたね!
次は昭人。俺は2枚めくり場に叩きつける。絵柄は尾と菓子。
「――っ!オオレオレオレオレオレ……あれ?」
「はい!雑魚乙ー!」
「正しくはオオレオレオレオオオレオ、だったね」
「どんまいだよ、片瀬!」
ぐぬぬと表情に浮かべ悔しそうな昭人。
「じゃあせーのでカードを取ろうか」
「「「せーの」」」
一斉に場のカードに指差す。
ミスが出たらそれ以外の人がカードを選び、ブッキングがなければ貰えるのだ。本来は個人で集めたカードからオレオを何組つくれるか競うのだが、BK部のルールは特殊だ。
3人の顔に邪悪な色が混じる。
「被りはなしだね。それじゃあオレオを作ろう」
3人は取ったカードを突き出す。俺と直人が取ったのは菓子、部長は獅子のカード。
「じゃあ2オレオだから、2枚脱いでね」
脱衣ルールである。自分を除いた全ての手持ちカードからオレオを作り、その数だけ脱がされるシステムだ。
「そんな……!嫌!やめて!」
昭人は演技がかった女声で懇願した。
「ふっふっふっ。負けたからにはちゃんと出すもん出して貰わないと困るな。」
ノリノリで返すのは部長。
「だってそんな……。恥ずかしいし……」
「焦ったいな。よし、お前達。そいつをひん剥いちゃいな」
「「いえっさー!」」
「ら……らめぇぇ〜!」
昭人はキモい悲鳴を上げ、服を剥ぎ取られた。
――それから小一時間が経った。
部室には全裸、全裸、パンツ一丁、半裸。地獄絵図だ。
俺は冷静な心に立ち戻り、口にした。
「あの……。なんかもう、やめにしません?」
「「「……そうだな。」」」
いそいそと脱いでた服に袖を通していく。そんな中、俺は心の中で叫んだ。
やっぱこの学校頭おかしいよ!