11話
次話は追加執筆で、1章の締めになります!
映画館に到着した。既にチケットはネット購入しており、発券するのみだ。
今日観る映画は『昨日と明日を知る君へ』という恋愛映画。人の前後24時間の記憶が見えてしまう少女と、唯一それが見えない主人公との壮絶な恋愛を描いた、今最もアツいヒューマンドラマが売りだ。
「この映画が観たかったの?」
「そうそう、未春が観たがってたみたいでさ。俺もちょっと気になってたし」
「ふーん……でもチケット、2枚しかないんだね」
ボソリとつぶやく玲花ちゃん。俺はその言葉にハッとする。
「こ、これは!未春は行けないってわかってからチケット買ったからだよ!」
「じゃあこれじゃなくても良かったんじゃないの……?」
冷や汗が出てきた。マズいぞ……これじゃあ端から玲花ちゃんと2人で恋愛映画を観ようとしてた事がバレてしまう……!
「えーと、それは〜……」
言い訳も思いつかず焦る俺。それを見た玲花ちゃんは、クスりと微笑んだ。
「玲と、恋愛映画観たかったんだ?」
そんな笑顔……反則だろ!
それから俺たちは、ポップコーン売り場でフードとドリンクを購入してからシアターへ入った。日曜の夕方とあり、シアター内はそこそこ人が入っている様子だ。
「このガヤガヤ感、これから映画始まるぞって感じがしてワクワクするよね!」
「うーん、そういうもの?玲はたまに友達と観に行くくらいだからよくわかんないや。新吾くんはよく来るの?」
「俺はそこそこ。月に1〜2回は観にくるかな」
「めっちゃ映画好きな人じゃん!」
「めっちゃ映画好きなんだよ」
ふと照明が暗くなり始め、スクリーンに広告が流れ始めた。いよいよ上映開始だ。
――上映開始から1時間弱。物語はクライマックス前の佳境に突入していた。
やばい……泣けすぎる。まさか主人公の心だけが見えなかった真実が、こんなにも残酷だったなんて!ヒロインが主人公の元から何も言わずに去るのも納得だよ……!
涙で顔をグシャグシャにしながら、スクリーンに魅入ってしまう俺。ポケットからハンカチを取り出し目を拭う。ふと、玲花ちゃんはどう思っているのか気になり横を見た。玲花ちゃんの目尻から、ツーと一筋の涙が溢れていた。
玲花ちゃんも感動してる。俺たちは今、同じ気持ちを共有してるんだな。
そんな気持ちで胸がグッと高鳴るのを感じた。俺は胸元のポケットから使ってないハンカチを取り出すと、スッと玲花ちゃんの手に置く。玲花ちゃんの肩がびくりと振れ、俺と目が合う。俺は軽く手を前にすっと出し、どうぞのジェスチャーを送る。彼女はハンカチを受け取り、一度こちらにこくりと頷くと、涙を拭った。
――いよいよ物語はクライマックスだ。主人公とヒロインと初めて出逢った場所で再会を果たし、思いの丈をぶつけ合う……!そして愛し合う二人は残り少ない時を共にある事を誓い、その距離を縮めていく。キスシーンだ。
ちょっとソワソワしてきた……。一人なら何も気にせず感動に浸るんだけど……今回は隣に玲花ちゃんいるんだよなぁ。
そんな事が頭をよぎり、横へちらりと視線を送った。そこで玲花ちゃんと目がバッチリ合ってしまった。俺はガバッと顔を反対側に逸らす。
は、恥ずかしいよぉ……。え、玲花ちゃんもこっち見てたよね!?それって玲花ちゃんも意識してるって事なのか!?
頭の中でグルグルと思考が巡る。しかし考えが纏まる気配はなく、俺は一度気持ちを切り替えるつもりでスクリーンに視線を戻した。
あ……クライマックス見逃した……。
程なくしてエンドロールが流れ、それも終わるとシアターの照明が点灯する。俺は荷物をささっとまとめ、トレーを持って席を立つ。そこでようやく玲花ちゃんの様子を伺う。
「やばい……めっちゃ泣けたね。……ってあれ?」
彼女は黙ったまま顔を下に俯かせてる。
「おーい、玲花ちゃんやーい」
声をかけながら、玲花ちゃんの顔を覗こうとする。
――瞬間、玲花ちゃんはガバッと立ち上がり、俺の脇をすり抜けて出口へ向かって行った。一方俺は、その場で硬直し立ち尽くしてしまった。俺の顔は……真っ赤だった。覗き込んだ際、一瞬だったが見てしまったのだ。今の俺以上に顔を真っ赤に染めた彼女の姿を。
ど、どうしよう……。どんな対応するのが正解なんだ!?じゃなくて、まずは追いかけないと!……でも、なんて声を掛ける?あぁ……でもでも!
俺の中でまた思考が渦を巻き始めた。焦りと不安も混じり、足はまるで縫い付けられたかのようだった。
――何秒経っただろうか。立ち尽くす俺は現実感が湧かず、動くべきタイミングも完全に逃してしまっていた。
もうダメかも……。結局恋愛慣れしてない工業高校生には彼女なんて縁遠い存在なのかもなぁ……。
弱気な部分が顔を出したその時――
ふと脳内にある言葉がよぎった。
『まだ童貞臭い言い訳並べる?……それとももう一発欲しいってことだった?』
……違う、これじゃない。もうちょっと前だ。
『日和ってんじゃないよ。男として意識させて、その上で信頼を築き上げた。そこまでやったんなら、あとは男らしくガツンとやっちゃいなさい』
そうそう、これこれ。……じゃなくて!そうだよ、何も失敗した訳じゃない。むしろ上手くいってるじゃないか!あと一歩、そこで勇気出せずに日和るなんて男らしくない!俺らしくもない!理屈なんてわからなくても行動できるフットワークの軽さこそが俺の持ち味だったじゃんか!
俺は駆け出した。玲花ちゃんの背を追って――
「劇場内は走らないでください」
「すみません……」
ちくしょう!赤っ恥じゃんか!
前方を見ると、遠くにとぼとぼ歩く玲花ちゃんの背を発見した。
……玲花ちゃんも走ったのを怒られてそうだな。
俺は玲花ちゃんの元へ早足で近づき、横に並んだ。
「……ごめん。ちょっと映画の感動が尾を引いちゃって……」
そんな事を口にする玲花ちゃん。でもそれは、きっと彼女の嘘だ。そう感じた。俺は優しい声色を作って言った。
「それならさ、ちょっと寄り道しない?近くに公園があるんだ」
「……うん」
玲花ちゃんを先導し、昭人と行った公園へと向かう。玲花ちゃんは終始俺の一歩後ろで顔を俯かせている。
程なくして公園に辿り着き、例のベンチに彼女を案内する。そして二人して並んで座ったところで、俺は声を掛けた。
「映画、最高だったね」
「うん……」
「あの二人さ、これからどうなるのかとか、悲しいけど気になっちゃうよな」
「うん……」
ぎこちない会話が続く。玲花ちゃんはすっかり置物のようになり、こちらには目を合わせない。
〜〜っ!勇気を出せ!久我山新吾!こんな無駄な会話で茶を濁すな!玲花ちゃんがずっと俯いている理由なんてとうに察しがついているだろ!俺は決して鈍感系じゃないんだから!
きっとクライマックスのあの時、目が合ってしまったから。彼女は俺に心を見透かされた気がして恥ずかしさを堪えきれないのだろう。
俺は勇気を振り絞り、彼女へ声をかける。
「……玲花ちゃん、キスしても良い?」
「…………え?」
そこで初めて彼女と目が合った。
「キス、してもいいかな?」
もう一度繰り返し言った。言ってしまった。玲花ちゃんは口をパクパクさせている。そして脳の処理が追いついたのか、途端に慌て出した。
「え!や、その…………えっ!?っ!だ、ダメだよ!!」
そう言って俺の体を、彼女の手が抑えた。
「嫌だったらちゃんと抵抗してね」
そう言い、俺は玲花ちゃんへ更に体を寄せる。そこで気づいたのだ。
力……ほんとに全然入ってないんだ……。
「ねぇ!ほんと……ダメだよ!……こんな……」
嫌と口にしながらも、更に力を弱めていく玲花ちゃんに身を寄せ、その綺麗な顔に自分の口を近づけていく。そしてついに吐息がかかる程に近づき――
「……っ!!やっぱムリぃい!!」
玲花ちゃんが俺をドンッと突き飛ばした。俺は突然の事態に対応できず、呆けた顔をしている。
「へ?……あれ?」
瞬間、俺の頬に衝撃が走った。
「バカ!……エロ!!玲は新吾くんの事……そんな風に思うなんて無理だから!」
見ると玲花ちゃんは顔を真っ赤にし、目にうっすらと涙を浮かべていた。そしてベンチから立ち上がると、公園から走って出て行ってしまった。
あ……あれぇ?やっぱ俺の勘違いで、全然好きとかじゃなかったのか……な?
俺はベンチに座ったまま項垂れ、羞恥に身悶えするのだった。




