10話
玲花ちゃんを引き連れてやってきたのは、駅から程近い雑居ビルだった。
「ついた!ここだよ」
玲花ちゃんがガバッと自分の胸元を手で庇い、俺から一歩身を引いた。
「何ここ!?玲になにする気!?」
「いや変な店じゃないからね!?……とにかくついてきて!」
警戒する玲花ちゃんを連れてビルに入った。
「いらっしゃいませー!」
目的地の入り口を潜ると、明るい店員さんの挨拶が出迎えた。店内には壁のラック一面に広がるボードゲームのパッケージの数々。そう、ボードゲームカフェである。
「なるほど……。新吾くんっぽいね」
「カフェのあとにカフェってのもあれだけど、ここなら楽しく時間潰せるでしょ?」
店員さんに案内され、小さめのテーブルに着く。ボードゲームカフェといえば、他のお客さんと混じって遊ぶフリーと、身内だけで遊ぶプライベートとがある。当然、今日はプライベートを選択。
「ボードゲームってこんなにいっぱいあるんだね。でも玲、ルールとか殆ど知らないよ?」
「大丈夫。もしわからなければ店員さんがルールを教えてくれるし、今日は俺の知ってる簡単なゲームにしようと思う」
そう言って席を立つと、2人用ゲームの棚から一つのゲームを取り出した。
「おばけの……チェス?」
「これはゴースツって言ってね、善いおばけと悪いおばけを動かして駒を取り合う、心理戦豊富なチェスみたいなゲームだよ」
「へぇ〜。なんか難しそう……」
不安がる玲花ちゃんにわかりやすく説明する為、俺は箱から中身を取り出す。中には6×6のマスに区切られたゲーム盤と、白いおばけの駒が8つずつ入っている。
「8体のゴーストが手駒なんだけど、背中側を見てみて」
「なんか白いマークと黒いマークがあるね」
「白は善いゴースト、黒は悪いゴーストなの。勝つには、相手の善いゴーストを全部取る、逆に自分の悪いゴーストを相手に取らせる、あとは善いゴーストを相手陣地にある出口から盤上に出す、このいずれかを達成する事だよ」
「へー。でもそれ相手にバレないの?」
「背中側にマークがあるから、相手から見たら、どっちのゴーストか見分けつかないでしょ?」
そう言って、自分の駒を適当に配置してみる。
「あ、ほんとだ。全部同じゴーストに見える!」
「でしょ?そしたら玲花ちゃんも自分のゴーストを好きに置いてみて。ちなみにゴーストは、全部前後左右に1マス動かせるからね」
簡易的な説明を終え、2人とも準備が整った。ゲームスタートだ!
「えっと、これかな。うわ、黒のゴーストじゃん!」
「取ってくれてありがとう。じゃあ俺はこれを取ろうかな……うわ!こっちも黒だった!」
「取ってくれてありがと〜」
ゲームが始まって5分程経ち、玲花ちゃんは俺のゴーストの黒を2、白を1取っている。俺は玲花ちゃんのゴーストの黒を1、白を3取っている。俺が優勢だ。
玲花ちゃんがゴーストを前進させてくる。出口に近づかれては面倒なので、俺は自陣のゴーストを盾として前に立ち塞がせた。
「うーん、取っちゃうね!……ってまた黒!?」
「プレゼントフォーユー。これであと1体だね」
「なんで黒ばっか取らせるの!」
「えぇ……取ってるの玲花ちゃんじゃん」
「そーだけども!」
それから数ターンが経過し、勝負は完全に俺有利な盤面になった。
「玲花ちゃん……俺の黒取っても負け、自分の白取られても負けのダブルリーチだね」
「むむむ……」
玲花ちゃんは逡巡の後、自軍のゴーストの一体を後ろに下げた。確定だ、あいつが白のゴーストに違いない。予め脇から前に出していたゴーストを横に動かし、玲花ちゃんの下げたゴーストを追いかける。
「その逃がしたゴーストを取ったら俺の勝ちかな」
「ふーん、でもこれ黒のゴーストかもよ?」
下手っぴなブラフを張りながら、尚も後ろにゴーストを逃す玲花ちゃん。それを追い詰めていく俺のゴースト達。ターンが進み、じわりじわりと端に追い詰められていく。
「もう!新吾くん意地悪!」
「取った!」
俺はとうとう逃げ続けるゴーストの駒を取る事に成功し、その裏を見る。
「なっ!?黒だと!?」
「へへ〜ん、だ!」
慌てて盤面を確認する。そこには、ゴーストを追うために玲花ちゃん側に詰め寄った俺のゴーストと、中央でポツンと放置された玲花ちゃんのゴースト。
「まさか!?」
「じゃあ出口に向かっちゃうね」
「ま、待て〜!」
ゴーストを慌てて後退させ、玲花ちゃんのゴーストに向かわせる。しかし、最早追いつけるはずもなし。玲花ちゃんのゴーストは出口に到着し、盤外へと出てしまった。
「やった〜!勝った〜!」
「くっそ〜……このゲームの醍醐味、ブラフと心理戦を既に物にしているとは……」
「いや、新吾くんがバカみたいに引っかかっただけだからね?」
完敗だ。
そんなこんなで時間は過ぎ去っていき、ひとしきり盛り上がった所で丁度、映画館へ向かう時間となった。




