1話
はじめまして。辛咲むしょうです。
ふとラブコメを届ける作家になりたいと思い立ちまして、原稿を書き始めました。
書き上げたら新人賞に出してみようと思っております。
しかし新人賞は作家の登竜門と聞きます。なので応募前に意見をお聞かせ頂きたく、投稿いたします。
結論から言おう。工業高校生に出会いなど殆どないのである!
4時限目の授業を終えた教室は喧騒に包まれている。
俺は購買で買ったパンを頬張りながら、周囲をジトっと一瞥する。
まず、男しかいないのである!
なんでクラスに1人も女子がいないんだよ!工業高校は男女比7:3位だって聞いてたのに!実際の男女比は9.9:0.1、ウチのクラスに至っては10:0じゃんか!
不満の声はあわや口から出掛かり、俺はパンを更に頬張った。
出会いが無い理由その1。男女比率の偏りが酷い。結果工業高校は恋愛から隔絶されており、恋愛を阻害する牢獄と化しているのだ。
ブスッとした表情でパンを口に運んでいると、そんな俺の様子を見てか、クラスメイトの一人が近づいてきた。
「辛気臭い顔してどーしたよ新吾。禁欲中?」
話しかけてきたのは片瀬昭人。天然パーマがフワッとキマった塩顔なイケメン。高身長で運動神経も申し分ない。なにかとスペックは高い、俺の友人だ。
「でも新吾よ、禁欲ってむしろ体に悪いんだぜ?3日もすれば男の玉はパンパンになるらしくてな、あんま続けると玉が破裂して一生子供作れなくなるんだってよ」
しかしこの男、バカなのである!
昭人の話を受け流しつつ、更にパンを齧る。バカ丸出しの禁欲否定説はしばらく続き、俺は話を聞いてるようなそぶりだけ見せながらパンを齧り続ける。
突然、後ろから肩をガシッと組まれた。振り返って見ると、それは屈強な体つきをしたクラスメイト。
「どうした新吾。ストレスか?じゃああれだな、ウェイト部入る?」
中里秀樹。あだ名はひでちゃん。ウェイトトレーニング部に所属する脳筋ゴリラで、何かにつけてはウェイト部への勧誘を行なう癖がある。パンチの効いた俺の友人だ。
首を横に振る俺。しかし新入部員候補は逃さんとばかりに、ひでちゃんは肩を組んだ腕の力を強める。そして空いたもう一方の手で何かを取り出すと、その中身をざっざっと振りかけた。俺の水筒に。
……この人、断りも入れずに何やってんだ。
見ると茶色の粉が水筒の中に浮いていて、少しずつ中のお茶を濁らせている。プロテインパウダーだ。
俺はひでちゃんに対し肩越しに冷ややかな視線を送った。
無論、こいつもバカなのである!
視線に気づいたひでちゃんはハッとした表情を浮かべ、ようやく俺から離れる。そして手を合わせて言った。
「悪い新吾。バニラ味の方が良かったか?」
味の問題じゃねーよ!てかよくみてから入れようね!これお茶だからね!どっちでも不味いからね!?
内心でツッコミながら最後のひとかけらを口に突っ込んだ。
「なぁ、結局新吾はどうしてブスッとしてんだよ。ブスだからか?」
「ふぁれあぶふひゃい!(誰がブスじゃい!)」
…………。
「なぁ、新吾。途中から気になってはいたんだが、なんで口の中のパンを処理せず口に入れ続けてるんだ?」
俺、久我山新吾。この春から畑無工業高等学校に通う、バカなのである!
完全に忘れていた。いやほんとに!たまにあるよね。……あるかな?
途端に恥ずかしさが込み上げてきて、俺はリスのようにパンパンになった口の中のパンを呑み下す。
「ごふっ!」
やばい、喉に詰まった。
詰まったパンをどうにか落とそうと胸をバンバン叩く。後ろ隣では、ひでちゃんが同じく自身の胸をバンバン叩いている。
ドラミングで共鳴してんじゃないよ!
喉に詰まったパンが通過する兆しはない。次第に顔から血の気が引いていく。
「新吾!これ飲め!」
昭人が水筒を手渡してくる。意識が遠のき掛けてきた俺は、それを受け取り一気に喉へ押し流した。
「ごばふぁ!!」
プレミアムチョコレート味のパウダー緑茶が口いっぱいに広がり、反射的に吹き出した。ついでにパンも吹き出た。
「うわ、きったね!」
「ふむ……。喉筋がまだまだだな」
俺は荒々しく呼吸を繰り返し、なんとか窮地を脱した。
「はぁ、はぁ。君らねぇ、人の窮地にちょっとは心配してくれてもいいんじゃないの?!」
「きったね〜もんはきったね〜よ。さっさと掃除しなしゃい」
「やはり筋力不足……。ウェイト部、入っとくか?」
「入らないよ!喉の筋肉鍛えたいから入部したいです!なんてまるで俺がバカみたいじゃんか!」
「「それはそう」」
出会いがない理由その2。工業高校生は、バカばかりだからである!
以上の事から再度結論を言おう。工業高校生に出会いなど殆どないのである!
俺は掃除道具を持ってきて、汚した机や床を掃除していく。そして粗方拭き終わると、視線を窓の外、太陽が煌めく青い空に向けた。
……それでも俺は恋をしたい、彼女欲しい!こんな男ばかりバカばかりの腐れ青春から脱却し、青い青春を謳歌したい!