第二話『遺したもの』
〔アノロスレージスNo.13・Regulus〕
「え?」
機械からの音声が自身の名前を読み上げた。その瞬間、背後の輪の見た目が変わったのだが、その時の衝撃で辺りの床が吹っ飛んだ。
局長は…もう姿が見えないが、多分大丈夫だろう。というか僕は全くダメージないのが凄いな、流石装着者といったところなのだろうか。
ーシュン、無事か?無事なら、それの効能を停止させて戻ってきてくれ、そろそろ帰るとしようじゃないか。ー
放送から聞こえた声の様子には、興奮、その一言のみが思い浮かんだ。
〔回路をシャットダウン中。シャットダウンします。〕
起動の時みたく音や反動はなかった。何もなかったかのように背中の輪は消え、反応もなくなった。
…外れない。外し方聞いてなかった、最悪だ。
「これ、どうやって外すんですかー?」
少し遠くから返ってきた。
「電源は落としてあるか?なら取れるはずなんだが」
「落としました。そして取れません」
「じゃあ知らん、それごと脱げばどうだ?」
局長も知らないらしい。無理じゃない?え?
ーーーー50分後
…無理だ。
「仕方ない、そのままさっきの局長室まで戻るぞ。くれぐれも起動させないように」
局長も諦めがついた。流石に未知の能力だから最大限の注意を払っているのだろう。
「まあ勝手に起動はしないと思うので、大丈夫だと思いますけど…」
「けど…?」
「げど、これ多分自動制御機能ついてそうなので、暴走するかもしれません…」
「まあ、その時はその時だな、人の制御じゃないなら仕方がないだろう」
行きよりもはるかに緊張しながら、同じ道を逆戻りした。
…アノロスレージスを付けてみてわかったことがある。
1つ目はこの機械は作られたのが半世紀前のはずなのにAIを搭載していること。
2つ目は…なんと言えば良いのだろうか。脳内が一気に覚醒したような感覚だった、みたいな感じだった。
「…まあ、さっきのでわかったとは思うが、あれがアノロスレージスシリーズ第13号機レグルスだ。これはこれから君のものだ。そしてもう一つ…」
「あの、話を割るようで悪いのですが、僕は何かさせられるのですか?」
「ああ大丈夫だ。それはこれから話す。まあ何回も悪いがとりあえずまたついてきてくれ」
…何回目だっけ。もう疲れたから帰りたいって…そろそろ解放してほしい…
結局、何か言い出すことはできず少し大股で歩く局長の後ろを歩くだけだった。
「…手紙でも記したと思うがここは、君の家だ」
「そうですね、そうなりました」
着いたのは今朝から僕の家になったビル。1人の家にしては明らかに大きすぎるが、事実だ。ちなみに調べてみたが不動産登録的なのはされてなかったが、1番近い物件は国内最高値だった。国連怖…
「君の家…でもあるのだが、ここがこれからの君の職場にもなる」
あーはいはい大体わかりました。つまり住み込みで働けと?そういうわけですね?
「急で悪いが、これからの刻士羽シュンは、2つ一気に所属する場がある事になる。勿論異例だ。だが…これは君だけではない、そう知っておいてくれ」
「まあ僕みたいのが数人いるって事ですよね、アノロスレージスも13個あるそうですし」
「それで君の所属だが…1つは、高等学校だ。君15歳だったよな?来年からは1人の高校生として、高校生活を送ってもらう」
「それってどこの高校なんですか?」
「それはまたあとで選ぼう、選択肢を用意しておいた」
「そしてもう1つは…『Anoros』だ。これは、僕、国連局長直轄の組織で、アノロスレージスについて研究したり、各地での様々な対応や庶務、総務的な仕事をする場だ。ちなみに給料は一般人の10倍は出すと約束しよう」
ということは…?一年あたりの一般人の給料の平均って、大体70万アスくらいだから…700万!?
「そんな高値の給料がつくほど大変な仕事なんですか?」
「いや、わからん。まだその組織自体活動してないからな、やってみないとわからないし、第一、適合者がどれだけ重要かって言われたらまだ足りないくらいだぞ?」
「それってつまり、世界中から狙われるかもしれないということですか…?」
「そう言われればそうなる。だがまあ、この創都に、このゲヘルに、この国にいれば流石に大丈夫だろう。それに、アノロスレージスにはその所有者を保護する機能もある」
なるほど、局長ともあろう人がここまで言うんだ。そりゃ安心だな。
「話を戻そう。さっき言った君の所属するAnorosは君の家の真下にあるような感じだから、そこんとこよろしく。じゃあ大体こんなもんかな」
…ああ、やっと終わった…早くベッドダイブしたい…
「あ!忘れてた忘れてた。高校だ高校、どこにするか決めてもらわないと」
最悪だ。もう、期待までさせてこれか…よりによって指定されてないのかここの地域は…いや、そもそもここは普通人住まないんだったな…はぁ。
「資料、資料…あ!あったあった、よかったよかった。よし刻士羽シュンよ、この3つの中から選べ。」
「そう言われましても…何も知らないのに決めてと言われても無理ですって」
「それもそうだな、なら1つずつ説明しよう」
ーーーーー
●篠浜学園高等学校
偏差値:76(2位)
所要登下校時間:17分
全体学費:540000アス(1位)
●創都大学附属成陵高等学校
偏差値:71(4位)
所要登下校時間:34分
全体学費:480000アス(3位)
●市立星ヶ丘高等学校
偏差値:64(10位)
所要登下校時間:51分
全体学費:70000アス(87位)
ーーーーー
…ってこれ、全部エリート校じゃん!?名前とか聞いたことないけど数値でわかるエリートの香りが…
「一応、国連にいる職員のうち高校の年齢の人の入学先は基本この3つから選ぶから、他に現職員に会うかもしれない、選択の自由はこの一瞬忘れてほしい。というかみんなこれだからなんとか頼む。これから選んでほしい」
「…じゃあ、篠浜学園でお願いします…」
「おっ、ちなみにどうして?」
「パッと見て、近いところにしました。なるべく登下校時間を短くしたいなと思いまして」
「なるほど、ちなみに入学は1ヶ月後だから、それまでに準備しといてね」
「あ、はいわかりました。やっておきます」
…もしかしてこれ、国連なんもやってくれなさそうな感じか、面倒だけどやるしかないよね、自分で…
「じゃあ、今日はこれで終わり!解散!」
そう言って局長はスタコラサッサと帰っていった。元気すぎない?
局長が走って行った後から、すれ違いで向かってくる1人の大人が、頼れる秘書が話しかけてきた。
「もう、お戻りになられますか?」
「あ、リョウさん。何か用でもあるんですか?」
「まあ一応、急用ではないのですが、彼、局長が今日教えなかったこの世界について伝えておこうかと。この先急に知って暴れられても困りますし…」
…なるほど、まあ知っておかないと高校でも非常識扱いされるかもだしな、いじめとか遭いたくないし。
「それはありがたいです。是非とも教えてほしいです」
「わかりました。では、Anorosのロビーで話しましょう」
ーアノロスロビーに到着しましたー
…最近のエレベーターって凄いな、横移動もするのか。
そんな風に世界の技術に感心しているうちに、リョウさんは既に対面のソファに座り、僕の準備を待っていた。
「では早速本題に入りましょう。では国際連邦局についてからにしましょう。
まず、この世界には2つの組織があり、大陸を東西で分けています。そのうちの片方であり元西側諸国の連合がこの国際連邦局です。ここ、特別区を含めて7つの区に分かれてそれぞれ統治しています。まあ統治とはいえここ特別区に本部を置く国連局の下にある部署のようなものなので、国という概念は最早無いに等しいです。
そして、もう片方の東側諸国をまとめるのが、合衆国連盟です。主にセルファーランド連邦国やフィルナー諸島連合国が中心となっています。
これら2つの連合は対立し、その境ではほぼ常に戦が起きています。これがこの世界の区分です」
「なるほど、つまりは異世文書にあった、紛争と呼ばれる状態なわけですね?」
「まあ大体そんな感じです。そして何より、この戦に終止符を打つことができる兵器。それこそが今貴方がお持ちのアノロスレージスなのです。
ザビン・ファルトハウゼン・神条の遺した13の神器。局長は全て我々が保持しているかのような口調でしたが、実はそうではありません。そのうち我々国際連邦局が保持しているのは7機だけであり、残りの5機は合衆国側にあります」
「待ってください、だとしたら残りの1機は何処にあるんですか?」
「それは…実は残りの1機、初代アノロスレージスは行方不明なんです。情報も一切流れたりはしない為、我々も捜索をほぼ諦めているような状態です」
…その後も話が続いた。
身体はとても疲れていたはずなのだが、脳は諦めずに最後まで理解しようとしていた。
結局、リョウさんが帰った後はそのままそのソファで夜を過ごし、想像以上に過酷だった1日は終わった。