第一話「レグルス」
「……そうか、これの名は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎にしたのか」
「ええ、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎です。今まで私はこれを含めて13ものあってはならない技術、この世界の秩序を超えた機械を生み出してしまった。それのけじめを、シリーズ最後の王であるこの⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎でつけます。きっと、これは最も強く、儚く、美しいものになったはずです」
「ああ、なったさ。しかし、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の意味は…」
「ええ、お察しの通りです。しかし、これに支配できないものはない。過去の王達だとしてもこの一機には歯が立たないでしょう」
「では、どうして…また禁忌を犯したのだ…」
「私はもう永くはありません。ですから、最後くらいは破ってみたいじゃないですか、ルールとやらを。しかし完成させることはできなかった。私の最後の発明は未来の誰かへ託します。これが私の遺作です」
「遺作…か。世界を一新させるほどの発明を繰り返してきた天才博士からは聞きたくなかった言葉だな。それでも…人は自然の摂理には逆らえないからな…」
「そういうものです。世界を一新させたと言っても、結局はただの歴史の出来事に過ぎません。ここでの発明も、未来ではより洗練されたものになるでしょう。そして、いつかこの機器とタワーに適合する人が現れる。だからこそ、我々は未来に遺し、未来に託すのです」
「…そうだな。私達の日々の研鑽は、きっと未来に受け継がれる。やはり君の考えはいつも正しいな、神条」
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「ん…あれ、ここは…?」
知らない天井、知らない壁、知らない匂い、知らない音がそこにはあった。そして、前には会ったことないはずなのに何故か見覚えのある人影がいた。
「やあ、久し…いや、初めましてだね、刻士羽シュン君。僕は国際連邦局議長兼会長の才葉トオルだ。きっと何が何だかわからないだろうが、僕らは君に危害を与えるつもりはない、安心してくれ。じゃあ、僕はこれで」
彼は少し急ぎながら出て行った。
しかし、国際連邦局…? 才葉…聞いたことあるようで記憶にない言葉だ。
起きて早々なんだか面倒な出来事に巻き込まれたのかな…
まあいっか、
というかここはどこだ…?
窓から見える景色も、僕の記憶ではこんな都会の高層階なんてカケラもない上に、まずまずこんな広い家ではなかったと思うのだが…
…頭が痛むな、病気か何かなのだろうか
…!
僕は、割と大きめの段ボール箱が手前の机の上にある事に気づいた。恐らく、さっき来ていたトオル?とかいう人が置いて行ったのだろう。
開けてみると、まず1番上に手紙があった。その下には、スマホや小切手などのこれから生きるために必要そうなものが入っていた。
…まあ、とりあえず手紙から読もう。
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刻士羽シュン様
前略
まだ起きて間もないと思われますが、いかがお過ごしでしょうか。この手紙と同じ箱の中には、貴方がこれからこの街、この世界で生きる為にまず必要だと考えたものを入れておきました。それらは、ご自由にお使いください。
また、貴方が今いらっしゃる部屋は、これから家としてご使用ください。補足にはなりますが、これらの費用は全て、「国際連邦局」の名義で既に契約を済ませてありますので、請求などは致しません、ご安心ください。
最後にはなりますが、一度「国際連邦局議長室」にいらっしゃっていただけないでしょうか。渡したい物品や情報、これからの話があります。少し整理したり休憩してもらった後で構いません、どうかよろしくお願いします。
新しい環境での活躍を応援しています。
草々
国際連邦局議長 才葉トオル
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…なるほど?
つまりはこれから僕はここで生きていくということか。
というかこの議長室とやらに行かないとまずいかな、早めに行くとするか。
家の扉を開けてみてわかったのだが、どうやらここはとてつもなく大きい塔?みたいな建物のすぐ隣のビルで、とにかく広いとわかった。
多分、さっきまで家と思ってた部屋はただの寝室だったのかも…
「お待ちしておりました。シュン殿。」
外に出ようとしたら、既にそこには武装した集団と見るからに高級そうな車がいた。
「えっと…こんにちは」
「こんにちは、シュン殿。私は国際連邦局議長・局長補佐の枢戸リョウといいます。これから、議長室まで案内させていただきます。」
「あ、ありがとうございます?」
動き出した車の中は、静かで、景色だけが流れていく美術館のような空気だった。
「……何も、聞いたりしないんですね」
「え?」
「いえ、なんでもありません」
…うん!気まずいよね、さあどうしようか。だめだ僕にはこの空気を打破するなんて無理だな…
結局、その後も話せないまま20分くらいが経過し、とても豪華で大きく、圧迫感の凄い建物に到着した。
「では、こちらです。着いてきてください」
言われるがままについて行った。少しだけ早歩きなのはわかったが、それでも入口から到着までに5分はかかった。ついた場所は、『国際連邦局本部局長室』だった。
「やあ、久しぶりだね、シュン君。手紙、読んでくれたようだね。要件はもうわかっているかい?」
「あ、はい。渡したいものがあるんですよね」
「そうだ。まあ詳しい話は後にしよう、とりあえず着いてきてくれ、渡したいもののある部屋へと案内しようじゃないか」
さっきとは違い、早歩きなどではなく、ゆっくりと、自信満々な大股で歩いた後を、僕は着いて行った。
…だが、これもどこか知っている様な気がした。
「なあシュン、君は『アノロスレージス』を知っているか?」
「すいません、一言も聞いたことがないです」
「じゃあ、一から説明しよう。」
彼は少し楽しそうに話し始めた。
「まず、アノロスレージスについてだが、我々の世界では、人智を越えた装備、失われた技術と呼ばれ、今のこの世界の技術では再現不可能な代物だ。
装備すると、そのそれぞれの機器性能と個体によって合わせて変化し、天使の輪のような光を放つ。その力は扱える者が少なく、未知数なんだ」
「もしかして、その扱える人に選ばれたという事ですか?」
「そうだ。それも適合したのは『レグルス』と呼ばれる機種で、かの有名な天才科学者ザビンが手掛けた最後の発明だ。
僕は、この技術を持つ13の機器の中で、最も最高傑作と考えている」
…そうとなると、だいぶ重大な役目を背負わされるんじゃないか?
そんな世界の最高傑作みたいなやつをこんなただの15歳に託していいと思っているらしいが、多分何もできないぞ?
…というか、ザビンって誰だ?凄い有名そうな人なのはわかるが。なんだかこの頃記憶の調子が悪い気がする…
まあいっか。
「着いたぞ、ここが保管庫だ」
トオル局長は急に真面目な雰囲気になって、その鋼鉄の壁を開ける為、指紋など様々な認証をしていた。
…開いた。見た目を裏切るかのように案外軽く、ただの部屋の扉のようにも思えた。
そして、その先には世界中の国を買えてしまいそうな程の高級感を放つ財宝の数々、そして、人の大きさ程のブラックボックスのような箱が一つ、まるでこの部屋の主かのようにたたずんでいた。
その中に、トオル局長は入って行った。
…暫くすると、そのブラックボックスから危険物マークの入ったケースと共に出てきた。
「次は、地下に行くぞ。そこでこれを、試す」
…僕は言われるがままについて行った。
地下までは早かった。エレベーターだけだった…というのもあると思うが、単純に歩く速さも速かった。
大きな立方体の部屋、その中心にある机と椅子に、僕と局長は座った。
「これが先程まで話していた、アノロスレージスシリーズの第13号機『レグルス』だ」
机の上に置かれたケース。開けると、そこにはちょっとした機械とアーマーが入っていた。
「これが、世界で唯一僕に適合したものなんですか?」
「ああ。早速だが、装着してみてくれ」
…着るのは、というか取り付けるの方が正しいだろうか。
アーマーはただのスーツみたいなものだったが、本体と思われる機械の方は取り外しが効くのだろう、スーツの腰あたりに磁気でくっついたが取れそうでもあった。
〔生体認証を確認。適合しました。続いて動作確認、回路内問題無し、起動可能と判断。起動します。〕
出どころのわからない声がした後。ヴォンという起動音と共に、背中の辺りに白い輪が出現した。
「おお、これは凄い!」
トオル局長も流石に驚きを隠せていなかった。
起動の音声を聞いてから数秒、目の前にホログラムでできたと思われる板が現れ、そこにはこの機器を示す文字が書いてあった。
〔アノロスレージスNo.13・Regulus〕