第0話「A te in futuro mundo」
「どうして……。どうしてこうなったの…。
あの時、指示を全く聞かずに敵に銃口を向けたから…?
それとも……。
私は何を間違えたの…?
でもわかるのは…あの輝いていた毎日を私達は…いや私は、それを守ることができなかった…。
…お願いだから…これがただの夢であってほしかったなぁ」
「いたぞ!奴だ!奴を殺せばこの戦いが終わる!」
「やっとだ!遂に我々の勝利だ!」
「あーあ…ついに来ちゃったか…。
…ごめんね。
私、あなたに対して何もできなかった。
私にくれた優しさも、経験も、まだ返しきれてないのに…。
……今までありがとう。
たとえ数千年後、いや、数万年後になったとしても…。
きっと、またどこかで会えるよね…
…またね…」
「よし、これでこの戦争は終わ…」
「まて!奴が手に持ってるのはまさか…!」
「まずい!全員!今すぐこの場から逃げろ!」
カチッ
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はっ!
今のは…砂嵐が凄かったが…バッドエンド映画か何かの夢なのか…?
それに、夢の中で倒れていたのは僕なのか…?しかしあんな女の子といい兵隊といい全く知らないのだが…
気味が悪いな…。
しかしなんで最近はさっきのような戦いの夢を、ずっと登場人物も変わらず見てるんだろうか…
どっかで恨みでも買って呪われたかもなぁ。
ー本日は、ボルーシア中央鉄道のご利用、ありがとうございました。まもなく、ゲヘル中央。ゲヘル中央、終点です。連邦環状線、ミリシア線、バーレン線、ルカナ線には、お乗り換えです。ー
ああ。
そうだった、今は地元から都会までの長旅だったな。
なんだか旅もあっという間だったな、まあ、着いたらとりあえず何か食べるとしよう。
ーゲヘル中央、ゲヘル中央です。この列車は当駅止まりですので、ご乗車いただけません。次の列車は…ー
よし、着いた!
にしてもこの駅、大きいな。
人も多いな、なんか目立ったはしてないかな…
いけないいけない、引っ越してきたとはいえ一応国連のお呼び出しなんだ、舐められないようにしないと…。
でも…なんだかすごく都会に来たって感じがするなぁ。
ーーー
えっと…
ここであってるのか?このバスに乗れば目的の場所に行けるのか?
…もっとちゃんと調べておけばよかったかもな。
さっきから待ってはいるが…僕以外誰も並んでないのが少し心配になってきた。
おっ、バスが来た。
『国際連邦局行き』
こりゃあってる感じだな、よかったよかった。
バスに乗っていたのは、1人だけだった。
初めて会うはずなのに、どこか見たことがあるような感じがする、濃い赤の髪の女子。
そうか、さっきの夢の中の…!
…いや、それはないか。なんせ夢の中の女の子は髪が青だったし、背中に天使の輪みたいなついてたし。
まあ、夢のことだからいっか。
ーーー
…やばっ、いつの間にか寝てた!?さっきも列車の中で寝たから大丈夫だと思ったんだけど…
「あ。起きちゃった。」
「え」
目の前には、僕が寝る前まで1番後ろに座っていた女の子がいた。そして、僕が目を覚ました瞬間何もなかったかなように戻って行った。
ー次は、終点、国際連邦局前です。お忘れ物にはご注意ください。ー
着いた!地元から4時間かけて列車に乗り、バスに乗りここまで遂に…!流石に疲れたな…
「おやおや、これはこれは、もう来ていただいたのですか」
目の前から遥か昔に聞いたことのある声がした。
「早めに来るのは現代人の嗜みでしょう?お久しぶりですね、連邦局議長兼局長補佐の枢戸リョウさん。大丈夫ですか?会長にこき使われてませんか?」
「お久しぶりです、国連に最後に勧誘した時以来ですかね。あと会長は相変わらずですので、仕事は私が手伝う形のままです。まあ世間話はこの辺りにしましょう。会長がお待ちです」
ーーー
会長と合わなきゃいけないのか…面倒だなぁ、あの人昔から何か変だからなぁ…
「こんにちは、久しぶりだね。白兎」
「その呼び方はやめていただけないでしょうか、僕にはちゃんとした、九条シュンという名前がございますので」
「別にいいじゃないか、そのくらい。もう長い仲なんだからさ、ね?」
思った通りだ。やっぱりこの人はいじりから入ってくる。
昔からそうだ、僕と会長は同じ街で生まれ、育った2個違いの先輩と後輩なのだ。なぜ17歳という若さで世界一レベルの地位にいるのだろうか。
そして、何より僕のことを『白兎』とからかってくる。理由は簡単だ。1つは僕が兎好きだから、もう1つは僕は周りよりは小さめで、小動物みたいだからだそうだ。
「いやぁ、それにしても早かったね。こっちはお茶でも用意しようと思ったところだったのに。急に来て焦っちゃったよ、誰もこんな早く来いとは言ってないのに」
「いやいや15歳のただの少年を突然ここまで呼び出したのは誰ですか?」
「それはごめん、急用だったもんでね。それで?まずは一つ目、国連議会に来るつもりはまだないのか?」
「全くありません、拒否させていただきます」
…そう。僕は2年ほど前から勧誘され続けていたのだ。詳しい訳は知らないが、僕が何か条件なるものを達成していたらしく、そりゃもう毎日のように勧誘された。
結局、僕は拒否し続けている。
なぜならって?理由は簡単。面倒だからだ。
「それはもうずっとやらないと言ってきたでしょう?なのに何故、大量の資金と家を、僕の為にこの街に用意なさったのですか?」
「そう、それのことなのだが…君は、これからこの街に住み込みで、働くことになる。それが二つ目の要件だ」
「え、何故!?まだ16歳になってもないから成人すらしていないのに!?」
「ああそれに関しては国連的には大丈夫らしい」
だめだこの世界誰も味方してくれない…
「まあまあ、とりあえず話を聞いてくれよ」
このまま立ち話にするのも、何せここにきた理由がその話についてなので、とりあえず聞こう。
「単刀直入に言おう。シュン、一度その存在ごと死んでくれ、世界のために」
「え!?なんで僕が死ななきゃいけな…!」
奥の方でリョウさんがため息をついているのが見えた。多分、会長は色々説明をすっ飛ばしているのだろう。
「落ち着け!本当に死ぬわけじゃない。その戸籍、今までの人生を白紙にするだけだ。こっちから新たな記憶を植えつけた上でね?シュンの人格やらを変えるわけではないし、今この世界での適合者は君だけなんだ」
「記憶を植えつける…?適合者…?さっきから何を言ってるんだ、自分だけ知らない世界のことを話されてるようなものなのだが?」
…そう。本当に何もわからない、多分1度も聞いてない、と思う。
「シュン?この文字列に心当たりは?」
〔Numquam septem tragoedias obliviscemur. Progredimur ad futurum nondum scimus.〕
それは、よく見覚えのあるものだった。
深夜に突然届いた暗号、その答えだ。
だがしかし、僕にはどうしてそのような答えになるのかはわからない、ただ前日の夢で見た数字と英文をたまたま入力しただけ。それなのに、解けてしまった。
「シュン、君はあの暗号を解けたのか?」
「解けてません、たまたま夢で見たものを入れただけです。でもそれがどうしたんですか?」
「そうか、夢か」
会長はどんどん昂ってきている。圧も…かなり強い。
「そんなに驚くことなんですか?これは」
「驚くに決まっているだろう、この数字は、いやこの暗号こそが、マルクヴェン・システムの答えだったからな」
マルクヴェン・システム…か、また知らない言葉だ…
「何を言っているんだこいつはみたいな顔だな、そりゃ知らないもんな、簡単に説明しよう」
「そこの窓の外を見てくれ、見えるか?あの塔が。
あの塔とその周辺の建築群は、人類史上最高の天才科学者であるザビン・ファルトハウゼン・神条の残した、まだ誰もその用途、意味、入り方、何故それらを後世に残したのかなど、そのほぼ全てが未知の代物だ」
ザビン…名前だけは聞いたことがある。まあ知ってるとはいえ、この世界の文明の礎になったものを発明した。程度だが。
「そして、その塔を制御する。とだけ示されていたのがこのマルクヴェン・システムなんだ。初めに発見されてから、歴代の国連会長がそれを保管しているのだが、まだ世界で誰も解けなくてな、無用の長物だった。そう、君が解くまでは」
「…つまりどういうことですか?僕がたまたまこれを解いたから、使えるようになって、僕に感謝を伝えたいということですか?」
「いや違う。残念だがこのシステムは君にしか扱えない、世界で君だけが適合者だったんだ。これはこっちの推測ではあるが、…多分…いや、絶対にシュンならあの塔に入れる」
会長、怖いって、圧、強いって。しかもこれあれでしょ?僕がこの後塔に入らないといけない感じじゃん。
「一旦初めに戻るが、シュンは一度死ぬ事になる。今言ったこのシステムを悪用されては困るからね、こちら側としては信頼したかったのは山々だが、仕方がないんだ。言い方を悪くすると洗脳になるが、僕らには刃向かえないようにさせてもらう」
「それは…今までの記憶とかは消えるんですか?」
「いや、消えないはずだ。ただ障害はあるかもしれないが」
こちらが嫌そうな顔をしてるのを感じとり、会長は困ったような顔をした。
「拒否権はないんですか?」
「ないな。残念だがこれ以上の話はまた来世になる。すまないな。…リョウ、やれ」
一瞬、電流が身体中を流れた。
そして僕は意識を失った。