4.両親には断りの手紙を書いたけれど……。
私は両親からの結婚するようにという手紙にひとまず、結婚はしない旨を手紙で送った。
正直両親の借金をどうにかする目途はたっていないけれど、結局のところ私は結婚をしたくないと思っているのだ。
多額の借金を背負うことにはなってしまうかもしれないけれど……。それに家のためには結婚した方がずっと良いことも知っているけれど……。
もし両親の決めた相手と結婚することになればそもそも騎士も続けられなくなってしまうだろう。私は折角騎士になれたのだから、騎士として生きていきたい。
……そこは、やっぱり譲れない。
両親からどんな返答が来るのか、それがちょっと不安だ。
お父様とお母様は私が拒否をしたらどういう選択肢を取るのだろうか。……想像が出来ないような困った行動されたら困る。結婚したくないことと、ちゃんと話そうっては手紙には書いたけれど……。
うん、どうするのが一番いいのだろうか。
そんな風に考え事をしていたからだろうか。
「ユリアンリ!」
訓練の最中に、木剣を思いっきり受けてしまった。
仕事中に集中力を欠けてしまうなんて……本当に駄目だわ。こういう時でもちゃんと集中しないと一流の騎士とは言えないのに。
これが本当の実戦だったら、私は死んでいる状態だ。
幾ら訓練だからと言ってこんなに気を抜くべきではないのだ。
幸いにもマリアージュ様とグラン様が活躍した戦争以来、ジェネット王国では戦争が起こっていない。
それは《炎剣帝》と《光剣》と呼ばれるフロネア伯爵夫妻の影響が大きいのは誰もが知っている話である。他国はその英雄たちの存在を恐れている。
私も散々、その話を聞いたことがある。マリアージュ様とグラン様の活躍で、この国は平和なのだと。だから感謝をしながら過ごした方がいいと。そうやって聞かされて生きていたからこそ私は憧れを抱いている。特に同性であるマリアージュ様に。
マリアージュ様なら、自分が望まないことを全部はねのけるだろう。マリアージュ様にはそれだけの力がある。おそらく私と同じ状況になったとしても集中力がかけるなんてことはないんだろうななんて思う。……強さもそうだけれど、こういう心構えもまだまだなんだなとちょっと落ち込んだ。
集中出来てなかった私は、休むように言われた。
こんな状態で訓練に参加していても迷惑だと言われて落ち込みながら、一旦寮に戻ることにした。
……まぁ、同僚たちも私を心配してそんな風に休むように言ってくれたことは分かっているのだけど。それでも……もっとしっかりしなければって落ち込むわ。
「とりあえず、一番どうにかしなければならないのは借金よね」
寮室のベッドに横になって、私はそう口にする。
そもそも私が結婚しなければならない理由は借金の額が大きすぎるからなのだ。
真っ当に働いていたら正直稼げない。……うん、本当に時間がかかる。その間、待っていてくれると言うのはあり得ない。大金を一瞬で稼ぐ術でもあればいいのに……なんて馬鹿なことを考えてしまった。
両親が結婚相手として選んだ商人と交渉とかになるのだろうか……。そもそも交渉に応じてくれる相手なのかというのも分からない。でもまともな性格をしていたら借金の形に年が離れている存在を花嫁になんてしようとしないだろうし……。あと金貸しにも色々あって、まともな所だとそもそも両親がお金を借りられないようになってたはず。それでもあれだけの額を借りられたということは、よっぽど問題のある金貸しに借りたのかもしれない。
「一回、実家に帰らないと……」
両親と話し合いをしなければならない。両親に関しては自業自得であるともいえるのだけど、弟と妹まで大変なことになってしまうかもしれない。……私に対して結婚をするようにって言ってくるぐらいだけど、まさかまだ成人していない二人に対して無茶ぶりをしていたりしないわよね……?
どうなんだろう……。
私は騎士として王都で過ごしていて、働き始めてからそんなに実家に帰っているわけではない。手紙のやり取りはしていただけだったのが悪かったのかな。もう少し早めに両親が借金を負うのをとめることが出来ていれば……うん、考えても仕方がないわ。
ひとまずやることとして、借金返済できるだけの額は稼げないかもしれないけれど何かしら働く。お金を稼ぐ。……ちゃんと騎士団に許可を得てからじゃないと駄目ね。その時は我が家の事情を説明する必要もあるかもしれない。
実家に帰ってこれ以上の借金をやめさせることと、なんとか商人に待ってもらえるように交渉すること。
弟と妹の将来のためにももう少しどうにかないと。
なんだか一人でこれらのことを進めなければならないかと思うと、気分が沈む。
自分に出来るのだろうかとか、結局結婚を強いられてしまうのではないかとか。
――まぁ、とりあえず行動するほかない。やれることをやって駄目ならその時はその時。
そういう考えで私は動き始めることにした。