表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

 あの夜から3日が過ぎた。


 あのあと、2人でビニールシートの中から引っ張り出した田賀橋(たがはし)先輩に塩辻が救急蘇生を施すと、呼吸がしっかりしてきてやがて目を覚ました。

 救急蘇生の知識がある塩辻がいて本当に良かった。


 それから救急搬送の要請、警察への通報、各方面への連絡など大忙しだった。

 先輩の生霊(?)がいつ消えたか気づかなかった程だ。


 そうして警察の聴取、田賀橋先輩への見舞いなどでバタついてるうちに、ブルーベリージュースのモニターをすっぽかしてしまっていることに今日になって気付いて塩辻に連絡を取った。


「まずは改めて礼を言わせてくれ。あの時、塩辻が先輩が生きてることに気付いて処置してくれたおかげで、先輩は後遺症もなく元気にしている。本当に助かった」


「いやー良かったねー、でも正直僕も彼女が『生きてる』って確信は無かったんだよ。今思えばむしろ分の悪い賭けだったかもねー。でも可能性があるならやらなくちゃと思ってさ」


 あの夜、塩辻も俺と同様、先輩の生霊の首に付いていた指の跡に気付いており、彼女が手で首を絞められて殺害されたと思っていた。

 でもビニールシートから出た先輩の顔には扼殺でありがちな顔のうっ血や腫脹が見られず奇麗なまま。

 考えてみると首についた指の跡もあのブルーベリージュースを飲んだ上に目を凝らして見える程の薄いもの。

 なので、塩辻は『首は絞められたが死に至らなかったのでは?』と推測したわけだ。


 実際、田賀橋先輩の彼氏だったあの男は別れ話がこじれてカッとなって先輩の首を絞めたものの、相手がすぐぐったりとなって手を離したらしい。

 その際、先輩が死んだものと思い込んだ男はすぐにビニールシートで死体を包み、車で人のいなさそうなあの山に来たそうだ。

 田賀橋先輩が後日医者に聞いた話によると、ただ気絶しただけでなく、仮死に近い状態だったのではないかと推測されるとのことだった。


「で、彼女、やっぱり生霊だったときの記憶はなさそうなのー?」


「ああ、それとなく聞いてみたが、全く覚えてないようだな」


「彼氏が証拠抹殺のために自分を埋める穴掘ってるとこの記憶なんてあっても邪魔なだけだろうし、それで良かったんだろうねー」


 全くその通りだ。

 彼氏……と言うか元彼になってしまったが、あいつのことは忘れて人生の再スタートを切るつもりだと先輩も言っていたし。


「で、だ、塩辻。ちょっと聞きたいことがあるんだが。あの時の田賀橋先輩が幽霊、つか生霊だって気付いたのはいつなんだ?」


「遠目には見た目じゃ分からなかったねー。車から降りるところも見逃しちゃったし。ただ服装が軽装すぎるし、荷物も持とうとしない。男性も彼女に目を向けない。そんなとこから見えてる彼女は幽霊で、包みが身体かなーって思ってはいたけど」


「そういうことか。俺はその時点じゃ思いもよらなかったな」


 むしろ先輩も犯人側かと疑っていたくらいだ。


「見た目で幽霊って確信したのは湖竹君がライトを当てたときだし。救急蘇生で彼女が息を吹き返した後で、『あ、もしかして生霊だったってこと?』って気付いたくらいだね。そこら辺は湖竹君も一緒じゃない?」


「ああ、そのとおりだ」


 そこまで聞いた俺はあることに気付いて再び質問する。


「先輩の生霊が見えたのってやっぱりあのブルーベリージュースが原因か?」


「そうだよー。他にどんな原因があると思ってたの?」


 やっぱりそうだよな。俺と塩辻には見えてあの男には見えてなかったわけだし。


「……お前、あのブルーベリージュース飲んだら幽霊が見えるようになるって知ってたの?」


「そりゃ知ってたよー。自分で作ったものだし」


「俺は聞いてなかったんだけど!?」


「説明したよー」


「幽霊見えるようになるとか聞いてねえ!」


 今回そのおかげで助かったのは認めるけど!


「『視力アップに効く』ってちゃんと言ったよー。『可視限界距離の伸長、動体視力の向上、霊視能力の覚醒』とかって個別に説明はしてなかったかもしれないけど」


「霊視能力の覚醒って視力アップの範囲に入るの!?」


「湖竹君自身が言ってるじゃない。『幽霊が“見える”』って。視覚で認識してるんだから視力アップで能力覚醒するよー」


「納得いかねえ!え?もしかして実験初日に見た人たちの中に幽霊いた!?」


 実権初日の日中には遠くの繁華街を見るテストもあった。あの人込みの中に幽霊混じったりしてたの!?


「いやーいなかったと思うよー。専門家に聞いたことあるけど、亡くなってもそうそう幽霊になんてならないみたいだしー。半透明の人なんて彼女以外に見なかったでしょー?」


「あ、ああ、そうだな」


 『専門家』ってどういう奴なんだ?と思ったが聞くと藪蛇になりそうなのでやめておく。


「そもそも幽霊見えたところで何か実害あるわけじゃないし、問題ないよねー、あははははー」


 そうだ、こいつはそういう奴だった……


「じゃあ、モニター再開ってことで。えーと、早速だけど今から学校の屋上来れるー?」


「分かった今からだな」


「じゃあよろしくー。あ、そうそう、このジュースの権利高く売れそうだから売れたらボーナス出すねー」


「ああ、たのしみにしてるよ、そんじゃ」


 通話を切って外出の支度をする。

 まあ、なんだかんだ言って塩辻には感謝してる。

 せいぜい頑張ってモニターを務めるとするか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ