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 その日、約束の時間に大学講義棟の屋上へ行くと、先に来ていた塩辻(しおつじ)の姿があった。


「やー、よく来てくれたねー。なぜか皆に断られちゃってさ。ただ新開発の『視力アップに効く!特濃ブルーベリージュース』のモニターお願いしただけなんだけどねー。湖竹(こたけ)君だけだよ手伝ってくれるのは、あははははー」


「いやなぜかじゃねえよ。バイト代出るからって普通こんな人体実験に付き合わねーって」


 塩辻は本人いわく「自称発明家だねー」ということになる。

 ちなみに俺はこいつをマッドサイエンティストだと思っているが。

 その発明品はといえば、ささやかな日用品からやたら効く薬剤(原材料不明)まで多岐に渡り、おかげでこいつの専門が何なのか未だに分からん。

 そして俺は結構な高報酬でそんな塩辻の発明品のモニターのようなことをしている。

 今回も日当20万円で期間1週間程度、しかも拘束時間は1日1~2時間という超高時給でモニターを引き受けた。

 普通の人はそんな得体の知れない発明品の実験に付き合いたくないだろうが、訳あってちょっと多めに金を稼がなきゃならん俺は背に腹は代えられなかった。


「失礼だねー、人体実験ならもう自分で済ませちゃってるさ。飲んだけど何も問題なかったよー」


 塩辻は俺には嘘は言わない。飲んだと言うなら本当に飲んだのだろう。ただ、塩辻と俺とで『問題ない』の言葉の範囲が違うのだ。

 以前も塩辻の発明した薬を飲んだところ全身の皮膚が緑色になったのだが、

「あははははー、問題ないよー、20時間くらいで元に戻るからさ」

 で済まされたことがあった。

 実際翌日には元に戻ったのだが、一般にはこれを『問題ない』とは言わないだろう。


「まー、最終段階の治験みたいなもんだから大丈夫だって。僕も半分飲むから安心してねー」


 そう言いながらボックスの中から300mlくらいのレトルトパックとプラスチックコップを取り出す。

 レトルトパックには毒々しいデザインのラベルが貼ってあり、太い毛筆で書いたような荒いタッチで『視力アップに効く!特濃ブルーベリージュース』と書かれていた。

 塩辻の住宅件研究所(資金源不明)にはちょっとした薬品製造工場のような設備もあり、試作品もいちいちこうして市販品のような凝ったデザインのラベルを張り付けたりしている。

 それを店頭やネットで販売してるとこを見たことはないのでそんなとこに凝るだけ無駄だと思うのだが。


 塩辻がレトルトパックのキャップを開けて2つのコップに中身を出していく。

 見た目は普通のブルーベリージュースだ。


「あ、飲んだ直後は立ち眩みみたいな症状が出ることあるからこれに座ってから飲もうねー」


 塩辻の用意した折り畳みの椅子2脚にそれぞれ座る。

 その後、2人ほぼ同時にコップの中身を飲み干した。


「……おっと」


 一瞬、視界がぼやけ、平衡感覚が狂う。なるほど、こういう症状がでるわけか。


「湖竹君大丈夫?気分悪くなったりとかしてない?」


「ああ、一瞬クラッときたけどな。もうなんともない」


「じゃあ早速効能を確認させてもらうねー」


 そう言うと塩辻は目にゴーグルを装着し、遠く離れたショッピングモールのある方向を指差した。


「あのイ〇ンモールの屋上の向かって左端、あそこに止まっているカラスが何咥えてるか見える?」


「遠すぎるって。何咥えてるか以前にカラスがそこにいるかどうかも、って!ええ!?」


 なんとなく指差された方向に視線を向け、一応はカラスを見つけようかと意識したところで視界が急変した!

 動画の場面転換のように視界が切り替わりカラスの姿とそれが咥えている銀色のスプーンらしきものがハッキリと見える!


「ス、スプーン……」


「そうだねー、ゴミ捨て場で拾ったのかな?カラスは光る物好きだし」


「おい!」


「何?」


「コレは一体何なんだ!?」


 さっきジュースを飲んだコップを指差して叫ぶ俺に塩辻は涼しい顔で答える。


「視力アップに効く!特濃ブルーベリージュースだよー。説明した通りだとおもうけど?」


 確かにそう説明は受けていた。しかし

 

「そんな説明でここまで効くなんて想像できるわけねえだろ!せいぜい『疲れ目がスッキリしてピント調節がスムーズになる』くらいに思っていたのに、悪の組織に改造手術されたレベルだろこれ!」


 それと


「この効果って絶対ブルーベリー関係ねえだろ!」


「『視力アップに効く』っていえばブルーベリーだしねー、世間的なイメージって大事かなーと」


「だからその世間的なイメージから効果がズレすぎてるんだよ!本当に俺何飲まされたの!?」


 掴み掛からんばかりに詰め寄る俺に塩辻はにこやかに返す。


「まー落ち着いて。ちゃんと検査はしてるし、原材料や何かの長期的な摂取に対する安全性も可能な限り調べているさ。そこらの健康食品よりもよっぽど安全なのは保障するよー」


「ああ、まあ、お前自身も飲んでるわけだしな……」


 説明にとりあえず納得した(腹をくくったとも言う)俺は、その後1時間程、視認可能距離等の調査に協力したのだった。


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