後編:ボツネタを出したいのなら、それを本編で拾って自分で供養してあげてくださいよ……!(切実
都内某所、上空から見て2つの0が連なった外観を持つビル。その内部に設けられた、煌びやかなパーティー会場にて……。
「スピーチお疲れ様、かんぱ~い」
「元からかわいかったけど、ホントきれいになったよね? ロザリアちゃん」
「お世辞はいいですってぇ」
「わたしより年上になっちゃった……?」
「いやいや、アオイさんとはそんな変わらないよ! 買いかぶりすぎなんです」
「若いモン同士はいいなあ。この蜜月さんなんかアラサーよ」
「「「「「ハハハハハ」」」」」
ドレスコードは守った上で、思い思いのパーティードレスに着替えたアデリーンたちはこの祝宴を楽しんでいた。酒やジュース、お茶などを淹れたグラスを飲み交わして……。ロザリアに関しては「今は新成人相当だから~」と言い訳していたが、肉体的にはギリギリセーフである。最高に達していた緊張も解け、肩の荷も下ろしてアデリーンが雑談と思い出話を楽しんでいた時である。会場内で予期せぬトラブルが起きたのは――。
「ちがぁう! 同情なんかしてほしいのではない! カワイソウだと思うなら本編に出せと言ってるんだよォ~」
「俺たちはいつ? いつ出られる? このままお蔵入りか!?」
いわゆる中二病的なムードを放つ男ふたりが抗議を行い、ウエイターに絡んで大声で喚き散らしていたのである。彼らだけではない、似たようなファッションの男女も列を作ってこの騒ぎに便乗していた――というよりも、抗議団体などにたとえたほうが正しい。
「そんなことをおっしゃられても困ります!」
「バァーカ言ってる!」
スタッフらに抗議した男のうち、髪型がプラチナブロンドの短髪で服装は黒のロングコートの男が蘭珠にビンタされた。どうやら、彼女からすれば一応知り合いのようだ。もちろん、このパーティーで司会をしたアデリーンも彼を知っている。
「あなたたちは、確か……」
「そうだ。出番が与えられるはずだったのに、「幻獣モチーフは使わない」とかいうしょーもない作者の縛りルールのために出禁を食らった……」
アデリーンが彼らに確認を取ろうとした時だ、似通ったファッションをしている彼らの方からいっせいに名を名乗ったのは。
「そんな俺の名は、黒い龍と書いてヘイロン! ドラゴンガイストとなる男!」
ヘイロンは金髪で黒系でそろえた服装の男だ。
「ワイバーンガイストとなるジュードだ」
ジュードは銀髪で、伊達男である。
「ユニコーンガイストへと姿を変えるマヤよ」
マヤは青いメッシュの入った黒髪をポニーテールにまとめた、美しいながら厳しげな雰囲気の女性である。前をはだけたロングコートが様になっていた。
「お前たちを苦しめる強敵グリフォンガイストとしてはるばるやって来る予定だった、鷲尾と覚えておけ!」
鷲尾は、髪をオールバックにした上で逆立てた長身で厳格そうな男だ。「4人もいるのかあ」と愚痴をこぼしたのは、蜜月だが、不満があふれているのは彼らだけではまだ終わらなかった。
「いるぞいるぞぉ!!」
「知らね~~ッ。文句ばっか言うくらいなら来んなよ!」
彼女の言いたいことは、ごもっともである。続いて現れた4人組もまた、個性的な格好をしていた者ばかりだ。
「あなたたちまで、もうやめましょうよー!」
「蘭珠だったか、いい名前をもらったよな……お前だけも報われてよかった。はっ!?」
蘭珠とは知己だったと思われる彼らはニコニコ笑いながらしゃべり出そうとしたが、そのうちの1人、先ほど彼女からきつく当たられたプラチナブロンドの男が我にかえる。
「いかんいかん、いい話で終わってしまう……。我らは! 作者の、実につまらん! くだらん! 気に入らん! こだわりのせいで! お蔵入りさせられた者!」
プラチナブロンドと黒コートの男はリーダー格のようで、後ろの3人を仕切っていたが反感も抱かれていた。
「俺こそはブラオ・スペリオル」
それがリーダーの男の名だ。
「ロッソ・フェニックスよ」
そう名乗ったのは、赤髪で派手なメイクと衣装の女性だ。
「ヴァイス・タイガだけど」
頬に傷のついた、真面目で厳しそうな白髪の女性が名乗る。軽装だがイケてる服装だった。
「そしてオレがネロ・バザルト」
どこか影が薄そうな男が名乗りを上げた。やはり黒いイカしたファッションだ。
「我らはヘリックスが繰り出す……はずだった、【四神部隊】!! 全員そろってボツにされ日の目を見られなかった……」
これで全員簡単な自己紹介を終えたものの、事情が事情ということもあり、どこかしまらない。アデリーンたちも反応に困って、これには苦笑いだ。
「あーはいはい。前に聞いたけど? 幻獣じゃない動植物や無機物・概念・その他で統一したかったってハナシだもんね……。しゃーなし」
「笑ったな!」
勘違いを起こしたブラオから悪し様に罵られて、蜜月は「むっ……」とした顔で彼に詰め寄るとにらみを利かせた。
「哀れんでいるのだ!!」
一喝。何の気は無しに、相手を咎めるべくやっただけだが彼らは一斉にすくみ上がった。彼女にも、並び立つアデリーンたちにもだ。
「迷惑かけるくらいでしたらね。帰れ帰れ! ホラ!」
「ランジュちゃん、私より容赦がないわ。もう少しこうお慈悲を恵んであげても……いいんじゃない」
固まっていたところを蘭珠に押し出され、彼らは会場からもつまみ出された。迷惑をかけ、せっかくのパーティーに水を差したので当たり前である。
「それは、だめです……。四神部隊のみんなのためになりません。供養はしてやりたいです」
彼女はブラオやヘイロンたちには甘やかすのではなくあえて厳しく接する、知った間柄であるからこそだ。なのに――。
「このヘイロンもスペリオルも、アデリーンのチョー強力なライバルとなり得たのだッ」
なのに、彼らとくればあきらめきれず戻ってきたようだ。アデリーンもこれには頭を抱え、ため息をついた。
「そうだそうだ! 俺たちの存在を切っても後悔するだけ!」
「それは……あたしたちの裁量では決められません」
「ガーン!」と大きなショックを受けたブラオたちは、今度こそパーティーから退場した。もう望み薄だということを突きつけられたからだ。いや、本当に【本編の世界】へと出られる前フリだったのかもしれない。
「まー、こういうこともありましたが。3年目もよろしくお願いします!」
「水鏡蘭珠、モブ市民でもいいから出たいです!」
アデリーンが一礼したのを合図に皆がお辞儀をし、メガネをかけた蘭珠の心の叫びと共にこの祝宴は終わりを……迎えず、しばらく楽しい時間が続いたのだった。
お待たせしました。
こんな調子ですが、3年目もよろしくお願いします。
来年もこういう短編やるかどうかは未定です。