前編:のめのめ!たべろたべろ!
2023年2月23日、天皇様が生まれた日に拙作【アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ】は、皆様のおかげで3周年を迎えました。相変わらずこんな調子ではありますが、引き続き応援よろしくお願いいたします。
それではご覧ください!
究極の生命体、じゃなくて特別編です。
ある年、ある月のある日のことだ。メガネをかけた黒髪の少女が「ランジュちゃんへ、このお店に来てね♪」というサインが書かれた1枚の笑顔がまぶしい水着美女のブロマイドを手に、同じブロマイドに記された指定の場所へと向けて歩いていた。目のやり場に困るな、とは思いつつも、少女は見とれてしまう。自身のそんな姿が目立ってしまい、彼女は少しだけ恥ずかしかった。
「このお店かあ」
串焼きとお好み焼きの【味どころ 百福】、そこが仲間たちとの待ち合わせ場所だ。かつては名前のない、誰でもない少女だったが、今は違う。水鏡蘭珠という名前をもらったのだから……
「来たね! きょうの主役!!」
暖簾をくぐり抜けて中に入り、しばらくキョロキョロと和風で風情のある内装を見回していたときだ。予約して先に席を取ってくれていたうちのひとりが、蘭珠に声をかけたのだ。その者は黒髪の成人女性で瞳は蜂蜜色、もう何本か焼き鳥を味わった跡と、お好み焼きを何枚か食した形跡が見られた。
「こっちへおいで蘭珠ちゃん!」
「う! お酒くさ……」
蘭珠を誘ったグループの中の大半が飲酒可能な年齢の大人たちだ。まだ飲めない年齢層がほんの少し混じっているくらいで、社会科見学の一環みたいなものだと言われたのなら聞こえはよいが。でも店内の一角にあったそのテーブルに、彼女も上がらせてもらった。蘭珠のほかには、金髪で青い瞳のアデリーンや、黒髪の蜜月、銀髪の虎姫とその秘書でミディアムヘアーの環、プラチナブロンドの髪と真紅の瞳が美しいロザリア、紅色の長髪をなびかせる綾女がいた。対岸のテーブルには、座りきれなかったメンバーである、青髪の少女・葵と、紫の髪をした女医の彩姫もおりこの飲み会を楽しんでいる。共通点は、どちらも鉄板の上で具材がジュージューと音を立てて焼かれ、完成する前からとてもおいしそうだったということだ。
「酒は飲んでも飲まれるな! だぞ〜」
口ではそう言いながらも、蜜月は虎姫によって直接口に注いでもらう形でビールをがぶ飲みする。すぐに酔っ払った。
「そもそもまだ飲めない! そんなあなたのためにお茶とジュースたっくさん用意しました」
「あ、ありがと……!?」
「今日は環くんが送迎してくれるから、何も心配はいらないよ。飲め飲め」
「お酌がわりにどーぞ?」
嬉々としてアデリーンが見せたようにビン入りのコーラやウーロン茶も、日本酒もビールも勢揃い。夢の光景だ。蘭珠は普段は真面目だが、こういう時だからか年相応なところを見せて大いにはしゃいだ。しかし彼女の実年齢を知る者は常にわずかで、大多数の者は知る機会もない。そんなことよりも、この場にいた客全て満面の笑みだった。
「もう、まるまる3年だっけ? ワタシたちも長い付き合いになっちゃったね」
「お酒などをつまみに、こうしてみんなで……いいですねッ」
酔った割には冷静な様子の蜜月が、この3年間を振り返る。アデリーンたちと出会い、文字通りの紆余曲折を経てよき友人、よき仲間となった日々を。感慨深そうにしていた彼女を見て、アデリーンも綾女も、みなしみじみとし出した。
「っていうか、ロザリアさん急にでっかくなりすぎ!」
蘭珠がオーバー気味に驚く。ロザリアは華奢で小柄で、愛嬌を振りまきかわいらしい……そういう少女であったが、蘭珠もしばらく会わない間にだいぶ育って成長していた。しすぎた、と言えば、彼女の親交のある者たちから総スカンをくらい、締め上げられるのがオチだ。それでもロザリアは、飲酒はまだできないようだ。
「なんでおっきくなったと思う〜? それはまだ言えないな、お楽しみに……」
「言えないんだよなあ」
禁則事項につき、具体的な理由は明かせないのだ。恐らく精神的にはそのままのはずが、しかしこの大きなロザリアは意外なほどおとなびたムードを漂わせていた。
「豚玉焼けたよ!」
「綾女お姉さん! 鶏玉食べますか!?」
「ワタシ、イカモノ食いだからイカ玉食べちゃお〜ぐひひひひ!」
「酔っ払ってまでなーに言ってんですか!」
「ミヅキって一度酔っちゃうとタチが悪いのよ」
なんやかんやで全員で飲み食いして、歌って騒いで……楽しい時間はあっという間だった。
「まだまだ、疑問は尽きません。たとえば……。今年は例年通りパーティーはやらないのかな」
焼いて、ひっくり返して、また焼いて、食べごろになったら食す。それからもまだまだ食べ続け、焼き鳥や牛串なども遠慮なしに注文しがっつりと食べた後だ。蘭珠がその疑問を口にしたのは。なお、どこかの自称・健啖家の金髪美女が懲りずにたくさん注文していたため、当分この飲み会は終わりそうもない。
「予算の都合で開けません。あしからず」
「そんなぁ」
虎姫からの非情な知らせに、「がっくり」と、蘭珠たちは肩を落とす。
「と言いたいところだけどー?」
だが、前フリだった。唐突にニヤニヤと笑うアデリーンが皆の前でプラカードを提示したのである。
「な、なにい〜!?」
ドッキリ大成功! そんな声やスケッチブックにプラカードが出そうな空気に包まれた。
……後半へ続く!