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チャプター2 シークエンス1 訓練校の仕事

ニコラスは自分の部屋で『心霊現象かと思っていたらホームレスがシステム開発していました』というタイトルの動画をPCの画面で再生している


ニコラスは、廃工場で萩原とゲンさんに遭遇した時に撮影していた動画を編集して普段と同じ動画共有サイトで公開した

ニコラスは普段はアンジーが心霊スポットを実況していく動画をアップロードしていたが、今回の動画は自分が下見中に遭遇したホームレスとのリアリティ溢れる逃亡劇であり趣が異なっている

元々、アップロードするかどうかは迷っていたが動画を見たアンジーがアップロードすることを強く勧めた

視聴者に受け入れられるか始めのうちこそは不安であったが、反響は凄まじく動画の再生回数はアッというまに今までの動画で最も多い数字を記録した。


視聴者の中にはSNSでこの動画を普段以上に拡散する者もおり、いままでのファンはもちろん新規にチャンネルを視聴する人も多かった


ニコラスとしては、いままでのアンジーとの動画を気に入っていたので単なるアクシデントである今回の動画のほうが評価されることに内心、複雑な気持ちになった


アンジー「ニック!彼らの動画の評判、とてもすごいじゃない!」

ニコラス「そうだね、」

アンジー「どうするの?これからも彼らへの取材は続けるの?」

ニコラス「僕も彼らの就職活動やサバイバル生活はとても興味深いしエキサイティングなんだけど、」

ニコラス「彼らは僕が撮影していくのを許してくれるんだろうか?つまり、その、彼らは工場に侵入したり、電気も盗んでいただろう、彼らが撮影を許可してくれたとしても、僕自身も犯罪行為に手を貸しているとみなされて捕まってしまうかもしれない」

アンジー「そうね、あなたらしいわ」

ニコラス「そういう過激な行動を期待して撮影してしまうのはやはり良くないと思うんだ、彼らの都合次第でいつ断られるかもわからないじゃないか、それに僕は彼らから一度、逃げ出してしまっているからね」

アンジー「なら偶然、たまたまもう一度、別の意図で会うことが出来ればいいんじゃない?」

ニコラス「偶然?別の意図?どういうことだい?」

アンジーはノートパソコンの画面を見せてくる、PCの画面には職業訓練校のホームぺージが表示されており、PR映像制作業務にあたるフリーランスを募集する記事が書いてある、そして生徒の集合写真も載っているがその写真には萩原が映っていた

アンジー「彼らが通っているのはこの訓練校で、しかもフリーランスを募集しているわ!」

ニコラス「アンジー、、、それはつまり、、、僕がたまたまこの仕事を受注してPR映像を作っていると偶然、訓練校の生徒の萩原の生活を取材することになってしまうっていうことかい?」

アンジー「そうよ!そうすればあなたは何も悪くないわ」

ニコラス「でも、業務で撮影した映像は使えないじゃないか」

アンジー「大丈夫よ、彼らならPR映像で使えないような映像を必ず撮らせてくれるわ、訓練校の取材と並行して撮り溜まっていく訓練校と関係のない彼らのエキサイティングな映像をあなたがどう使おうとバレることはないし、誰も困らないわ」

ニコラス「アンジー、、、でも」

アンジー「別に撮影するだけじゃない、あとから考えればいいことだし、それに何よりこの反響を見て、」

アンジーは、アップロードした動画のコメント欄や再生回数を表示する

アンジー「あなたの動画がいまの日本のリアルを切り開いているのよ、真実の報道よ、これはきっとギフトだから、あなたはトライしてみるべきだわ」

アンジーは、学生の頃、環境問題や貧困問題に対するボランティアサークルに所属していた

しかし、サークル内部の実態や意識の低さに幻滅し、それ以来この手の話にはマイノリティな正義を掲げるようになってしまっていた。アンジーはこうなってしまうとうるさい


ニコラス「わかったよ、もしも業務を受注出来たらやってみるよ」

僕は、訓練校の業務に応募してみた、元々、映像制作の業務は経験したことがあるし、嫌がる理由もとくにはなかった、萩原と再会するのは確かに気まずいかもしれないけれど、別に気まずければそれはそれで淡々と仕事をこなしていけばいいだけなんじゃないかと考えた



応募してから数日後に、訓練校から連絡がありPR映像の制作を行うことが決まった、アンジーは喜んでくれた


訓練校のセンター長に挨拶をすませた、センター長は小太りな50代でニコニコと上機嫌だった

ざっくばらんに事前に送付していた企画書でどんなPR映像を作るか説明した

PR映像の目的は訓練校のスポンサー企業や就職先の斡旋企業への営業活動のための映像であった、とりわけ今回は市役所などの自治体からアルバイト業務を訓練校生徒へ受注するために事業内容等を簡潔につたえられるPR映像が必要になったそうだ


早速、訓練校の外観(外側からの様子)を撮影させてもらった

動画では、この外観を映しながら訓練校の建物が最寄りの駅やバス停から徒歩でどれぐらいの時間がかかるかなどを説明していく、映画などではシーンとシーンの合間に風景だけの映像を一瞬挟んで叙情的な表現に使ったりするのだが、PR映像ではそういう使い方をせずにどんな場所なのか、どんな建物なのか簡潔に伝えられるかが重要だ


ニコラスが外観を撮影していると、センター長が喋りかけてくる。

センター長「えっ、これは今は喋っていいんですか?」

ニコラス「あっ、大丈夫ですよ」

センター長「訓練校の建物撮ってんの?」

ニコラス「あっはい、」

センター長「歳どれぐらいなの?」

ニコラス「ええっと28歳です」

センター長「あっそうそうそう、履歴書書いてあったよね」

ニコラス「はい、、、」

センター長「、、、28っていうとさあ、周りの子とか結婚し始めない?」

僕はセンター長が何度も話しかけてくるのが煩わしかった、外観の撮影に集中したかったのでめんどくさかったので軽く流しておこうと思った

ニコラス「、、、はい」

センター長「っでしょ!私もさあ甥っ子がさあ、結婚式があって行ってきたんですけど、結婚式ってわかる?今の人結婚式しない人もいるって聞いたことあるし、それで結婚式っていまじゃあもう一個のプロジェクトだよね、いろんな仕事をしてる人が来てさあ、式場を飾りつける人とか、料理人の人とか、みんなをまとめる司会の人とかさ、それでビデオを撮影してる人とかも居て、その人も個人で働いてるって言ってたんだけど、機械とかも凄いし、出来上がったビデオも凄くて、僕は思ったんだよね~、もう映像は個人でもやれる時代だよ!本当、昔はね、そういううデジタルじゃなくてねフイルムのカメラだったから、撮影する人も必要だし撮影したフイルムを現像する人も必要で、こんどその現像したフイルムをつなぎ合わせる編集の人も必要でしょ、この編集って昔のフイルムはそのフイルムのテープをハサミで切ってつなぎ合わせるんだから大変だよ、もう職人だよ、そんなんもう会社組織じゃないとできないよね」


僕はどんなアングルで撮影すれば良いのか考えながら外観の撮影に集中していたので、センター長の話が煩わしくて適当に相槌をうって、ほぼ流していたが、センター長はカメラや撮影のことに興味津々なのか?話し始めるとキリがなくて、しまいにはカメラ機材のそれぞれの部品の名称や役割まで質問してきた

始めのうちは僕も興味を持って貰えてうれしい気持ちもあったが少しうんざりしてきた

あと、センター長はフィルムをフイルムと発音する、なにか拘りがあるんだろうか。film、フィルムと発音せずにハッキリとfu、i、ru、mu、フ・イ・ル・ムと発音する、それが僕はなんとなく嫌だった

ニコラス「ちょっと動かしまーす」

僕がカメラを三脚ごと動かそうとすると、センター長は急に近づいてくる、

センター長「あっ良いっすよ、手伝いますよ、これ重そうっすねー」

センター長は僕が三脚を動かすのを手伝おうとしてくる、小太りなわりには間合いの詰め方が素早くてびっくりした

ただ、こういった撮影機材は動かし方が決まっていて、センター長は持ち方や三脚の畳み方を知らない、無暗に動かすと危ないので僕は

ニコラス「大丈夫です、いつも一人でやってるんで」と断った

センター長「いや、重そうなんで今日ぐらいは手伝わせてください」とセンター長は食い下がってくる

センター長は素早く接近し、機材を引っ張ってくる


ニコラス「危ないから!!!」と僕は不意に荒げた声で大声を出してしまった、センター長にたいして少しづつ溜まっていたストレスが表に出てしまった


センター長は僕の声に驚くとスッと離れてシュンとしてしまった


外観を撮り終えると、その後の予定はセンター長が職業訓練校について説明するインタビューを撮影することになっていたが、センター長はそのインタビューの間もずっと元気がなくシュンとしていた

もしかしたらセンター長は今日の撮影を楽しみにしていてそれが理由でテンションが上がっててたくさん話しかけてきたり嫌に積極的だったのかもしれない

そう思うとセンター長には悪いことをしてしまった気がしなくもない


センター長「私のインタビュー終わりですよね」

ニコラス「はい」

センター長「萩原って、明日、面接の子、面接風景とかの密着取材、企業さんはオッケーしてるから、萩原にも伝わってるから」

ニコラス「あっありがとうございます」

センター長は事務的に連絡事項を伝えると去っていこうとした、僕はセンター長の機嫌を少し損ねてしまったかもしれない

僕はセンター長に謝ることにした

ニコラス「あの、ちょっと途中大きい声出してすいませんでした、その時間足りなくなったらどうしようって焦っちゃって」

センター長「えっ何がですか?」

センター長はまだ事務的だった

ニコラス「いや、あのー、途中話しかけてもらってたのに」

センター長「ちょっと次やることあるんで、もういきますね」

センター長は怒られたことが恥ずかしかったのか『自分は初めからこういう事務的なスタンスでしたよ』みたいな空気を出してきていて、僕はイラっとしてしまった、謝ってんねんから素直にしてくれよと思った。思ってたよりもセンター長を傷つけてしまっていたのかもしれない、というかセンター長が思ったよりも大人げないのかもしれない

たしかに彼らはお客さんで僕はお金をもらってる立場なので僕が彼らに気を使わなければいけないのかもしれない

しかし、いちいち相手をし続けるのがめんどくさいことも変わらない


ニコラスは仕事のこの手のバランスを取らないといけなくなる所が心のどこかで好きになれなかった


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