チャプター1 シークエンス3 ニコラスと服属
僕は男たちに取り押さえられてしまった。口を押えられているので助けを呼ぶこともできない
「落ち着け!黙れ!でかい声を出すな!」
手に持っていたライトをはぎとられて自分を照らしつけられる
眩しい、そのせいで相手をよく見ることはできないが、あまりいい気分ではない屈辱的な気分だ
彼らは恰幅の良い上裸の男と
男たちは尋問するように僕の体を揺らしながら問いただしてくる
「おい!お前は一体なんなんだ!何しに来たんだ!」
もう一人の男は僕の口を塞ぎながらライトで僕の全身を這うように照らしつけてくる
「ゲンさん、こいつ外人だぜ、しかもカメラを持ってやがる、行政の差し金かもしれねえ」
「ふざけたやつらだ、こんな外人まで駆り出してくるのか?こいつアジア系じゃねえぞ、前線部隊はシルバー人材ぐらいしかいないんじゃなかったのか」
「ゲンさん、こいつどうするんだよ、行政の回しもんならとっちめるしかねえってことだよな」
僕は彼らが何を言ってるのかほとんど意味が分からなかった、でもこのままじゃまずいって言うことだけはわかった、だから必死に顔を横に振った、NOという意思表示だ
「バカ、おまえ、動くな、暴れるな」
僕の口を押えている男がより強い力で僕の口を抑え込む
「萩原、止めろ、こいつ何か言おうとしてるぞ!」
僕の口を押えている男、萩原?はもう一人の男、ゲンさん?に諭されると手の力を緩めていく
ゲンさん?が萩原?に指示を出して行動しているように思われた、この二人は上下関係なのか?
ニコラス「アイムナットエネミー!!、アイムナット!、、、オゥ!、、敵じゃない!!、敵じゃないです!!」
緊張感のせいでつい第一言語が出てしまう、声もうわずってしまっている
僕の声が大きかったのが気に障ったのか萩原?という男が反射的に僕の口を抑え込む
萩原?「声がデカい!!」工場の中は謎の異音がけたたましく鳴り響いているのになんで自分の声だけ過剰に高圧的に反応されるのか理不尽に感じるが彼らの暴力の前になすすべがない
ゲンさん?「萩原!やめろ」
ゲンさんの静止のおかげで萩原は僕の口から手を離す
彼らはとても生臭くて呼吸を鼻で行うのは正直とても辛い、短い間だが口を抑えつけられるのは想像以上に堪える、よく見るとゲンさんという男は50cmほどの魚を持っていて、その魚が自分の脇腹に押し付けられている、得体のしれないぬめぬめとした触感の半分はこの魚のせいだった、ゲンさんは恰幅の良いからだ付きで上にはなにも着ておらずカーキ色のズボンを履いていた、萩原?という男もゲンさんと同じようなカーキ色のズボンを着用していたが痩せこけており上には白いタンクトップを一枚だけ着ていた
二人とも衣服や体の表面が爬虫類のように汗ばんでいる
萩原?は僕の表情をしっかり確認しようと顔を近づけてくる
僕は恐怖で反射的に、ゲンさん?に後ろから取り押さえられてはいるものの上体をのけぞって萩原という男から少しでも距離をとろうとしながら深呼吸を繰り返した
しかし、そんな些細な抵抗はこの男たちには全く通用しない、こちらの意図をくみ取るようなことはせずに容赦なく物色してくる
まるで軍隊の様だ、こいつらは旧日本軍の残党にちがいない、
何十年も太平洋の無人島に潜伏して終戦を信じない旧日本兵のニュースが脳裏をよぎる。
太平洋戦争当時の日本人の天皇、祖国に対する異様な忠誠心、きっと彼らはそいつらの生き残りの子孫で、今も社会の転覆を考えているテロリストで、廃工場に潜伏している文字どうりの亡霊なんだ、狂っている!!!
萩原?「おまえいったいなんなんだ、敵じゃないってどういう意味だ?」
ニコラス「そ、その、、、僕は民間人で、軍隊ではないから、」
萩原?「おまえが一体何をしているやつなのかを聞いてるんだ!」
萩原?「なんでカメラを持っているんだ」
ニコラス「Youtubeの下見で、」
萩原?「はあ?」
ニコラス「私は、Youtubeを撮ってて、Youtubeのチャンネルで、心霊スポットを撮ってるから、、怖いところ探して、」緊張して片言の日本語になってしまう
間
ゲンさん?が僕を抑えつける力がゆっくりとなくなっていく
萩原?はあきれたように大きくため息をつく
ゲンさん?「じゃあ、お前、迷子で入ってきたってことだよな?」
萩原?は小さな声で、うっざとつぶやく、そして急に近づいて大声で何か叫び始めたが早口でうまく聞き取れない、何か苦情や文句をまくしたてているようだ
萩原?「お前らそんなんストーカーと変わらんようなことして、なんのためにもならんようなことして威張りイキリちらかってからに、腐れアフィリカスの阿保のせいで、こちとらどんだけ大切な時間けずられるか?わかるか?わからんか?たまらん、たまらんやで、もうだいぶこっちが限られてるの見てわからんか、外人わからんか、親の顔さらしようもないわ、今何時やと思ってんねん、有職のゴミ野郎どもが帰って寝て朝起きて何十年も繰り返す日々、年取ってから」
ゲンさん?「萩原、落ち着けよ、萩原」
萩原?「はあ!」
萩原?という男はゲンさん?がなだめるとそっぽを向いて大きく地団太を何回か踏んだ
足を大きく振り上げて地面にたたきつける地団太という動作を大人がやっているのを見るのは初めてで驚いた
萩原?「集中してたのに!頑張って集中してたのに!!」
ゲンさん「萩原、切り替えていけ、切り替えろ」
萩原?は怒りのせいでか震えるような吐息を一度、大きく吐き出した
そしてゲンさん?に泣きそうな声で訴えかけるように言葉を発する
萩原?「いや、良い調子だったんすよぉ、本当に」彼は感情が不安定だ
ゲンさん?「わかた、わかた、取り返してこ」
萩原?「今の叫び声バレますよね?」
ゲンさん?「バレる?」
萩原?「いやこれはもう無理っすよ、さすがにギャーギャー言い過ぎっすよね、この人」
どうやら彼らは僕が侵入して大声をあげたせいで何か苦境に立たされているようだ
ゲンさん?「どうすんの?発電機止める?」
萩原?「ちょっと待って」萩原はつかつかと歩いていき、先ほどの青白い光に向かっていく
光に顔を近づけ何かを見ている、
誤解が解かれた?のか、僕は彼らの拘束から解き放たれて放置された。
そうか、暗がりでよく見えなかったがあの青白い光はPCのディスプレイだ、カタカタという音はキーボードを叩く音だ
ライトをPCに向ける、すると萩原?の周囲にボロきれやダンボール、魚の骨がちらばっている様子が照らし出された、
脇にはガソリン式の発電機もある、大きな音を立てているのはこの発電機だったのか、
発電機にはパソコンの電源ケーブルが接続されている、この発電機の電力でPCを動かしているのか
発電機の廃棄ノズル側にはおそらく彼らの衣服?が干されている、あまり考えたくはないがおそらく発電機からでる排気ガスで洗濯物を乾かしているのだろう
僕がライトで彼らを観察している間にも萩原?はキーボードをカタカタと鳴らしPCを操作している
萩原?「ゲンさん!今日のノルマは、あと15分ほしいっす」
ゲンさん?「15ならやるな」
萩原?「これ台車でアップロードする奴やるっす、ちょっとお願いします」
ゲンさん?「あいよ」
ゲンさん?「電源、いま変える?」
萩原「いま変えたらシステムに履歴残るんで警備を引き付けてからで」
ゲンさん?「いいけどミスすんなよ!」
ゲンさん?は萩原と会話しながら散らかった荷物を素早くまとめ始めている
ヤバい、僕は慌ててカメラを向けた、彼らのちらかった荷物は被写体としては良い感じに生活感が出ている、片付けられてしまう前に撮影しておかなければ、この使い方のよくわからない道具?たちを記録しておきたい
ゲンさん?は右に左にそそくさと荷物をかたづけ、どこからともなく台車を引っ張り出してきて、荷物をまとめたり、乾いた洗濯物を畳んだりしている、
僕はゲンさん?に気を取られていて萩原?が近くに来ているのに気づかなかった
カメラのレンズから目を離すと間近に萩原?がいてびっくりした
萩原?は先程とは打って変わって落ち着いた声でそれでいて力強い目線で僕に声をかけてきた
萩原?「お前にも手伝ってもらうからな」命令が7お願いが3、そんな感じの割合だった
遠くからゲンさん?の軽い声が聞こえる
ゲンさん?「じゃあ、魚、もってもらい、魚、台車のんないから」
僕は、魚を持たされた、素手で持たされた
片手にカメラ、片手に魚である、だいたい50cmほどで、片手で持てるサイズ感の魚の中では最大級の大きさの魚だった