チャプター1 シークエンス1 ニコラスと廃工場地帯
チャプター1 シークエンス1 ニコラスと廃工場地帯
今は20時頃、鈴虫が泣いている、日の暮れた工場地帯でカメラを回している
僕はニコラス、心霊系の動画をアップロードするyoutubeチャンネルを運営している
僕は動画の撮影の為の下見にこの工場地帯を撮影している
僕の、いや僕たちのチャンネルは動画の構成や撮影、編集、演出を担当する僕、ニコラスとインタビュアーを務めるアンジーのコンビで運営している、ロケ地が決まったら最初に僕一人で下見を行い、多少わざとらしくても動画にメリハリを付けられるように動画の構成や演出に嗜好を凝らしていく。例えば不気味な落書きのあるエリアを事前に確認したり、不気味な人形をルートに配置していく、一方のアンジーは全く何が起こるのか?どんな場所なのか?わからない状態でインタビュアーとして撮影に参加する。
アンジーの新鮮なリアクションと視聴者を飽きさせない工夫、そして異国の地での独特な風景がこの動画のウリだ
もちろん、動画の視聴者はそんな僕の工夫があることはわかっている。
アンジーに至っては僕の工夫があるほうが『かえってスリリングで楽しい』、『まるで女優みたいと』言って喜んでいるくらいだ。
でもいざ撮影が始まるとアンジーは状況に入り込んで迫真の演技を始めてしまう。すごい集中力で毎回驚かされるよ。
視聴者もアンジーの演技を見ているうちに嘘だと分かっていても楽しんで動画を見ている
僕とアンジーは元々日本で働いていて知り合いになった、仕事終わりの趣味感覚で動画を撮影している。
今では日本でも英語圏でもチャンネルのファンがおり、この廃工場についてもファンからのyoutubeのコメントで情報を得て下見を行うことに決定した
今日は下見なのでアンジーはおらず、僕一人で工場地帯を巡回している
どんなルートが良いのか、演出に効果的なエリアはないか確認しているところだ
この工場地帯は稼働している工場もあれば、稼働していない工場もある
24時間稼働している工場もあれば、昼間だけ稼働している工場もある
稼働している工場もオートメーション化されこの工場地帯は静かで暗い、
この工場地帯が異様なのは稼働していない廃屋同然の工場と最新式の工場が隣り合っていることだ
工場地帯の外側からは一見、近未来的な工場群が並ぶが、工場地帯の中に入ってみると時折見せるアンバランスな廃工場の出現に驚かされる
これらの廃工場は最新式の工場や海外との価格競争に敗れ、価値を失い、取り壊すことすらままならなくなり、誰にも見向きもされずひっそりと朽ち果てているのだ
日本は戦後に急速に発展し、高度経済成長を迎えた、ここはその日本の急激な変化を支えた有数の工場地帯であったが
時は流れ、先の大不況の際には廃業を余儀なくされる工場がとりわけ多く行政も整理が全く追いついていない
そして、いまでも廃工場を探索すると行き場のなくなった工場主やその社員の亡骸が発見されるという噂があるらしい
僕は、そんな工場地帯に入りカメラを回している
おそらく大企業が管理しているであろう巨大な工場の間を縫うようにぽつぽつと存在する廃工場
今では廃屋のような工場?ではトタン塀が破れて使途不明の錆びついた機械が外から丸見えになっている
そんな廃工場の中をのぞき込んだり、通り過ぎたり、たまに入ってみたり、僕は探索を続けていた
(もしも、この謎のマシンが急に動き出したら、アンジーはきっととても驚くだろうなあ)
(ベニヤ板を持ってきて立て掛けておいて暗闇で倒せば、老朽化した扉が急に倒れたような演出になっていいかもしれない)
そんなことを考えていると、鈴虫の声に混ざって唸るような異音が聞こえてきた。