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珈琲アロマ 八重津店

作者: 葉山 灯

 11月の中頃に行く。未だに八重津地下街にあるこの店に真っ直ぐ辿り着いた事が無い。


 前回訪れたのが二、三年前だった気がする。それなのにふと思い出して行きたくなったのだから、ここはやはり惹きつける何かがあるのだろう。


 最初の感動が大きかったのもある。学生の頃、朝イチの電車に乗って東京に辿り着いて朝食が食べたいと思って見つけたのがここだった。


 三時間しか寝れず、頭痛が響く中、朧気に店に入る。階段を降りると木造のロッジに来たような錯覚に陥った。


 今はそうでもないと思うが当時は煙草の煙が辺りを包み、殺気立った会社員が黙々と珈琲を飲んでいる姿は中々サマになっていて、大人の領域に立ち入ったと内心興奮していた。


 店内は気怠げな調子のジャズがBGMで流れ、まだ朝早くもあって薄暗い雰囲気がその重苦しさも相まり映画で見た昭和の喫茶店はそこにあった。


 そこで食べたモーニングは珈琲に分厚いトースト、ジャムとバターと餡子が付いておまけに茹で卵があった。


 それは今も変わらない。金が無い学生だった私にそのトーストの分厚さは今まで食べたモーニングの記憶を塗り替える程の衝撃だった。


 ペリカンパンというらしい。有名なパン屋から卸しているのとか。他にも色んな場所でこのパンが頂ける。


 なのに私はこの店でしかこのパンを食べた事は無い。何故かは分からない。縁が無いのだろう。


 結局、この後の旅行はあまり良い思い出は無い。帰り道に溜息を吐きながら「ああ、あの店、美味かったなぁ」と電車の中で私は沈痛そうな面持ちで眼を閉じた。


 その思い出が蘇る。ここのパンは変わらず焼きたてで、珈琲もお代わりが出来てサービスも良いまま。


 12時までモーニングをやってる。値段も六百円。


 また行きたいものだ。願わくばいつまでも。


 珈琲が変わらず好きな理由が此処にあった。



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