第53話 伝説の古竜(1)
俺はまず、エリシスと意識を接続する。
パーティを組んでいるとはいえ、メンバーと念話のようなことができるのは……黒竜の力を借りているのかもしれない。
「それでエリシス、なんとか黒竜の動きは止められないのか?」
「それが……無理みたいです。さっきのドラゴンブレスも止められなかったし……」
「じゃあ、別の意思が黒竜を動かしているってことだな。他に何か分かることは?」
「多分、人間に強い恨みを抱いているようです。その原因はなにかわからないのですが」
「分かった。何か、気付いたことがあれば連絡してくれ。その意思とのコンタクトも行って欲しい」
「はい! ところで……その……」
エリシスが急にもじもじとし始める。
「私……ここだと裸みたいでして」
そういえば、エリシスの身に付けていたドレスが床に落ちていた。
贄にされたのは身体だけということなのだろう。
「ドレスは回収しておくよ」
「はい……お願いします」
エリシスの意思は自分自身の身体を認識できているのなら、分離だけできればいい。
次に俺は上空で戦っているキラナの様子を見上げる。
黒竜の注意を引く危険なことをしているはずだが、キラナの身体には幸い傷一つついていない。
しかし、黒竜のドラゴンブレスを多少食らっているように見えるが、その炎は、いや、お互いに攻撃は当たっているが、ダメージを受けていないようだ。
これは……?
俺の視線に気付いたのか、キラナが近くにやって来る。
「パパーっ! おかしいよ?」
「うん、怪我をしてないならそのまま続けてくれるか? 危なくなったらすぐ逃げるんだよ」
「うん! わかった!」
キラナはそう言って再び気を引こうと黒竜の目の前に飛んでいく。
黒竜は引き続き攻撃を続けるが、キラナは一切の傷を負わない。攻撃が命中しても、だ。
キラナはその異常さに気付いている。戦闘経験などないのに……キラナは賢い子だ。
彼女は判断を誤らないだろう。
そしてアヤメは、精霊召喚を始めている。キラナもアヤメに注視していていざとなれば守ってくれるだろう。
じきに、アヤメの召喚した精霊が攻撃に加わってくれる。
「じゃあ、行こうか」
「「ハイ!」」
俺とリリアとティアは、黒竜に向かって駆け出した。
どんどんと黒竜との距離を詰める。
崩れた館の瓦礫を避けつつ、最短距離で黒竜の足下に向かって走った。
リリアが状況を把握して伝えてくれる。
「意外と攻撃が来ませんね。フィーグさん」
「ああ。うまくキラナやアヤメが気を引いてくれているようだ」
見ると、黒竜の背後には無数の黒い影のようなものが複数現れている。
あれは……死霊? アンデッドがなぜここに?
しかし、その死霊もまた黒竜を攻撃しているように見えた。
「なんでしょう? アンデッド?」
リリアの発言にティアがその方向を見つめる。
「多分、あれは……大丈夫です。このまま進みましょう」
「あ、ああ……」
ティアって子はドルイドだったはずだ。死霊など呼べないはずなのに、どういうわけかその素性を知っているようだった。
俺は構えていた短剣のスキル【応答者】を発動しようとしてやめた。
嘘は付いていないようだし、一旦信用するしかない。
しばらく走ると、ついに黒竜の足元にたどり着いた。
「よし。これから接触するから、援護を頼む」
「はい!」
各自奮闘を始める中、リリアの護衛を受けながら俺はエリシスと意識を接続した。
「黒竜さん、黒竜さん。呼びかけに応えて下さい」
「…………許さん…………許さんぞ…………我が眷属を奪った人間を……」
エリシスと、竜の声が聞こえる。
「エリシス、状況はどうだ?」
「まだ、ダメです。人間に強い憎しみを抱いているようです」
そうか。この竜も失ったものが、奪われたものがあるのか。
どんなすれ違いがあったのか分からないが……だったら、俺がするべきことは……。
「説得を続けて欲しい。どうしてもダメそうなら教えてくれ」
「フィーグ様……はい!」
俺は周囲を確認する。皆、黒竜の気を引いてくれている。
おかげで、貴族たちは全員避難できたようだ。だが、複数人の騎士が黒竜に向け近づいてきているのが見えた。さっそく討伐隊を組んできたようだ。
急がないといけない。
「フィーグさん、黒竜からの攻撃が来ませんね」
「ああ。うまくキラナやアヤメ、そして風の大精霊が気を引いてくれているようだ」
俺が再びエリシスに接続しようとしたとき。ゴロゴロ……と雷が鳴るような音がした。これは……まさか……。
空を見上げるとドーンというもの凄い音と共に、キラナに黒い雷が落ちる。
スキル【勇者:雷召喚】 だ!
「あっきゃあああああっ!!」
「キラナッ!」
直撃を受けたキラナの悲鳴が聞こえた。すぐに【竜化】が解除され落下を始める。
俺は我を忘れキラナに向かって駆け出した。
間一髪のところで、キラナを抱き留める。キラナの顔は穏やかで、俺の身体に鼻を寄せてくる。
「うーん……むにゃむにゃ……パパぁ」
多少肌に煤が着いている部分があるが、キラナに大きな怪我は無さそうだ。気を失っている……というか眠っているのか?
ふう、と一息ついたその時、
「よぉ、フィーグ。久しぶりだな」
そこには、黒い瘴気を纏った男がいた。見覚えのある顔。口元は相変わらず歪んでいる。
「勇者アクファ……どうしてここに?」
「いやぁ、黒竜が現れたとかで討伐を命じられてな。尋問を抜けられて助かったよ。目障りな蠅がいたから雷を当ててみたが、お前と会えるとはな」
「キサマッ!」
俺は怒りに飲み込まれ目の前が真っ赤になる。抱いているキラナのスキルを無意識のうちに受け取る。
《スキル【竜化】を、【伝説の古竜】の属性を用いて魔改造します……成功しました。【竜化】は、【竜王化】に超進化しました》
【作者からのお願い】
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