第43話 竜種(3)
俺たちに向かってくるドラゴンの色は……。
「銀竜……だと?」
さっきは真下で影しか見えなかったが、今はその肌の色が分かる。月明かりに照らされ、美しく輝いている。
金属系色の肌を持つ竜は善竜と呼ばれていて、邪竜より強い。
最上位は金竜だ。その次に銀竜、赤銅竜と続く。
邪竜よりさらに珍しい存在で実在すら疑われていたのに……どうしてこんなところに?
しかし、このことは俺たちにとって運が良い。
善竜は少なくとも、いきなり襲ってきたり無意味な殺傷は行わないはずだ。
確かに、この状況で俺たちを攻撃するつもりなら、既に高速で接近しブレスなり爪でなぎ払われていただろう。
そうしないということは、交渉ができるかもしれない。
俺が足を止めると、リリアとエリシスも立ち止まった。
「フィーグさん! どうされました?」
「あ、ああ……ひょっとしたら、話が通じる相手かもしれない」
俺が立ち止まると、そのすぐそばに銀竜が着陸した。
ふわっと羽ばたき、少しフラつきながらも着地をする。
うん?
着陸がちょっと下手なのか?
胴体の大きさは、馬車より少し大きいくらいか、人が数人背中に乗れるくらいの大きさ。
羽を伸ばせば馬車を数台並べた幅になるだろう。
今まで俺が見てきた邪竜よりサイズが小さいうえに、全体に丸っこいので可愛いらしさもある。
これくらいの大きさだと、まだ幼年期と言っていいはず。
まだ若い竜など……本当に稀少ではないだろうか?
ん?
目を凝らすと、竜の背中に誰か乗っている。
見覚えがあるシルエットだ。
「お兄ちゃん! みつけたの!」
銀竜から飛び降りたのは、なんとアヤメだった。
魔法学院の制服を着ている。ブレザーにスカートがよく似合っている。
アヤメはそのまま俺に突撃してきて抱きついてきた。
「アヤメ、どうしてここに?」
「フレッドさんから、伝言があったの。それと帰る手段ないかもって言われて急いで来たの!」
「じゃあ……もしかして、あの銀竜は……?」
「うん、キラナなの! すごく頑張ったから、褒めてあげて!」
キラナは彼女の持つスキル【竜化】を使っていた。
竜化した状態だと、【次元飛翔】など他のスキルにボーナスがつき、強化されるようだ。
銀竜は姿を変えて人間の姿のキラナに戻っていた。
裸だが構わず俺に突撃してくる。
「パパぁ! キラナね、頑張ったよ! パパが使えるようにしてくれた【竜化】も練習したし、【次元飛翔】も練習してね、それでね……!」
嬉しそうにしゃべり出し、止まらないキラナ。
俺はしばらく彼女の話を聞いた。
一通り話して興奮が収まると、俺にぎゅっと抱きついてきた。
ああ、彼女を救えて良かったと思う。
「すごいな、キラナは」
俺は彼女の頭を撫でると、キラナはいつものように気持ちよさそうに目を細めた。
「でもな、キラナ……とりあえず服着ような」
「うん!」
一方のエリシスは——。
竜から少女の姿に戻ったキラナよりも気になったワードがあったようだ。
目を丸くして俺たちの様子を見つめている。
「今、フィーグ様をパパって……?」
☆☆☆☆☆☆
アヤメとキラナは、フレッドさんからの伝言で、昼頃からこっちに向かったそうだ。
キラナは疲れを見せていない。竜化とはすごいものだな、と感心する。
さっそく竜化したキラナに乗せて貰い、俺たちは王都まで飛ぶことにした。
「じゃあ、飛ぼうか?」
「うん、パパ!」
キラナは、竜化して俺以外の皆が背中に乗る。
俺はキラナと手を繋いだ。
キラナの竜化した手の甲は鱗に覆われていて、爪はまだ短い。手のひらは肉球があり可愛らしい。
「スキル【次元飛翔】起動!」
「きどう〜!」
俺の背中から光の羽が伸びる。
キラナと手を繋ぎ、飛び立った。
素晴らしい速度で暗闇を切り裂いて飛んでいく。
パンパンと俺たちの後ろから衝撃波が広がっていく。
「パパととんでいるよ! 一人よりはやい!」
俺が手を繋ぎサポートしていると。
《キラナの【次元飛翔】LVが10から22に上昇しました》
キラナがコツをつかみ、彼女のスキルレベルがどんどん上昇している。
「すごい、すごい!」
「ちょっ……背中に人乗せてるの忘れないようにね」
「うん!」
リリアたちは風を受けないように乗っているものの、目を回しているようだ。
俺がサポートした結果、ほぼ一時間程度で王都まで辿り着いたのだった。
きゃっ、きゃっと喜ぶキラナと共に、俺たちは王都の近郊に向かう。
小さいとは言え銀竜が王都に現れたら大変な騒ぎになるだろう。
見張りに見つからないように低空で飛行し、着陸。
「パパぁ、とてもたのしかった! もっと、上手にとべるようにがんばるね!」
「うん。また一緒に飛ぼうな」
「うん!」
リリアとアヤメは目を回してしまっていたが、エリシスは割と平気なようだ。
俺たちは王都近郊の宿を取る。
少し高級なところにして、俺だけ別の部屋にしようと思ったのだが……なぜか、みんなから責められ、同じ部屋に泊まることにされてしまった。
さて、いよいよエリシスを婚約破棄し追い出した、フェルトマン伯爵と対決だ。
今日はゆっくりと休もう。
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