第41話 竜種(1)
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落ち着いたエリシスは、俺たちに礼儀正しく頭を下げた。
「フィーグさん……。ありがとうございました。何より、聖女職にして頂いて……感謝しきれません」
「いや、エリシスの力だ。スキルの量、レベルとも聖女になってないほうがおかしい」
さて、スカウトの時間だ。
俺のパーティに加入してくれるといいけど、来てくれるだろうか?
「もしよかったら、エリシス、俺たちのパーティの一員にならないか?」
リリアもうん、と頷きながら後押しをしてくれた。
「【全体大回復】はすごいです。私からもお願いしたいです」
「エリシスは前衛と回復役を兼務できそうだ。もし君が探しているものがあるなら、俺たちも手伝うことができる」
エリシスは、両手のひらを胸の前で組み、瞳を潤ませて口を開いた。
さて……YESかNOか?
「……はい。わたくしも、是非フィーグさんとリリアさんとご一緒できればと思います」
迷った様子もなく、即決だった。
俺は拍子抜けをしてしまう。
「いいの? 誘っておいて何だけど、そんなにあっさり決めて。もう少し考えてもらってからでも構わないよ」
「はい。私は、必要として下さる方の傍にいたいと思っています。
ありのままを受け入れてくれる方の元に」
ありのままか。
最初はどうなるかと思ったけど、彼女は戦闘中、絶好のタイミングで全体回復魔法を行使していた。
むしろ前線にいる分、戦いの状況が把握できて、味方のピンチを把握できる、かもしれない。
「ありがとう、よろしくな」
俺が手を差し出すと、エリシスは握り返してくれた。
無骨な釘バットを持っている割に、しなやかで柔らかい手のひらをしていた。
「もし私がまた暴走したら、フィーグさんが治してくれるのですよね?」
「しょっちゅう暴走されても困るんだけど。最初会った時の口調というか暴言はヤバかった」
「あ、あれは本来の私の姿ではありません……たぶん」
エリシスは思い出したのか、顔を真っ赤に染め恥ずかしがっていた。
最初に会った時のアレは本当にスキル暴走の結果なのだろうか?
もしかして素では? 俺は疑ってしまう。すまん、エリシス。
エリシスは、俺を見上げて続ける。
「スキル以外のことも沢山の教えをフィーグさんは与えてくださったと思います。私にとって神のような存在です——」
な、何を言い出すんだ?
「——いえ、神以上の存在です。是非、お仕えさせていただければ」
「神って……いや、俺はただのスキル整備士だ」
エリシスは、短くなった釘バットを大事そうに抱えつつ、俺にひざまずき、祈りを捧げるような仕草をした。
は、恥ずかしいからやめてくれ。
「と、とりあえず、その釘バットというか釘棍棒の修理は必要だな。ダンジョンの下層に降りたら敵が強くなるだろうし」
俺は、そう言ってダンジョンの奥を見つめた。下に降りる階段があり、壁には竜のエンブレムが描かれている。
どこかで見たようなエンブレムだ。どこだっけ?
思い出した。あの竜は……アヤメが普段着ている魔法学園の制服に付いていたものだ。
確かあの制服にも竜の紋章があったはず。この世界の創世神話に出てくる、伝説の竜とされているものだ。
でも、なぜ、こんなところに魔法学園の紋章が?
うーむ、帰ったらアヤメに聞いてみるか。何か知っているのかも。
どっちにしても、一旦ダンジョンの探索は後回しだ。
武器も直さないといけないし、そもそもエリシスには先に解決したい問題がある。
「そうそう、フェルトマン伯爵のことだけど……」
その名前を出すと、エリシスの表情が曇った。
フェルトマン伯爵の依頼を受けている以上、キチンと決着を付ける必要があるだろう。
パーティに心置きなく加入して貰うために。
「フェルトマン伯爵が……私を探しているのですか?」
「ああ。会いたいそうだ」
「そうですか……彼は、私をいらないと……婚約破棄をしてまで捨てたのです。治癒の能力が『足りない』と。彼の経営する診療所で役に立たないと言われました」
「なんだって? じゃあ君はそのためにこのダンジョンへ来たのか?」
「はい。どうしてもあの男を見返してやりたくて。スキルの強化を行いたいと思って」
エリシスが簡単に事情を説明してくれた。
——彼女は貴族の出身で爵位は男爵。彼女の意思と関係なく、家の事情により、フェルトマン伯爵との婚約が決まったのだそうだ。
少し後に、両親が事故で他界したという。
エリシスの両親が経営していた診療所はフェルトマン伯爵が引き継ぐことになった。
その診療所にエリシスが通い、患者の治療をしていた。
しかしフェルトマン伯爵は一方的に婚約を破棄。
『役立たずなお前ではなく、聖女を妻に迎える。診療所は彼女に任せるので、お前は用なしだ。出ていけ!』
突然、そんなことを言われたのだという。
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