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第38話 証拠(1)——side勇者アクファ

「うがああああっ! クソがぁ!」



 役に立たないパーティメンバーに悪態をつきながら、俺様は【勇者:剣聖】スキルを多重に起動させる。

 圧倒的な発動スキルの多さにより、オーガロードに切りつける。


 数度切りつけ、動かなくなったことを確認し、俺は戦闘の終わりを実感した。



「はぁっ、はぁっ」



 パーティメンバーはみな座り込み、休憩を取り始めているのを見て俺様はイラつく。


 たったこれしきのことで、息の上がりも早い。

 フィーグがいた頃は、もう少しマシだったはずなのに。


 フィーグを追放し、女魔法使いを入れ華やかになった。

 しかし、戦闘においては、苦戦することが多くなった。


 たかだかオーガロードくらいで何をこんなに消耗しているのだ?

 戦闘のたびに休憩などされたら、鬱憤だって溜まるものだ。



「くそ……」



 とっととこんなところ出て行きたい。

 今日の任務は、このダンジョンに沸いたという数百匹のオーガ群の殲滅だ。


最近調子が悪いと言われ、腕試し的なクエストを王家側が依頼してきやがった。

 こんなもの、王家が頼まなければ決して受注しないクエストだ。


 俺様はもっと、報酬のいい危険なクエストを受注したい。 

 ぼやいても仕方ないので、意識をクエストに向ける。


 おそらく、このオーガロードがボスであり、こいつを倒せば任務完了のハズだ。


 俺様はダンジョンから出るために歩き始める。

 その瞬間、背後から悲鳴が上がった。



「な!? なんだ!?」


 

 慌てて振り返ると、そこには先ほど倒したはずのオーガロードの姿があった。

 いや、確かに倒したはずだ。


 俺様を、睨みつけるようなパーティのメンバーたち。

 本当にトドメを刺したの? 彼女らの目はそう訴えているようだ。



 なぜそんな目で見るんだ?



「お前ら……あとで覚えてろよ?」



 俺は再び、オーガロードに対峙する。

 そして、再度の戦闘が始まった。


 おかしい……。

 明らかにおかしい……。


 さっきと同じ手順で攻撃を加えているにもかかわらず、ダメージを与えていない気がする。

 そもそも本当に俺様のスキルは起動しているのか?



「あなた、少し休んだ方が良いんじゃないかしら?」



 聖女職のデリラが、俺の方を心配そうに見つめる。

 他と違い、コイツだけは俺の味方だ。



「フンッ、これしき」



 俺は再度【勇者:剣聖】を多重起動してオーガロードに切りつけた。

 何度か切りつけるうちに動かなくなるオーガロード。



「そういえば、オーガ系は回復力がすごいから、首を切り落とすなどして完全に息の根を止めないと、何度も復活するってフィーグさんが言ってましたね」



 魔術師サラが言う。コイツは中立的な態度を取っているが、どちらかと言うと反抗的だ。


 だいたいフィーグがそんなこと言ったか?

 あんなボンクラがそんな知識——。


 突然、俺様は強烈な頭痛に苛まれる。

 フィーグの顔が頭の中に浮かぶ。

 以前の戦いで、フィーグが言っていたことを思い出す。



「クソ、追放されてまで俺様を苦しめるのか……フィーグめ」


「勇者アクファ、いったいどうした?」



 聖女デリラが問いかけてくる。

 だが俺様の頭は重く、返事すらマトモにできない。



「今日はダメね。聖女:防衛聖域(ドーム)スキル起動! みんな、撤退の準備を」


「はいッ!」



 俺様は、聖女デリラに引きずられるようにして、その場を後にしたのだった。



 ☆☆☆☆☆☆



 あの後、なんとか地上へ戻った俺たちは、王都に戻り一旦解散した。

 俺様は、報告のために王都ギルマス、デーモの元に向かう。


 本来なら、こんな雑用は俺様のすることではない。

 それでも俺が行く理由は、任務失敗の隠蔽が一つ。

 もう一つは、デーモに冒険者の女を見繕って貰い抱くためだ。


 しかし、再び頭痛と共に、記憶が蘇る。


 ……いや、いや、違うぞ。

 ギルマス・デーモは解任されたのだ。俺様はいったい、何をしようとしていた?


 続けて、別の記憶が蘇る。

 王都の地下にある牢獄での記憶。



「【勇者:祝福ブレス】スキル、起動」


「…………!! ぐぅ……」



 ……そうだ。

 俺様はあいつを手にかけた……のだ。

 王都ギルマス・デーモはもうこの世界にはいない。


 だったら……次のデーモの代わりを用意するだけだ。

 俺の口元が緩むのを抑えられない。思わずニヤリとしてしまう。


 さっきまで最悪な気分だったが、今は晴れ晴れとした良い気分だ。



「アハハハハハ!」



 俺は高笑いを上げながら、王都冒険者ギルドに向かう。

 周囲の者が俺を妙な目つきで見つめてくる。だが、気にならない。



 さて、王都ギルドの建物にやってきた俺様だが……。


 妙だ。

 王都ギルドの門前に衛兵がいて、立ち入る人物をチェックしている。



「あら、あなた……勇者アクファ殿ですね」



 目の前に現れたのは……なかなかいい女だ。騎士のようだが、何者だ?



「そうだが。君は?」


「失礼しました。私は、騎士エリゼ・ディーナと申します。先日、地下牢にいたはずの元ギルマス・デーモが死体になって発見された件について、少しお話を聞かせていただきたいのですが」



 コイツ……。俺様に物怖じしないとは良い度胸だ。

 しっかり後で()()しないとな。

 だいたい、俺様がアイツを殺した証拠はどこにもないはずだ。



「ふん、構わないよ。誰が殺したのかなあ? まさか俺様を疑ってはいないよなぁ?」



 俺様はおもわずニヤついてしまう。

 何か因縁を付けて脅してしまえば……デーモのようにうまい駒にできるかもしれない。

 少し威嚇してみたが、さてどう出るのか楽しみだ。



「なるほど……これはしっかり()()()しなければならないようですね」



 騎士エリゼとやらは顔色一つ変えず、そう返してきたのだ。



「はぁっ?」



 バレることはあり得ないとは思うが……その迫力に、俺様の背筋に冷たいものが流れる。


【作者からのお願い】


この小説を読んで


「これ、バレてない?」


「続きが気になる!」


「この先どうなるの!?」


と少しでも思ったら、ブックマークや、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!


投稿・執筆のモチベーションがあがります。


まだ評価をされてない方も、★をいただけると嬉しいです。

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