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第37話 実戦初勝利

「ん、エリシスどうした?」


「うずうず……フィーグさん、あの……(わたくし)も加勢して良いでしょうか?」



 エリシスの右手には、折れて短くなった釘バットが握られていた。

 左手にはその片割れ。


 短くなったとは言え、見た目は凶悪だ。

 それを両手に装備している。両手の釘バット(ダブルヒャッハー)は、もうどう見ても聖女ではないぞ。


 エリシスは貴重な回復役なはずなんだけど、どうしてこうなった?



「回復魔法の起動もしないといけない」


「もちろんです! どちらも頑張りますわ!」


「そ、そうか? じゃあ、リリアの支援をたのむ」


 んんっ?

 エリシスの瞳がギラつきはじめた。



「くれぐれも、回復優先でお願いし——」


「おーほほほほほほほ!」



 俺の言葉をかき消し、両手の釘バットを天に掲げて突撃体制に入った。


 駆け出すエリシスが迷いなく、恐ろしいスピードで突撃する。

 狂気と正気の狭間で揺れ動いているように見えるが、多分正気だ。あれが素なのだ。


 リリアに助太刀(すけだち)するエリシスの姿は狂戦士そのものだ。

 エリシスが聖女? 本当に?


 俺が敵だったらビビっちゃうね。



《天啓状態のため、さらにスキルが進化します。【聖女:祝福(ブレス)】は、暴走状態の狂戦士(バーサーカー)状態と、広範囲魔法を用いて、【聖女:(トキ)】に魔改造されました》


 この突撃で、さらにスキルが魔改造されたようだ。



「加勢しますわよ! うららああぁ! 滅びなさいッ!」



 い、一応前みたいな暴言というかひゃっはーではなくて、多少はマシな言葉使いになっている。

 でも本質が全く変わってない……な。



「全軍、突撃!!! ですわっ!」



 っていうか、全員? 俺も?

 俺は後方で指揮やスキルの整備を行う役目だ。これを譲るわけにはいかない。


 エリシスのかけ声に、リリアや俺たちの体が仄かに光った。

 な、なんか力が湧いてきている!?



(トキ)により、パーティ全員の攻撃力が100%向上しました。

 防御力が100%向上しました。

 体力が回復しました。一定時間自動回復します。

 魔力が回復しました。一定時間自動回復します。

 士気が100%向上しました。


 ——士気が正常範囲を超えたため、狂瀾状態になりました。》



 強力な能力向上(バフ)だが、どうも行き過ぎだ。

 狂瀾状態。確かこれは狂気に近いが、少し違う。



「攻撃しますっ!! 大嫌いなオーガにだって負けませんッ! ——殲滅します!」



 リリアの様子がおかしい。あんなこと言う性格だったか? ……それとも本性?

 腕を大きく振りかぶり、オーガに剣を振っている。


 しかし、リリアが繰り出すのは無茶苦茶な攻撃に見えて、冷静に相手の動きを見据えたものだ。

 攻撃を避けつつ、剣を繰り出している。これが【剣聖】クラスの剣技か。


 エリシスは最初に見かけたときと比べて少し冷静に見える。

 一応、狙いを定めて釘バットを振るっているようだ。


 さて、俺なんだが、どうにも落ち着かない。



「うず……うず」



 どういうわけか、俺もいてもたってもいられなくなってきた。

 これが狂瀾状態なのか?

 意識を正常に守ったまま、戦闘意欲が高まる。



「ぬおおおおおおお! 俺にも獲物を残すんだっ! 突撃ッ!」



 俺はエンチャント:【回答者(アンサラー)】を用いて短剣を投げた。

 短剣はオーガの目に突き刺さり、手元に戻ってくる。



「グアアアアァァァッ!」



 戻って来た短剣をシュタッと受け取り、さらに連続して投げる。

 普段の俺はこんなことしない。しかし、今はとにかく、戦闘をしたい。敵を蹴散らしたい。


 俺たちの様子に、冷や汗を流しているオーガ。なんか引いている。

 後方で様子を窺っていた数匹のオーガがなにやらザワザワしている。


 先頭のオーガは反撃してくる。しかし、攻撃を食らってもエリシスも、リリアも、そして俺も皆、ビクともしない。

 オーガクラスであれば俺たちは一方的な展開に持ち込めるようだ。



「人間……エルフ……怖ッ」



 背を向けて逃げ出すオーガたち。

 既に一体ずつ倒していたリリアとエリシスがオーガの群を追う。



「敵が撤退を始めましたわ。追撃、そして殲滅しますわよっ!」



 先頭に立ったエリシスが叫ぶ。

 本来は一旦立ち止まり、状況を確認、体勢を立て直して進撃した方が良さそうだが……俺たちを止める物は何も無い。誰もいない。ツッコミ役がいない。

 俺も勢いに任せ、二人の後ろを追った。




 どどどっどどどどどどっ。



 砂埃をあげてダンジョンの奥に向かっていく二つの集団。


 オーガの群とテンションの高い人間+エルフのパーティ。

 集団は第二階層の一番奥に到達する。



「ナ、何ダアレハ……」



 ついに、オーガの巣があるエリアに入った。

 さまざまなガラクタがあり、そして恐らくボスであろうオーガロードが現れた。

 しかし……何が起きたのか把握する前に襲いかかる。


 逃げ場を失ったオーガたちに、リリアとエリシス、そして俺が次々と斬りかかる。

 全員が前衛だ。


 もう無茶苦茶だが、この勢いは止まらない。

 瞳をギラつかせ、口元に残忍な笑みを浮かべ歓喜に身を任せる。


 そして、俺たちは獲物を前に目を細めるのだ。



「「「グヘヘ」」」



 もう、どちらが魔物なのか分からない。

 物騒な声をあげて、俺たちは哀れな敵に襲いかかった。



復讐者(フラガラッハ)発動!」


「グアッ!?」


 リリアは、バフと【能力付与(エンチャント)】がかかった剣を使い、オーガロードを細切れにする。

 オーガロードは、何が起きたのか知る前に、倒されてしまった。


 残ったオーガは敗走を始める。しかし、それを見逃すエリシスやリリアではなく。

 結局なすすべもなく、オーガたちは全滅したのだった。



《戦闘終了につき、(トキ)の効果が消滅しました》



 戦闘が終わり一息つく。

 狂瀾状態といえど意識は失っておらず、むしろハッキリしていた。

 全員、正気を保ったまま戦っていたのだ。


 血のしたたる釘バットを見下ろし、エリシスがつぶやく。



「はっ。私ったら……いったい?」



 いや、エリシス。君も正気だったよね?


 リリアは肩で息をしながらも……少し満足そうにしている。

 嫌いなオーガを倒したからだろうか。

 彼女は横たわるオーガの群に顔をしかめつつ、剣の汚れを落とし始めた。


 皆、少し疲れているけど嬉しそうだ。


 予想外の展開があったたものの、問題無く対応ができた。

 このパーティ構成は……検討の余地があるものの、なかなか良さそうな感じだ。




「私たち、勝ちましたわッ!」



 エリシスが高々と釘バットを掲げている。

 つられて、リリアも「おー」とか言っている。

 ……こ、これでいいのだろうか?


 ともあれ、俺の新パーティ初実戦は、圧倒的な勝利で終えたのだった!




【作者からのお願い】


この小説を読んで


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「続きが気になる!」


「どっちが魔物なんだか……!?」


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