第33話 令嬢の行方
装備屋レベッカのところでエンチャント付きの武器や防具を揃え、リリアと晩ご飯の買い物をして家に戻った。
「ただいまー」
「お兄ちゃんお帰り!」
「お帰り、パパぁ!」
妹のアヤメとキラナが俺に向けてタックルをしてくる。
アヤメはともかく、小さいはずなのにキラナのタックルは強烈だ。
さすが、竜人族。
「お風呂にする? ご飯にする? それともキラナとあそぶ?」
「ご飯は、まだなんだろう?」
「うん!」
キラナは屈託の無い笑顔で応えた。
誰だ? キラナに変な言葉使い教えているのは。
神殿で会う人物が怪しそうだが……まあいいか。
「今日はアヤメが当番か? 少し遅いし手伝うよ、晩ご飯作るの」
「お兄ちゃんありがとう! お願いね」
「じゃ、じゃあ私もお手伝いしましてもよくってよ?」
ツンデレ口調を思い出したかのようにリリアが言い、
「私もつくるー!」
キラナも続いた。
そんなこんなで、楽しく料理を作りながらつまみ食いをして……満足して作った料理に舌鼓を打ったのだった。
そういえばキラナは食べなくても良いけど、食べてもいいらしい。
竜がそうであるように、精霊と同じようにエネルギーは空気からでも得られる。そのため食事は必須ではないけど、食べてもそれを消化できる。
その辺りは、人間と変わらないらしい。
☆☆☆☆☆☆
それから数日後。
俺とリリアは目の下にクマを作った状態で冒険者ギルドに来ていた。
満面の笑顔をしたフレッドさんが、新たな依頼書を俺に渡してくる。
フレッドさん、なんだか顔がテカテカしてるな。
これ絶対、ギルドの収入で夜の街に出かけてるだろ?
「じゃあ、フィーグ、次の依頼よろしく〜」
「ちょっ……フレッドさん、人使い荒すぎでしょ。ブラックギルドじゃないですか」
最近、俺を名指する依頼が増えていた。
依頼主は洗濯職人や家具職人、農家や建築職人、兵士など。
ほぼ全てがスキルの異常だったので、問題無く片付けることが出来る。
レベッカの所みたいに、リリアが問題の解決をすることもあった。
依頼の報酬はもちろんお金なのだが……それだけではなく、整備されたスキルで作ったお礼の品を受け取ってくれと言われることも多い。
おかげで俺の家には、人をダメにするソファや、人をダメにする布団、
人をダメにするコタツとかいう暖房器具などが差し入れされている。
さらに、建築業を営んでる依頼人によって、リフォームされ、リリアの一人部屋が増設された。
アヤメの学費を十分に支払えるだけの収入を得たし、依頼人から食事に誘ってもらったり食材を貰うことも増え、食べることにも苦労はしなくなっていた。
とはいえ。
あまりの仕事の多さにリリアも抗議の声を上げる。
「私も手伝ってはいますが、フィーグさん昼の仕事でクタクタになって、
最近夜、元気ないんですよ」
「夜、ねえ?」
「フレッドさん、そういう目で俺たちを見るのやめてもらっていいですか?」
「へいへい。だいたい、断ってくれても良いって言ってるんだけど全部受けてくれてるのはフィーグの方だぜ? 適当に断ってくれたら一気にホワイトギルドだ」
「うーん。断れない……この街のことなら……小さい頃から世話になったし」
「まあ、でもその様子だとちょっと無理させたみたいだな。依頼の募集も含め考えて見るよ。
だがこの依頼はフィーグ、お前が求めていたクエストかも知れないぜ?」
フレッドさんはウインクをして俺たちにクエスト依頼書を見せてくれた。
『依頼主 :王都 フェルトマン伯爵
依頼内容:行方不明の元婚約者、エリシス・ブラントを探して欲しい。
発見したら連絡を入れること。
直接彼女と話をしたい。
報酬 :十万ゴールド』
「へえ、王都のクエストも連絡があるんですね」
「ああ。こっちに回さないバカがいなくなったからな。風通しが良くなってやりやすいよ」
「で、これがどうして俺が求めているクエストなんですか?」
「このエリシスっていう令嬢だが、強力な神官スキルが使えるらしい。でも、それがどうも、最近になってうまくいかなくなったようだ」
そう言ってフレッドさんはもう一枚、俺にクエスト用紙を渡してきた。
『依頼主 :
エリシス・ブラント
依頼内容:
スキルの整備ができるものがこの街にいると聞く。
わたくしのスキルを整備して欲しい。
キルスダンジョンにいるので、可能なら会いに来て欲しい。
私の探しているものが見つかったら帰るので、街で待っていてもいい。
報酬 :千ゴールド』
「この人——」
「ああ。貴族が探しているのはこのエリシスという女性だ」
なるほど。
上手くすれば二つのクエストをこなせる。
「このエリシスっていうお嬢さんだが、ダンジョンに一人で行くくらいの猛者だ。
もっとも冒険者としての登録はなく、教会の関係だから噂しか分からん。
一人だと危ないこともあるだろう。
フィーグも、こんな回復役がパーティにいてくれたら心強くないか?」
確かに回復系の冒険者が俺とリリアのパーティに欲しいと思っていた。
これから先、きっと必要になるはずだ。
でも……名前に見覚えがある。この前すれ違った、釘バットを持った神官じゃないか?
うーん。若干不安はあるけど、とりあえず会って話してから考えてみよう。
口調はとても落ち着いた感じだったけど……釘バット……。
いや、いいんだけど、あんな形の武器持って入ったら、すぐ神官兵に取り囲まれそうだ。
「それとな、フィーグ、伯爵はどうやら訳ありみたいだから気をつけて欲しい」
「分かりました。ところで、キルスダンジョンってどこにあるんですか?」
「フィーグさん、それは私が……知っています。私も一緒に行っていいですよね?
道案内もできますし!」
リリアは、いつもの上目づかいで俺を見上げた。
「もちろん、リリアも一緒に来て欲しい。
せっかくパーティを組んだんだから」
「はい!」
フレッドさんは意気投合する俺たちを見て「いいなぁ。オレも戦いたい」とつぶやく。
続けて、フレッドさんは真剣な顔をして言う。
「フィーグ、キルスダンジョンの言い伝え知っているか?」
「いいえ」
「そうか。
多分、エリシス嬢もそれが目当てだと思うが、こういう言い伝えがある」
もったいぶってフレッドさんが続け……途中からリリアも加わる。
『——キルスダンジョンの最終守護者を倒した者は、所持する全スキルを強化できる。その上新たなスキルの取得も出来るだろう』
リリアとフレッドさんが、一字一句違わない「言い伝え」を口にした。
「スキルの強化と取得……それ本当ですか?」
「どうだろうな?
噂では、スキルは【勇者】という話もあるが、本当かどうかは分からない。
まだ誰もこのダンジョンを攻略できていない。凄いご褒美があるのに、とても不人気なダンジョンだ。
どうも、このダンジョン、立ち入った冒険者のスキルが不調になることが多いそうだ」
「【勇者】?
それも気になるけど……。
スキルの不調が暴走によるものなら、俺がいるパーティなら突破できる——?」
そう俺が言ったとき、ぱっと明るい表情をするリリア。
リリアの瞳が潤んでいる。
「ぜひ……ぜひ、行きましょう、フィーグさん!!」
「あ、ああ。やけにリリア、行きたそうだな。まあ、いいか。まずエリシス……彼女に会ってみよう」
俺たちは、キルスダンジョンに向かうことにした。
でも正直、もし危険なら、エリシスを見つけるのみにしよう。最奥のボスは諦めても良いんじゃないか?
俺はそう考えていた。