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第30話 幼馴染みの装備屋(5)


 翌日の昼過ぎ、新しい装備を早く見たいと待ちきれなかった俺は、レベッカの装備屋に向かった。

 工房の方にレベッカと出かけると、じいさんが出迎えてくれる。


「おお。フィーグ、来たか……魔改造してもらったスキルだが、コイツはすごいな

 【能力付与(エンチャント)】だぞ! 【能力付与(エンチャント)】!

 腕が鳴ってしょうがないわ!」


「昨日からずっとこんな調子なのよね。もう何回もエンチャントォ!! って、言ってるの」



 呆れた様子のレベッカだけど、口元がニヤけている。

 彼女の心配事がなくなったのだろう。昨日までと違い、とても晴れやかな笑顔だ。


 幼いときの屈託のない、俺が好きな笑顔だ。



 それにしてもさぁ。

 じいさん……たった一晩のうちに印象が変わってないか?

 なんか、筋肉がもりっとしていて、身体が一回り大きくなったような。

 十歳くらい若返って顔つきもザ・職人て感じだ。


 ずっと金属を打ち続けているのか、煤まみれになりながらも、とても元気そう。



「それで、装備は……?」


「フィーグ、すまんな。つい興に乗ってしまってな。

 まだできてないんだ。また明日にでも来てくれんか?」


「俺も手伝います」



《【特殊能力付与(エンチャント)製錬】 LV99 起動》


 昨日じいさんに上書きしたスキルが残っていたので試行(テスト)で発動する。



「うん? フィーグに鍛冶ができるわけがないだろう?」



 俺は予備の道具を見つけ、作業を始めた。

 もう何年もしていたかのように、思い通りに武器を鍛え始める。

 爺さんが目を丸くしつつも、厳しい目つきになり俺の隣に並んだ。



「クソッ。ワシよりも上手に工具を扱いよるか。負けてられんな」



 じいさんは俺と張り合うように作業を始めた。

 こうして、俺たちは二人で競うように装備の精錬を進めたのだった。



 しばらくして。

 俺たちは汗だくになりながら、一通りの武器の精錬を完了させた。


 リリアの剣だが、溶かして身体に悪い物質は取り除いている。

 形状は前より細身にして、振り回しやすいようにした。


 そして能力付与(エンチャント)だ。

 エンチャントについては【魔改造】と同じように狙って特定の能力を付与することはできない。


 完成した後で鑑定することで、どんな能力が宿ったのかようやく分かるのだ。

 ただし、これから装備する者が望むものが付与されることが多いという。



能力付与(エンチャント)って、まるでガチャみたいだね。んーっと……これはSSRエンチャントね!」



 ガチャ? SSR?

 レベッカに話を聞いたところ、魔法を使ったゲームがあるそうで、その中での用語らしい。



『武器名:ハンティングソード

 エンチャント:スキル【報復者(フラガラッハ)】1戦闘に1回使用可能』



 【報復者(フラガラッハ)】とは、あらゆるものを切り裂く能力らしい。 なかなか強力なエンチャントが付与されている。

 例え鎧だろうと岩だろうと空間ごと切り裂くらしい。

 リリアらしくない、物騒なスキル名だな。


 次は俺の武器だ。



「これはSRエンチャントかな?」



 SR……少し落ちるってことか。

 


『武器名:短剣(ダガー)

 エンチャント:スキル【応答者(アンサラー)】常時起動』



 このエンチャントは、短剣を投げると敵に突き刺さりダメージを与えた後、自動的に手元に戻ってくる能力だ。

 無限に短剣を持っているような感じだな。

 もっとも、短剣によるダメージは急所に当たらない限りは大したことはないのだが。


 最後にリリアの鎧だが、レベッカからの提案を受けることにした。

 昨日、工房を出る前に、実はこんなやり取りがあったのだ——。



「実は、在庫なんだけど、リリアさんに合いそうな鎧があるの。

 今の金属鎧(プレートメイル)じゃなくて、皮鎧(レザーアーマー)ではあるのだけど——」


「防御力は落ちるけど、その分身軽にはなれそうだね。

 剣聖のスキルもあるし……敵の攻撃を避けられるならその方がいいのかも?」


「はい。私もそう思います」



 その鎧を見て、爺さんはやけに力が入っていた。



「この()()は年長者だからな……儂も本気でやらんとな」



 まあ、口ではそう言っているが、こと装備の精錬に関しては常に本気で取り組んでいる。

 正直、カッコいいと思う。


 ということで出来上がったのは……。



「これは可愛さSSR、

 エンチャントはRだねー」



 お、おう……。Rってっことは、普通よりちょっとだけ良い感じかな?



『防具名:オシャレな装飾付きレザーアーマー

 エンチャント:【探索者(サーチャー)】:一日一回使用可能』



 これはモノ探しの能力のようだ。

 戦闘自体には役に立たない能力だからRということなのかな?

 リリアが早速試着する。今日はかわいい服ではなく、身軽な格好で、腕に包帯を巻いている。



「おじいさん……すごく軽くて動きやすいです!」


「リリアさん……似合うし可愛い。URだわ!」



 UR? 確かにリリアによく似合っているし動きやすそうだ。

 レベッカは上機嫌で、大当たりと喜んでいる。


 爺さんは「ワシより年長者におじいさん呼ばわりされてもな——」と不満げだが、顔はしっかりデレていやがった。

 なんだかんだ、自分の仕事が褒められて嬉しそうだ。


 俺たちは大満足の装備を揃えることができた。

 二人に感謝しつつ、店を後にする。

 これで、本格的にパーティとして一歩を踏み出せる。



 ☆☆☆☆☆☆



 ——レベッカの店は次第に客足が戻るようになる。

 徐々に材料が集まりはじめ、客も戻っていった。


 じいさんも、まだまだこれからだと、160歳になるまでは鍛冶を続けるつもりだと鼻息を荒くしているそうだ。

 確かに今のじいさんなら、そんくらいやりそうだな……。



 後日、レベッカの装備屋を訪ねた時のこと。



「フィーグっ!!」



 レベッカは俺の顔を見るとすぐに抱きついてきた。

 あ、あの、レベッカさん? もう子供の頃と違うんで色々当たってるんですけど。


 いや、もしかしてこれ当ててんのよってやつ?

 俺の気も知らないで、レベッカは何事もないように俺に言う。 



「おじいちゃんがいつでも武器のことで困ったら来てくれって言ってたわ!

 本当にありがとう。おじいちゃん信じられないくらい元気になって——フィーグのおかげね」


「いや、元々レベッカやじいさんの頑張りのおかげだよ」


「そうかな? フィーグってさ、いつもそういう風に言うね……そこが好きなんだけど……」


「えっ?」


「ううん、何でもない。それで……店もこんなに繁盛して……あのね」



 もじもじしていたレベッカが、意を決したように話し始める。



「あのね、今すぐじゃなくても……フィーグ、落ち着いたら店の後継者になってくれないかっておじいちゃんが言うの。

 前一緒に武器を作ったとき、楽しかったみたいで……私も賛成だし、どうかな?」


「えっ、継ぐ? 俺が?」


「うん……どう?」



 顔を赤く染めて俺にさらに胸をくっつけてくるレベッカ。



「と、とりあず、考えさせて?」


「うん。ゆっくりで良いからね」



 その時、レベッカを呼ぶ声が聞こえた。



「レベッカさん、この武器なんだが……」


「あっ、戻らなきゃ。フィーグ、考えておいてね!」



 装備屋のお客さんらしい。店の中は、沢山の人がいて繁盛しているようだ。

 お客さんに呼ばれて、仕事に戻っていくレベッカを見送って俺は考え始める。


 うーん、まだまだピンとこないな。

 冒険者を引退した後ならあり得るのかな……?


 随分先のことだけど追々考えていくことにしよう。



 ☆☆☆☆☆☆



 ——それから。

 レベッカの装備屋の噂をあちこちで聞くことになる。


 安いものはそれなりに、高価な物は値段以上の性能を発揮する、あらゆる冒険者に最適なお店。

 女性向け可愛い装備品を売るオシャレなお店。


 虹色の鑑定眼をもつ、美人の店員がいるお店。

 依頼者の望みを反映した特殊能力付与(エンチャント)を行う、ちょっと頑固な装備職人のいるお店。


 悪質な転売商品が市場を席巻したときも、苦境に陥っても、質の悪いものに決して手を出さなかった誠実なお店……。


 装備にこだわりがある者は口を揃えて言う。



「じゃあ、とりあえず、レベッカの装備屋に行っとけば間違いないさ」



 噂が噂を呼び、レベッカの装備屋は客が途絶えない。

 やがて王都に支店を出すほどになり、王国随一の繁盛を見せる装備屋となっていくのだった——。


【作者からのお願い】


この小説を読んで


「よかったなぁ」


「続きが気になる!」


「この先どうなるの!?」


と少しでも思ったら、ブックマークや、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!

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