第29話 幼馴染みの装備屋(4)
俺が驚いたリリアの状態とは……。
『名前:リリア
状態スキル:
身体スキル詳細:
年齢 160歳
身長 154センチ
体重 15キロ
BWH 83:57:74』
体重欄に目が釘付けになる。なんだこの数字……。軽すぎないか?
確かにエルフは、雪の上を歩いても沈まないとかおとぎ話であったような気がする。
そうか、あの軽い身のこなしはこれか。
それはともかく、年齢が160歳。
予想通りとは思ったけど、リリアは見た目も中身も16歳くらいにしか感じられない。そのだいたい十倍だ。
「ひゃひゃひゃ、百六十歳??」
爺さんが目を丸くしてぶつぶつ言っている。
「なあ、じいさん、年長者の話を聞くんだろう? じいさんが言ってたよな?」
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬぬ。
こんな子供が……歳上……?
納得できん……百六十……歳?」
いまだに信じられない様子だ。
爺さんの瞳が赤く光っている。鑑定スキルを何度も起動しているようだ。
リリアの性格などを知っている俺でさえ、百六十年も生きているとは思えない。
見た目もレベッカより少し幼く見えるくらいだ。
まあでも、あえて、エルフということは黙っておこう。
爺さんの変貌ぶりにリリアはちょこんと首をかしげている。
「あ、あの、どうかされましたか?」
じいさんはわなわなと震えながら、ついに観念したようだ。
「……わ、分かった。リリアさん、な、何でも言ってくれ……ください」
自分の二倍以上の年齢の人物を前に、じいさんは妙にしおらしくなってしまった。
腰を低くしている。
年齢マウントをカウンターで返された、そんな感じなのだろうか。
「は、はあ……じゃあ、フィーグさんの言うとおりにしていただければ」
「わ、分かりました」
すっかり小さく、丸くなったじいさん。
敬語まで使っていて、ちょっと面白い。
とはいえ、許可も得たことだし俺は遠慮なく爺さんに触れ、スキルを確認した。
《名前:マックス・ラウ
職種スキル:
鍛冶 LV89(警告! 暴走状態)
全鑑定 LV70
仮装備 LV49
身体スキル:
身体:正常
→詳細
生死:生
精神:
苛立ち
心配症》
やはりスキルが暴走している。
スキルが治れば精神状態も落ち着くかもしれない。
随分無理をしたのだろうか。
材料が不足していたというし、失敗できないというプレッシャーもあったのかも知れない。
しかし……最近暴走している人妙に多いな。本来、こんなに暴走なんかしないものなんだが……。
俺はスキルメンテを起動する。
ついでに魔改造も試してみよう。
《——スキル【鍛冶】の整備完了。
【鍛冶】は【心眼】のスキルと、マックス本人の資質により【特殊能力付与製錬】に魔改造されました》
爺さんの沈んでいた瞳に光が宿る。
そして自らのスキルの変化を感じ取り、顔に驚きとも歓喜とも取れるような表情が浮かぶ。
「ぬおおおおっ。フィ、フィーグ! ——これはなんぞ?」
「俺のスキル【魔改造】だよ。
今まで通り、武器や防具が作れるようになったと思うし、武器にスキルを付与できるようになったと思う」
「……な、なななななんと……ッ……特殊能力付与じゃとぉ?」
声がうわずっていた爺さんは、いてもたってもいられない様子で金槌を手に取り、金属を打ち始める。
いつものキン、キンという音が工房に響く。
これまでと比べて、力強く頼もしい音だ。
しばらく金属を打ち続け、うんうんと頷いている。その出来に納得したようだ。
振り返って、俺を見てまたうんうんと頷いている。
「フィーグ、さっきは声を荒げて悪かったな。
これは……大変な力だ。フィーグのおかげだ」
「いや、爺さんの力さ。そのスキルですごい武器を作って貰えると嬉しい」
「あぁ……ああ!
詫びの代わりというわけではないが、儂がいくらでも武器を鍛えてやる。
いつでも頼ってくれ!!」
「じゃあ、俺の短剣とリリアの武器防具を鍛え直してくれないかな?
溶かして作り替えてもいいけど、できそう?」
「フン、誰に言っている? もちろん!」
俺の愚問に、嬉しそうに答えるじいさん。
少し思案してじいさんは続ける。
「明日一日やって明後日にはできるだろう」
随分早くできるんだな。
俺たちの様子を見てレベッカにも笑顔が戻った。
「おじいちゃん! よかった……!
じゃあ、材料は私がなんとかするから。
フィーグにもらったスキルを使うわ!」
じいさんが俺に手を差し出してきた。瞳が潤んでいる。
「世話になったな、フィーグ。
しかし【能力付与製錬】とは。
このスキルを持つ鍛冶屋は、この国でも数人しかおらんという話だ。
儂も努力したが、なかなか身につかなくてなァ」
「じいさん、泣いてる?」
俺の言葉に、顔を背け涙を拭うじいさん。
「泣いてなんかないわい。雨だ」
「……そうだね」
もともとじいさんは頑張ってきたんだ。
魔改造の時に本人の資質とあったのはそういうことなのだろう。
振り返ったじいさんが俺を笑顔で見つめてくる。
「フィーグは凄い成長をしたな。
もう子供扱いはできんよなぁ」
「ううん、爺さんに比べたら俺なんかまだ子供だよ」
「なかなかモノを言うようになったな」
驚きつつも、じいさんは嬉しそうに口元を緩める。
じいさんの表情は柔らかく、同時に、力に溢れている。
「……で、フィーグよ。お前恋人はいるのか?
もしいないのなら、レベッカは馴染みじゃろう? どうだ?」
「な、何言っているの! おじいちゃん!」
レベッカが慌ててじいさんにツッコんだ。じいさん何言ってるんだ。
「ど、どうって言われても」
「レベッカは悪く思ってないようだし、儂はフィーグなら許すが——」
「おじいちゃん! もう……。
じゃ、じゃあフィーグ、武器は預かっておくから、また明日来てね!」
真っ赤な顔をしているレベッカだったが、憑きものが落ちたように明るい表情をしている。
そんなレベッカに俺たちは工房の外に追い出されてしまった。何だよ急に?
「なんかバタバタしちゃったな……。でも上手くいきそうだし、武器も新調できそうだ。リリア、帰ろうか?」
「あの、少しだけお買い物して帰りませんか?」
「うん、そうだね」
「はい!」
きっと、あの二人は良い装備を作ってくれる。すごく楽しみだ。
俺たちの背中から、じいさんを応援するレベッカの楽しそうな声と、軽快な金属音が賑やかに響いていた。
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