第28話 幼馴染みの装備屋(3)
いきなり馬鹿者と言われてしまった。
ずいぶん機嫌が悪いな。
出直した方がいいのか?
「さっきの女もそうだ。
なーにが、棍棒に釘を打ち付けてくれるだけでいいだ!
ワシを舐めやがって」
ぶつぶつとおじいさんが言う。
ん? 棍棒に釘……釘バットのことか?
でも、このじいさん、調子が悪いって言っていたような……?
実際、言葉の割に声に張りがない。
前はもっとデカい雷を落とされたような記憶がある。
「まあまあ、おじいちゃん。完成まで随分待っていただいたのだから——」
「うるさい!
いつもの儂なら……ぶつぶつ」
やっぱり。不調を感じているようだ。
レベッカの辛そうな表情は、じいさんの不調と、こうやってキツく当たってくることが原因なのだろう。
前はこんなにしょっちゅう怒鳴る人じゃなかった。
確かに、悪さをするとめっちゃ怒られたけど。
普段は愛想良く、俺とお茶を一緒に飲みつつも楽しそうに武器や防具の話をしてくれた。
伝説の聖剣や魔剣を作ろうとしていたとか、そういう楽しげな話だ。
頑固なところはあったけど気の良いじいさんだった。
それが……今は顔をしかめ、俺を睨みつけてくる。
敵意を周囲に向け、不要な対立を生んでいる。
「ふん、どいつもコイツも、馬鹿にしやがって。歳上の者に対する礼儀がなっとらん!」
近頃は品薄によって客も絶え、材料も思うように手に入らないという。
思うように製作ができない……そのストレスで性格も変わってしまったのだろうか?
もしかしたら、スキルの不調も影響している?
スキルの暴走が、性格も変えてしまう?
もしスキルの不調があるなら、俺が解決できるかもしれない。
俺は、じいさんに近づき、スキル整備をしようと触れようとした。
「まあまあ、色々言いたいことはあると思うけど。ちょっと触れさせて貰えればすぐ治って——」
「フィーグ!
たかだか17やそこらの小童が。儂に何するつもりだ!
ええい、離れろ!!
年長者は敬うもんだ!」
ダメだ。徹底的に嫌われている。
そういえば爺さんも鑑定スキルを持っていたっけ。
久しぶりなのに俺の年齢を正しく言ったのは、鑑定スキルのおかげかもしれない。
さてどうしようかと悩んでいると、レベッカが申し訳なさそうな表情で俺に話しかけてきた。
「フィーグ、ごめん。
今日は無理みたい。また機嫌の良いときに来てもらえないかしら」
彼女の言葉尻を捉え、またじいさんが怒鳴る。
「ワシが機嫌悪いだと?
黙れ黙れ黙れ! どいつもこいつも……勝手に儂を悪者にしやがって!!
年長者を敬うことも知らぬヤツが指図するな!」
「おじいちゃん——」
レベッカが涙目になってうつむく。
この様子ではいつ来ても同じだ。
俺は、レベッカの頭をぽんぽんと撫でる。
「上手く製作ができないのはスキルの不調かも知れない。一度、スキル診断してみたい」
「う、うん……でも」
レベッカは深く溜息をついた。
四六時中こんな様子なら、身内でも肉親でも、心が参ってしまうかも知れない。
ふと、振り返るとリリアも心配そうな面持ちだ。
だけど、リリアの顔を見て、ふと思いついたことがあった。
「はい? どうしました?」
俺は、ごにょごにょとリリアに耳打ちする。
するとリリアは目を丸くし、俺を見返してきた。
「えっ? 私が——おじいさんに?
命令するんですか?」
「うん」
「わ、私みたいな部外者でも平気でしょうか?
すごく機嫌悪いみたいだし、初対面ですし——」
「いいから。きっと大丈夫だよ」
おずおずとゆっくり爺さんに近づくリリア。
すぐに爺さんはリリアを睨み、厳しい言葉をぶつける。
「ふん、工房にそんなひらひらした格好して来やがって。これだから小娘は。
今すぐここを出ていけ!!」
「あの、おじいさん、私の話を聞いていただけませんか?」
「ふん、小娘が。
年長者を敬えと——」
爺さんがスキルを使ってリリアを鑑定しはじめる。
俺の計画通りになると思う。
念のため俺もリリアを診断してみよう。
『名前:リリア
状態スキル:
身体スキル詳細:
年齢 160歳……』
リリアを鑑定したじいさんは、ガタガタと身体が震えはじめ、目を丸くして慌てはじめた。
後ろに数歩後ずさる。
「ひゃひゃひゃ、160歳?? ワシより歳上だと?」
じいさんが年齢に驚いているが、俺もサイズを……ではなくて、リリアの診断の続きを確認して驚く。
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