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第26話 幼馴染みの装備屋(1)

 元気ではあるのだが……どこか無理しているように見える。


「うん、来てくれてありがとう……あのね……お店が……おじいちゃんが……」



 そう言って、レベッカは目を伏せた。

 赤く腫らした目にじわりと涙が浮かんでいる。



「おい……大丈夫か?」


「うん……来てくれてありがとう」



 そう言って、レベッカは目を伏せた。

 じわりと涙が浮かんでいる。


 依頼にもあったけど武器・防具職人のおじいさんのことで、かなり悩んでいるようだ。

 おじいさんが、武器や防具製作に失敗することがあるという。


 原因を調べて欲しいとギルドに依頼があり、フレッドさんが俺に押しつけてきた。まあ、依頼主は幼馴染みのレベッカだし別に良いんだけど。


 ただ、俺がこの依頼を受けたのは別に理由がある。


 リリアが装備している勇者(じるし)の武器防具のことだ。


 血が滲むほどの彼女の不調……スキルの暴走。

 きっと、リリアが装備している武器防具に問題があるのだとフレッドさんとも話していた。

 それを確定するために、鑑定して貰おうと思っている。


 涙を拭い、元気が無かったレベッカだが、話していると次第に以前の調子が戻って来た。



「もう、王都に行ったっきり全然顔を出さないんだから」


「ごめんごめん。足が遠のいてしまって——」


「まあ、いいけど。で、そっちの可愛らしいお嬢さんは……?」


「ああ、俺と一緒にパーティを組んでいるリリアだ」



 本当はエルフなんだけど。

 敢えて言う必要も無いだろう。



「ふうん、パーティねぇ。フィーグって、こういう子が好みなんだ?」


「何の話だよ?」



 レベッカは少し頬を膨らませつつ、俺の腕に絡みつくと抗議するように言った。

 子供の頃からの距離の近さだが、もうお互い成長してるんだし少しは気にして欲しい。


 リリアも頬を膨らませ始めている……?

 いつまでもレベッカのペースに付き合うわけにいかないので、本題を切り出す。



「まず、これを見て欲しいんだけど」



 リリアの身に付けていた武器と鎧をテーブルの上に並べると、途端にレベッカの目つきが変わった。

 商売柄、この手の装備が気になるのだろう。

 俺は簡単に経緯を説明する。


 リリアが身に付けたら、皮膚が腫れたり出血したこと。どうも、王都に大量に出回っているらしいこと。

 この街でも増えているかもしれないこと。



「んー。なるほどね。でも、これをリリアさんが?

 ウソでしょ?」


「間違いないよ。あんな細い腕や足……」


「ちょっと、フィーグ、どこ見ているの?」


「い、いや、間違い無く彼女は装備して使いこなしていた」



 こんなに華奢なのに、重い剣を振り回し、鎧を身につけて素早く動くリリア。

 俺もいまいち、目の前のリリアを見てもピンとこない。


 リリアは俺たちの視線にきょとんとしている。



「信じられないけど、フィーグの言うことならそうなんでしょうね。

 なるほどね、これが噂の勇者印の装備ね。前見た物とだいたい同じだけど……これ、駄目よ」


「ダメ?」


「うん。ダメダメ」



 レベッカは両手をひらひらとさせて、呆れたような口ぶりで言う。



「知っているのか?」


「少し前ね、比較的安い装備が何者かに買い占められたことがあったの。それで、品薄になってね」


「そうなのか。今も装備品は品薄なのか?」


「うん。だから、うちでも作ろうとしたんだけど、おじいちゃんも超調子が悪くて——新作が作れなくて。

 だから……あまりお客さんが来なくなってて」



 また、少し暗い顔になるレベッカ。

 だいたい、問題というのは同時に起こるものなんだな。



「そんなに影響があるのか」


「そうね。少し前に勇者印の装備品を置かないかと売り込んでくる人がいたけど断ったせいなの。価格の割に品質も良くなくて。そんなの売れないよ」



 レベッカがうつむいた。

 俺は子供の頃、いつもしていたように、レベッカの頭に撫でるように手を触れた。

 すると、レベッカはハッとしたような表情をして顔を上げる。



「も、もう……リリアさんもいるんだし恥ずかしいから」


「わ、わかった」



 言葉の割に、レベッカは俺の手を避けようとしないし、口元がふにゃっと緩んでいるぞ。


 でも、そうだよな。

 お互い成長したんだし。あんまりこういうことは控えないとな。


 俺とレベッカのやりとりを見ていたリリアから、焼け付くような視線を感じる。



「フィーグさん……むむむむ。親しそうに……いいなぁ」



 なんか強い圧を感じつつレベッカを見ると、鑑定のスキルを起動しようとしている。



「じゃあ、フィーグ、これ鑑定するね」


「ちょっとその前に、手を貸して?」



 俺はレベッカに触れ、スキルメンテを実行した。

 レベッカの口から吐息が漏れる。



「う、うん? ……んっ……あんっ……」



『名前:レベッカ・ラウ

 職種スキル:

 商人:鍛冶  LV10

 商人:鑑定  LV17(注意:暴走間近) 

 商人:仮装備 LV18』



 スキル【鑑定】が危ないので、メンテ(整備)しておこう。

 もしかしたら魔改造も出来るのかもしれない。試してみよう。



 《スキル【鑑定】を【スキルメンテ:診断】の「対象を調べる性質」を用いて魔改造した結果、スキル【心眼】に超進化しました》



 おおっ!

 俺のスキルも魔改造が行われたようだ。

 似たようなスキルだからかな?


 レベッカに【心眼】を上書きしつつ、俺の【診断】がどう変わったか見てみる。



「んっ……んっ!? ちょっ……待って……」



 上書きしたら突然、レベッカの頬が赤く染まり、息づかいが荒くなっている。

 大丈夫かな?



『名前:レベッカ

 戦闘スキル:(なし)


 特技スキル:

 商人:鍛冶  LV10

 商人:心眼  LV17 (絶好調)  ←NEW!!

 商人:仮装備 LV18』



「えっ? 【鑑定】が【心眼】になっている? スキルが超強くなってる……フィーグの力なの?」


「スキルが強化されたのは、レベッカが今まで頑張ってきたからだと思う。このお店をずっと手伝って来たんだろ?」


「う、うん……ありがとね」


「気にしないで。で、スキルはどう?」


「えっとね、もしかしてこのスキルって、前よりいろんなことが分かるのかな?

 この、勇者印の装備は私の勘だと、超ろくでもない物だけど、これ鑑定してみるね」



 レベッカはリリアの装備に目をやった。

 スキル【心眼】が起動される。


 レベッカが鑑定スキルを使うとき、瞳の色が変化する。

 俺は子供の頃から、その瞳がとても綺麗だと思っていた。


 普段は深い青色が、鮮やかな赤色に変化するんだ。


 しかし、今は……レベッカがスキル【心眼】を起動すると——彼女の瞳は、虹のような七色へ変化した。

 とても神秘的な、引き込まれるような虹色に。



「す、すごい。フィーグっ! このスキル【心眼】……素晴らしいわ!」



 レベッカがぱあっと笑顔になって言った。

 鑑定した装備の情報が、心眼にありありと映っているようだ。


【作者からのお願い】


この小説を読んで


「レベッカを鑑定したい」


「続きが気になる!」


「この先どうなるの!?」


と少しでも思ったら、ブックマークや、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!

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