第25話 釘バット
イアーグの街にある武器防具屋の一つ。レベッカの装備屋。
俺はここに、かわいい服を着たリリアと一緒にやってきた。
「ここですか?」
「うん。よいしょっと——」
「ごめんなさい……剣と鎧を持って貰って」
俺はリリアが身に付けていた剣と鎧を袋に入れて担いでいた。
リリアは自分が持つと言ったのだけど、今着ている可愛らしい服に合わないので俺が持つことにしたのだ。
っていうか重いなこれ。
リリアは軽々と身に付けていたし、剣を振り回していたのに。
さすが人間の上位種エルフって感じ?
装備屋に着いて入り口から入ろうとしたとき、店内から出てきた人と肩がぶつかる。
俺は袋を抱えたまま倒れそうになった。
「あっ……申し訳ありません。私のせいで——大丈夫ですか?」
「あ、はい」
「では、失礼します」
ちょこんと挨拶をして去って行く少女。
俺と違い、まったく動じない——感情の変化に乏しい少女に見えた。
一瞬触れたことで、俺のスキルが反応し勝手に診断を始めている。
《名前:エリシス・ブラント
職種スキル:
神官:傷回復 LV89
神官:防衛聖域 LV81
神官:不死者退転 LV34
神官:殴打 LV 51
神官:祝福 LV 71》
神官は聖女の下級職と言われている。
勇者パーティには聖女職がいた。
世界で数人という大変珍しい存在だ。
でも、レベルはこのエリシスって子の方が高い。
聖女は誰でもなれるわけではなく一定の資質が必要。
神官職もそうだが、神に祈りを捧げる関係上、信仰心が重要らしい。
立ち去っていく少女を俺とリリアが見つめる。
少女の所作はとても綺麗で、元は貴族なのかもしれない。
清楚で可憐。
神官着をまとう姿はそんな言葉がぴったりだ。
——ただ、一箇所を除いて。
「フィーグさん、先ほどの女性、変わった武器を持っていましたね?」
「うん……あれは木製の棍棒に釘を打ち付け、攻撃力を増した『釘バット』だ」
正式には、釘棍棒と言った方が通じる場合もあるが、どちらかというと、あれは釘バットと言った方がしっくりくる。
「釘バット?」
「うん。釘バット」
アレで殴られたら痛そうだな。
神官は血が出るという理由で刃物を武器に使わないと聞いている。
この前戦ったスキンヘッド神官も戦棍という金属製の棍棒を使っていた。
そこにきて、釘バットである。
木製の棍棒にたくさんの釘が打ち付けてある武器だ。棍棒と言えば棍棒なんだけど、あんなもの振り回したらヒャッハーッ!!! と自然に叫んでしまいそうだ。
あんな武器で殴られたら、大量に血が出るんじゃないか?
それって神官職や聖女が使う武器なのだろうか?
「フレッドさんが言っていた件ですが……さっきの人どうですか?」
リリアが、さらっと言う。
確かにフレッドさんは冒険者パーティなら、回復役が必要だと言っていた。
勇者パーティにも聖女がいたわけで、回復役がいれば心強い。
心強いけどさあ……。
「う……そうだな……。追いかけるにしてももう姿が見えないから、また会ったら声をかけてみようか」
「はい!」
あんな武器を使っている理由が知りたい。
女性だから木製武器を好むとしても、あれほど殺意に溢れ、威嚇するような武器じゃなくていいはずだ。
戦闘になるといきなりヒャッハーとか言ったりしないよな?
きっと、あの人は、おしとやかで、可憐な神官だ。それはないだろう。
彼女とはまたすぐにでも出会うような気がした。
☆☆☆☆☆☆
「こんにちは。久しぶり、レベッカ」
「わあ……フィーグっ。ほんと久しぶりね!」
訪れた武器屋で店番をしていた女の子が俺に抱きついてくる。
彼女は幼馴染みのレベッカだ。
会うたびに、こうやって抱きついてくるのは昔と変わらない。
「お、おう、依頼を受けたんだけど、どうかしたのか?」
レベッカは武器・防具職人のおじいさんのこととで悩んでいるという。
また、武器防具の転売——勇者印の武器や防具についても知っているという。
リリアが装備していたものがどんなものなのか、ハッキリさせよう。
それに、強力な装備も揃えたいところだ。