第22話 「死籠もり」の竜人(5)
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リリアとアヤメによって着替えを済ませた竜人の幼女。
服はアヤメのお古だが、なかなか似合っていた。
ひらひらするスカートが可愛らしい。
竜の羽は収納が可能なようだ。
頭に小さなツノがある以外は、普通の人間の女の子に見える。
俺たちはドラゴニュートの幼女をキラナと名付けた。
魔導爆弾にされた影響なのか、時間の流れが不自然なようだが、徐々に治っていくだろう。
「んとね、みんなの声聞こえてたよ!」
嬉しそうに、くるくると回って順に俺たちの顔を見つめてくるキラナ。
キラキラと瞳がかがやいていて、とても楽しそうだ。
「あたしのスキルを治して強くしてくれたフィーグお父さん。
そのスキルにね、リリアお母さんとフレッドお母さんを感じるの」
「……オレはお父さんじゃないのか……まあ相手がフィーグならお母さんでいいや」
なぜかリリアとアヤメがフレッドさんをギロっと睨む。
「アヤメお母さんは、生まれてからずっとあたしを抱いてくれてた。優しくお世話をしてくれた……。お風呂にも入れてくれて……」
「ま、まあ……アタシは……赤ちゃんかわいいし」
照れながらもアヤメは嬉しそうだ。
何気に世話好きなんだな、アヤメ。
まるで我が子のように見つめる眼差し……とはいえ、子供が子供をあやしているようにしか見えない。
こんなことを言うと怒られそうだが。
「フィーグお父さん大好き!」
キラナは俺の顔を見るたびに、そう言って抱きついてくる。
その勢いはなかなかのもので、さすが竜人族だと言わざるを得ない。
おかげで、身体の筋肉が鍛えられていく。
「おとうさん、一緒にお風呂入ろ?」
「お兄ちゃんばっかりズルい。アタシも入るの」
「いいえ。私が……」
「じゃあ、みんなで入ろ?」
誰が彼女をお風呂に入れるのかアヤメとリリアが張り合ってその権利を奪い合う日々。
うちの風呂は狭いので俺は流石に遠慮して三人で入ってもらっている。
ナチュラルに俺が誘われているが、キラナはともかく、リリアや実の兄妹とは言えアヤメと一緒にはいるのは気が引けた。
というか、あの集団に男が挟まるのは、どうにもギルティなのだ。
あのふんわり百合フィールドに男が挟まってはならない。
いつも、風呂場からは三人のきゃっきゃっとはしゃぐ声が聞こえ、それを聞いて眠るのがいつもの日課になっていく。
キラナは昼間は神殿に預け他の子供たちと過ごし、朝と晩はアヤメ、俺、リリアで面倒を見ることになった。
竜人の子供だとは誰も思わない。伝説上の種族がまさか、こんな田舎にいるなんて、思いもしない。
ギルドが彼女にどういう判断を下すか分からないが……フレッドさんもいるし不本意なことにはなりにくいだろう。
俺はしばらく、このままでもいいと思う。
竜人の一族が存在するとして、そこに返すかどうかは彼女の意向も含め考えていこう。
キラナと一緒に街を散歩するのも日課になっていく。
ある日、いつものように散歩をしていると、近所のお婆さんから話しかけられた。
「あんなに小さかったフィーグに子供ができるとはねぇ……時が経つのは早いねえ。で、嫁さんはリリアさんかい?
それとも、あの幼馴染みのレベッカちゃんかい?
まさかアヤメちゃん……は、妹だから違うとして……」
「盛り上がってるところ悪いけど、違いまして……実は……」
時々俺の子供だと本気で勘違いする人もいて……俺は頭を抱えている。
☆☆☆☆☆☆☆
「ギザたちはどうなったの?」
「アイツらは、騎士エリゼ様が全員しょっ引いていったよ。王都に連行するらしい。
俺たちやギルド職員、さらには公爵や騎士も危険に晒したわけだからな。
ただじゃ済まないだろう」
「まあ、そうか……」
「騎士エリゼ様は、それはそれはもの凄い剣幕だった。
魔導爆弾にかなり悩まされていたらしい
フィーグが目覚めないことも気にされていたようだ」
「そっか。じゃあ、また元気な姿を見てもらわないといけないですね」
「ああ。色々とギルドのためにも動いてもらっているし、随分とフィーグと懇意にしているようだし、暇ができたら王都に出向いて話をして貰えると助かる」
「そうですね」
追加で話を聞いたところによると、王都ギルマスが黒幕ということだが——本当だろうか?
王都のギルマスとはあまり接点がなかったが、気になる話だ。
☆☆☆☆☆☆
俺は念のため数日休養を取らされた。
心配性のリリアとアヤメ、さらにはフレッドさんによって。
アイツら交代で俺を見張り、外に行かせてくれなかった。
せっかく冒険者の資格も取ったのに。
うずうずし始めた俺は、休養明けに、さっそく冒険者ギルドに向かう。
早速フレッドさんに依頼をもらおう。
「依頼の前に、パーティランクについてだ。
ギルドで話をした結果、フィーグとリリアのパーティは、Cランク、つまり銀等級からスタートに決定した」
「そうですか。まあ規定どおりってヤツですね」
「本当は、Aランクにそれぞれが楽勝してたわけだから、Sランクでもいいと思ったのだが、こればっかりは規定でな。勘弁してくれ」
「いいえ、大丈夫です。いきなり難しい依頼が来てもアレですし、そもそも俺自身は一人だと戦闘力がないので」
「OK。
さて本題だ。既にフィーグ指定の依頼がある。
フィーグの幼馴染み、レベッカちゃんからの依頼だ。
彼女は武器防具の装備屋をやっているわけだが、アクファ同盟のバカ共が市場に悪影響を与えていたようでな。あまり良くない状況らしい」
レベッカ。子供の頃、よく一緒に遊んでいた幼馴染みだ。
確か、鍛冶屋のおじいさんとお店をやっているんだっけ。
会うのは久しぶりだな。顔をしばらく出してなかったから何か言われそうだ。
装備を新しくしたいので、ちょうどいい。
俺はリリアと一緒に、レベッカが営む武器屋に向かった。
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