第01話 追放と勇者・王都ギルマスの悪だくみ
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「フィーグ、お前の正式採用は無しにしたいと思うのだ。いいな?」
「えっ!? どうしてですか!」
勇者パーティ試用期間の最終日。俺は勇者アクファに呼び出された。
田舎から王都にやって来て、俺は勇者パーティの正式メンバーになるために頑張ってきた。それなのに、戦力外通告だ。
「悪いな、さっき決めた。理由は分かるな?」
「分かりません。今までずっと、パーティメンバーのスキル整備をしてきたじゃないですか!? 今までの採用してやるとの言葉は、嘘だったのですか?」
正式に勇者パーティの一員となれば、王国からの支援も受けられ、より多くの報酬が貰えるようになる。
俺は勇者パーティのメンバーに、正式に採用されると思っていた。頑張っていれば、悪いようにはしないとも言っていた。
いきなり試用期間が終わり採用無しと言われても、準備ができていない。
万が一に不採用となった時のために準備しようとしたのだけど、勇者アクファは必ず採用するからと、俺の手を止めたのだ。
「悪いな、俺がさっき決めた。理由は分かるな?」
「分かりません。
今までずっと、必死にパーティメンバーのスキル整備をしてきたじゃないですか!?
今までの言葉は、ウソだったのですか?」
正式に勇者パーティの一員となれば、王国からの支援も受けられ、より多くの報酬が貰えるようになる。
そうなれば魔法学院に通う、妹の学費の支払いにも余裕ができる。
俺たち兄妹には親がいない。
だけど妹には精霊召喚士の才能があるので、魔法学院に通って勉強して欲しい。
そのために、一生懸命頑張ってきたのに。
「お前のスキルメンテとかいう外れスキルがゴミだと分かったからだ。この、役立たずが!」
「そんなことはありません! 俺のスキルは多くの人に認められています。
勇者アクファ、あなたのスキルもいずれ暴走するでしょう。その前に整備を——」
「俺の勇者スキルは暴走などしないのだ」
「違います。実際、俺が来る前に一度暴走したことがあると聞いています」
ダンッ!
勇者アクファは強く机を叩いた。大きな音がして机の上のものが揺れる。
「暴走はその一回限りだ。もう暴走などしないのだ!」
スキルの暴走は適度な休息を取っていれば防げる。
しかし勇者パーティには多くの依頼があり、そのどれもが難易度が高い。
本来なら多くの休息が必要になる。
その休息期間を短縮するのが俺の「スキル整備士」だったはずだ。
「ですから、スキルは酷使することでいずれ暴走します。
メンバーのスキルを瞬時に回復、覚醒させてきたのは俺です。
今まで役に立っていたじゃないですか!?」
「なあ、フィーグ。俺はお前の一々口答えする態度が気にくわなかったのだ!
しょせん凡人以下なのだから、勇者の俺に言われたことだけをやっておけば良かったのだ!」
「俺は……ずっとあなたの言うとおりにして来ました」
勇者アクファは俺に「戦闘中は余計なことをするな、見ているだけにしろ」と俺に命じていた。
戦い方を提案すると、勇者アクファは「お前に何が分かる?」と聞く耳も持たなかった。
チャンスすら与えて貰えなかった。
「俺の完璧な指示があったのに、お前は何一つ役立たなかったのだ!
役立たずだったから辞めさせたという理由も通る。
ハハ、本採用の前に残念だったな!」
「ですから、俺はパーティーみんなのスキルの整備を——」
「違うだろう! お前は何もしておらず、パーティにいる聖女セイラによって体力も含め回復できていたのだ。
休息は元々要らなかった!」
「その認識が……間違っているのですが?」
「はは、そんなわけあるまいて。
実際俺サマの勇者スキルは、お前のスキルの世話にならなくても、暴走などしていないでは無いか!」
「いいえ……今の依頼のペースだといつかきっと暴走します」
「デタラメ言いおって。この能なしめ。どうだ、うまかったか?
俺の活躍で得た報酬で食う飯は!?」
「……あなたは、間違っている」
「俺は勇者だ。間違うわけがないのだ!
それに比べ無能のお前は……何もせずとも報酬が貰えるなど、羨ましいわ、本当に!」
勇者アクファはさらに口元を歪めて続けた。
「だいたい、スキル整備と言って女の体にベタベタ触りおって。
スケベ心で触りたいだけだろう? お前が考えていることなんてお見通しなのだ!」
「直接触れた方が短時間で済むと、何度も説明したでしょう?」
「フィーグ、お前はまだ口答えするか。ギルドの依頼でお前を受け入れていたが、とんだ食わせモノだったのだ。これ以上話すことはない!」
結局、最後まで俺の話を聞いてもらうことはできなかった。
くそっ。これまでさんざん勇者パーティに貢献してきたつもりなのに、その仕打ちがこれか。
「お前が勇者パーティに所属していたという事実だけでも許しがたい!
フィーグに命じる。今すぐ、俺サマの前から消え失せろ! 追放だ!」
こうして、俺は一方的に勇者パーティを追い出されてしまったのだった。
*****
勇者アクファがフィーグを追放し、パーティを追い出してから数時間後。
軽い足取りで、王都冒険者ギルドへ向かう勇者アクファの姿があった。
「なあ、デーモ。やっとアイツを追い出したのだ」
勇者アクファに話しかけられた新任ギルドマスター、デーモは報告書の束をパラパラとめくった。
「フィーグと言ったか? 分かった、手続きは任せておけ。自主退職だと上には伝えておく」
「助かる。だが俺様の一存で追い出したことは隠しておきたい」
「ふむ。口封じでもするか?」
「そうだ、そういえば、俺が名前を貸しているパーティがいただろう?
あいつらは俺の言うことなら何でも聞くし、腐ってもSランクパーティだが……」
「そのパーティに依頼するのか?」
「うむ。フィーグを追わせ、痛めつけさせろ。何か聞かれても知らないと言わせるんだ。どうせ、アイツは前線で戦えないボンクラだ。楽勝なのだ」
「ハッハッハ、お前が言うならそうなのだろうよ」
「俺サマが追い出したときのアイツの顔、見せてやりたかったのだ」
勇者アクファは、足を組み、ドカッとギルドマスター室のソファに座る。
「だいたい、周りの者どもはフィーグのスキルが素晴らしいとか言っていたが、
そんなはずがないのだ! 俺サマの勇者スキルのがよっぽど凄いのだ!」
「ああ、あの暴走以来、相当強くなったという勇者スキルか」
「そうだ。それなのに色々文句を付けやがって……。
だが、追放だと言ったときの顔を思い出すとぐふっ。笑えてくるわ」
二人はガハハハと笑い酒を酌み交わした。
そして別の悪だくみを始める。
——これから先、王都冒険者ギルドをどのように操っていくか。
集まる多くの報酬を、どうやって横領するのか。
冒険者からどうやって金を巻き上げるのか。
「そういえば、俺サマが見つけたミスリル鋼の鎧はどうなった?」
「勇者印を付けたおかげでよく売れるわ。それに安い武器は全て買い占めて、品薄になっている。
おかげで、レベルの低い冒険者は嫌でも勇者印の鎧を買うしか無い。笑いが止まらないほど売れている」
「さすが俺様の印だなぁ。ワハハハハ。さらに転売もしようと思うのだ」
「勇者アクファ、あなたは最近人が変わったように悪知恵が働くようになったなぁ。頼もしい限りだ。ぜひ転売もやろう。じゃあ、どうやって転売を——」
武器の買い占め、そして転売を目論む勇者に、王都冒険者ギルドマスターという立場を利用して、甘い汁を吸おうとする男。
二人はまだ気付いていない。
割と早い時期に、そのもくろみが崩れ去ることを。
今ある地位を、失っていくことを。
いや、地位どころか——。
新連載です。
お読みいただき、本当にありがとうございます。
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